第59話 駆け出し冒険者パーティ、パットン
晴れてローラント、アンナ、エマのパーティに加入したセリナ。
この後さっそく受けた依頼をこなしに行くというので、同行することに。
大通りを抜け、街の外へ。
小麦畑を抜け、検問も通り、外れにある森へと歩いて行く。
その道中で話すのは、今回受けた依頼内容とローラントたちの冒険者としての実力だ。
「じゃあ、皆さんまだ駆け出しなんですね?」
「ええ。冒険者を初めて半年にはなるけど」
「全員、まだ鉄鋼」
そう言って、首に下げている鉄鋼製2枚のドッグタグを見せるエマ。
冒険者には能力や実績によりランク分けされており、駆け出しの鉄鋼から真鍮となり、青銅で一人前とされている。
このさらに上には白洋、白銀と続くが、ここに至るのはごく数名。
頂点クラスである黄金、白金は世界を探しても数人しかいない。
クラスが上がるたびに該当する金属で作られた2枚一組のドッグタグが支給される。
依頼中、何らかの理由で死亡し、遺体回収が不可能となった場合はこのドッグタグの片方を持ち帰る決まりだ。
ドッグタグには登録者の名前と紋章が刻まれているのだが、実は魔道具。
冒険者ギルドで住所や親族の名前を読み取る事が出来るようになっている。
「パーティ名はパットン。サトリウス教の神様の一人さ」
「私たちは孤児院出身だから、まずは足元をしっかり固めないと」
「まぁ、正確には装備を買うお金が無くて、大きな仕事を受けられないだけなんだけど」
「でもここから。ウチたちはでっかくなる」
「なるほど……」
実はこれがローラントたちがセリナを受け入れた理由のひとつ。
まだ駆け出しであり、魔物退治やダンジョン攻略などを行わない自分達ならば、幼く【無紋】であるセリナが居てもそこまで支障にならないと考えたからだ。
もし、彼らがバリバリの冒険者であり、危険な仕事を請け負う青銅クラスであったならば、また話は変わっていただろう。
「それで、今日受けた依頼というのは?」
「森の奥にある湖周辺で取れる特殊な薬草の調達依頼だよ」
「私達の得意分野なんだ」
「しょぼくて受ける人が少ないだけともいう」
話を聞くだけでも簡単そうな依頼である。
この森は街に近いだけに凶悪な魔物もおらず、探索はそう難しくはない。
そのため、シェリダンの街の冒険者たちからは「初心者の森」の愛称で呼ばれている。
実際、この森での素材回収依頼のいくつかは、冒険者ギルドが発注したものであり、日々鉄鋼クラスの駆け出し冒険者達が冒険のイロハを実地で学んでいるのだ。
『ふむ……確かにこの森は人の出入りが多いようじゃ』
(スーおじいちゃん、分かるの?)
『ほっほっほ。探知魔法を使ってみるが良い』
(わかった、やってみる)
スードナムに言われ、ローラントたちと一緒に歩きながら探知魔法を使うセリナ。
魔力反応を察知する魔力波が放たれ、周囲にいる人間や動物、魔物を探知する。
(うわぁ、結構いるんだね)
『強い魔力反応もないようじゃ。ここは平和な森なんじゃのう』
セリナが察知出来る範囲だけでも、十数人の冒険者らしき人物が確認でき、動物や魔物の反応も察知できた。
「初心者の森」というだけあり、人も魔物も魔力反応は弱い。
それこそ、インクにいたイノ、パベル、ルフジオらはおろか、特待生の子達よりも反応は低い。
前を歩くローラント、アンナ、エマも同様だ。
この程度のレベルであれば駆け出し冒険者である鉄鋼クラスでも安心して森を探索できるだろう。
反応を探れば、魔物と戦っていたり、森の実りを採取していたりとさまざまだ。
スードナムはセリナよりはるかに広範囲を探知できるが、よほど森の奥まで行かない限りは安全。
強い魔物が街近くに来ている様子もないらしい。
周囲の安全を確認したセリナは、隣にいるアンナといろいろと話しながら森の中を進む。
孤児院に居た時からアンナは土魔法が使え、エマは勘が鋭く、ローラントは一番動けていた。
同い年という事もあり仲の良かった3人。
成人となり孤児院を出る時にはそのままサトリウス教の神父やシスターになったり、街の食堂や商店に住み込みで働くという選択肢もあった。
しかし、3人は受章の儀でそれぞれ【剣士】【土魔法士】【斥候】を獲得。
これなら一旗あげる事が出来る、と冒険者になったのだという。
「仲がいいんですね。……あれ、でもまだ鉄鋼?」
「よ、世の中そんなにうまくいかなくて……」
勢い勇んで冒険者になったものの、孤児院を出たてではお金もなく、寝る場所にすら困る状況。
ならばと高収入の依頼を受けようとしたが、実力不足を理由に弾かれてしまう。
受けられたのは低ランクの討伐依頼だったが、簡単な魔物退治すらおぼつかず収支はトントン。
これはまずいとローラントは冒険者ギルドが行っている剣術訓練に、アンナは魔法訓練、エマは探知訓練に参加し足元を固める事に。
だが、もともと剣術や魔法とは無縁の生活をしてきた彼女たち。
成績はお世辞にも良いとは言えず、ローラントに至っては毎回体中に痣を作って帰ってくる始末。
これにはセリナも表情を引きつらせるが、当のアンナたちは笑っている。
「でも、私達これ位じゃへこたれないよ!」
「孤児院での生活を楽にできるくらい稼いでやるんだ!」
「実力はついて来てる。まだまだこれから」
彼女たちは一旗揚げる事をあきらめていない。
それは自分たちが有名になれば、孤児院の子供たちの励みになり、また目標となれると信じているからだ。
「だからまずは、目の前の依頼からひとつひとつ、ね」
「よし、着いたぜ」
「ここが目的の湖」
「うわぁ、綺麗……」
そうこう話していると遂に目的地に到着。
森の中にあって湖はかなり大きく、水面はキラキラと太陽の光を反射。
水は透明度が高く、はるか先の湖底もはっきりと見えるほどだ。
「エマ、魔物の気配は?」
「……大丈夫、ない」
「よし、じゃあ手分けして探しましょう。セリナは私と一緒ね」
セリナは初めて見る湖の美しさに見とれてしまっていたが、アンナたちは何度も来ていて見慣れている。
【斥候】のエマは探知魔法を使い周囲を索敵。
障害となる魔物が居ない事を確認し、目当てである薬草を手分けして探す事に。
なお、初めてであるセリナははぐれないようアンナと一緒だ。
探すのは湖の縁と周辺の森の中。
希少性は高くないらしく、少し探したところですぐに発見できた。
「セリナ、やってみる?」
「いいんですか? やってみます!」
「葉っぱを2、3枚千切ってね。全部取ったり根っこから抜いたりしたら駄目よ」
「はい!」
アンナの手ほどきを受け、セリナが薬草採取に挑戦する。
とはいっても、見た目はそこら辺に生えている雑草と同じ。
よくよく見れば葉の形に特徴があり、すこし青みがかった色をしているという程度。
湖の傍でしか生えていないという事だが、逆に言えばその周辺ではよく生えているという事らしい。
一人が一度に採取できる葉の枚数と、葉を残す事、根を抜いたりしない事が冒険者ギルドで定められている。
これは乱獲による薬草の絶滅を防ぐため。
薬草採取ひとつにもルールがある事をアンナから聞きながら、セリナは制限枚数まで薬草を回収。
布袋にいれ、再度湖の縁でローラントたちと合流。
シェリダンの街への帰路についたのであった。
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