第17話 初めての魔法
神聖魔法の授業が始まって10日ほど。
一日のうち半分が神聖魔法の授業となっている中、力なくぐったりと机に倒れ込むセリナの姿があった。
「ふへえぇ~~~~」
「あら、どうしましたのセリナ。そんなにぐったりして」
「魔りょ……じゃない、神聖力の授業が大変で……」
「神聖力の? 女神様にお祈りして力を引き出してもらうだけではありませんこと?」
「そうなんだけど……はあぁ~……」
「変なセリナですわね……」
神聖力を目覚めさせることは初日のわずか数分で成功している。
その後は全てスードナム指導の下、魔力操作の訓練を行っているのだが、これがまた難しいのだ。
最初に教わったのはセリナの持つ膨大な魔力の中から規定量を分離すると言う物。
一滴の雫、小さなコップ1杯、標準的なバケツ、大きい時は浴槽サイズなど。
スードナムはこれを寸分の誤差も許さない精度で要求してきた。
その次に魔力の循環。
体中をめぐらせ、腕足、指先、そして髪の毛の先にまで感覚を研ぎ澄ますように巡らせる。
さらにさらに魔力の渦。
これはセリナの中にある魔力に渦を発生させると言うもの。
渦の発生自体は簡単ですぐ出来たが、スードナムはなんとこれを複数発生させることを要求してきたのだ。
1個が2個、2個が3個。
今のセリナでは4個が限界だが、スードナムによればこれだけの魔力があれば1万個は出来ると言われ気が遠くなる思いがしたのが昨日の出来事だ。
膨大な魔力を持っていたとしても、ほんのひと月前までは自分に魔法の才があるとは全く思っていなかった女の子。
四苦八苦しながら頑張ってはいるが、それでも精神的疲労は隠せなかった。
「なんだぁ、平民の特級生は神聖力も感知できないのか?」
「130000の神聖力も持ち腐れだなこりゃ」
「失礼ですわよ、あなた達!」
「イノ、いい。気にしてない」
セリナがぐったりしているのを、神聖力の感覚が掴めないと勘違いした特待生の子が冷やかしてくる。
が、セリナはこれを無視。
むしろ「あなた達もやってみればいい。すっごく難しいから」と心の中で言い返していたほど。
『ほっほっほ、難儀しておる様じゃの』
(スーおじいちゃんがこんなに厳しいなんて思わなかった……)
『なに、ワシが四六時中一緒におるのじゃ。危険度外視して育成しても問題ないからのう』
(おにー、あくまーーー)
『ふぉっふぉっふぉ、聞こえんのう~~~』
そんなセリナの脳内で繰り広げられる、スードナムとのやりとり。
スパルタ教育にセリナが文句を言っているが、スードナムはこれを気に留めず軽くあしらう。
もちろんセリナも分かった上で言っており、その様子は完全にひ孫と戯れるおじいちゃんだ。
「あら、先生が来ましたわ」
「今日も続きなのかな?」
そうこうしていると神聖魔法担当の教師が入ってきた。
机を離れ自由にしていた子達もすぐに自分の席に戻り、今日の授業が開始される。
「では今日の授業を始めます。皆さんの祈りは十分女神さまに届いたようですので、次のステップです」
教師の言葉に、今日もお祈りかと思っていた子供たちがにわかにざわついた。
10日に渡り祈りを続けるだけと言う内容に辟易していた子供も多く、いよいよ神聖魔法が使えるのかと沸き立ったのだ。
「やってもらうのは神聖魔法の初歩【ライトボール】。まず私がやって見せます」
そう言うと教師は目をつぶり詠唱を開始。
すると、教師の正面に光る球体が出現した。
「おぉー」と声が上がる教室。
教師は生徒たち全員が【ライトボール】の発生を見届けたのを確認すると、すぐに消失させた。
「英知の女神セルタリアーネ様に祈り、道が開けたあなた達であればすぐに出来るようになるでしょう。まずは私に続いて詠唱を覚えなさい」
そこから始まるのは歌の稽古のように教師の詠唱を復唱する訓練だ。
ただ光り輝く玉を発生させる【ライトボール】の詠唱はそれほど難しくなく、十数回も繰り返せば覚えるのも容易い。
「それではみなさん、意識を深く落としてセルタリアーネ様に祈り、詠唱してください」
教師の合図で、皆すぐに手を組んで祈りに入る。
今までのように深く集中。
そしてたった今習った詠唱を行った。
すると……。
「で、出来ました! わたくしできましたわ!」
「な、なんだ簡単じゃねぇか!」
「これが僕の初めての神聖魔法か……悪くない」
セリナと同じ特級生の3人は一発成功。
後ろを向けば特待生の子でも何名かは光りの玉を作り出すことに成功している。
出せていない子は焦りからか眉間にしわを寄せ、必死の形相で詠唱を繰り返していた。
そして当のセリナはと言うと……。
(ど、どうしようスーおじいちゃん……)
『ふむ……ちと早いがまぁよかろう。やってみぃ』
(えっと、お祈りすればいいの?)
『なぜそうなるのじゃ……』
セリナの問いに呆れた声で返すスードナム。
彼の中ではすでに神聖魔法と神、祈りは関係ないものとして扱われている。
『魔術の発現はイメージじゃ。詠唱は補助にすぎん』
(そうなの?)
『自分の前に魔力を出すがよい』
(ど、どれくらい……?)
『む、そうじゃな……コップ一杯……は多すぎるの。水のひと雫じゃ』
(それだけ!?)
『それでも多すぎるくらいじゃの。あとは……セリナよ、おぬしが思う物で一番明るいのは何じゃ?』
(明るい物? えっとね……お日様!)
『ほっほっほ。よかろう。太陽の光をイメージしながら詠唱するのじゃ』
(分かった、やってみる!)
スードナムの指示を受け、セリナが手を組み集中、意識を潜らせる。
体の奥深く、壁のない広い空間に溜まっている魔力の海から、たった一滴だけ魔力を抽出。
その一滴が太陽のように光り輝くのをイメージしながら、小さな声でゆっくりと詠唱を行った。
瞬間。
「きゃあっ!」
「うおっ、眩しッ!」
「うわぁっ!」
「な、なんですこの光は!?」
セリナの前に球体が出現し、教師がお手本として発生させた物よりもはるかに明るく光り輝きだしたのだ。
あまりの眩しさにセリナは顔を背け、横にいたイノ達も慌てて目を覆う。
『ふむ、やはり強すぎたか』
(スーおじいちゃん、これどうしたらいいの!?)
『消える様命じるが良い。この程度ならそれで消えるじゃろ』
(わ、わかった!)
スードナムのアドバイスを受け、セリナは球体に消える様念じる。
すると光がみるみる弱くなり、何事もなかったかのように消滅した。
突然の出来事に「ふぅ」と息を吐くセリナ。
周囲からも何が起きたのかと視線が集まり、他の子を指導していた教師が焦った様子で駈け寄ってくる。
「セリナ、今何をしたのですか?」
「先生の言う通り【ライトボール】を唱えました」
「あ、あれが【ライトボール】だというのですか?」
教師の質問にあっけらかんとして答えたセリナ。
だが、当の教師はセリナの言葉を聞いて愕然としていた。
「……いえ、分かりました。ではセリナさんは少し自習をお願いします。他の子がまだ終わっていませんので」
「はい……」
セリナの回答に疑問を持ってはいたようだが、何かしら考え込んだ後、自習をするように告げ他の子の方へ歩いて行く教師。
去ってゆく教師の背を見送った後、セリナは視線を前へと戻す。
すると横に居るイノやパベル、ルフジオらの視線がいまだ自分に向けられている事に気付く。
セリナは視線を笑ってごまかすと、机の中から女神像を取り出し、机の上において手を組み祈りを捧げる。
……ふりをしてスードナムに話しかけるセリナであった。
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