第14話 入校祝賀会
セリナが叩き出した130000と言う神聖力。
そのあまりの数値に、生徒たちはおろかマルク司教までも絶句していた。
「し、司教様……これは間違いのない数値なんですの?」
「え……マジ……え?」
「こんな事が……あり得るのか?」
「とりあえずみんな席に着きましょう」
マルク司教に言われ、セリナの傍に集まっていた同級生たちが自分の席へと戻ってゆく。
セリナも使っていた測定器をファリスに返し、同じく席へ。
「えー、多少の想定外はありましたがこれで皆、今の神聖力が分かったと思います」
教卓に着いたマルク司教の表情は普段の優し気な物に戻っており、先ほどの数値をうやむやにするというやや強引な形で話を進める。
生徒たちの中には訝し気な表情をしている子もいるが、口に出すことも出来ず黙っていた。
「君達の神聖力はまだ成長の余地を大きく残しています。インクで神聖力の使い方と増やし方を習得すれば、10万、20万の神聖力も夢ではありません」
この言葉に、同級生の中では神聖力が低かった子たちの手に力が入る。
幼いとはいえ、彼らにも貴族の矜持はあるのだ。
自分の家よりも低い爵位の者、ましてや平民に負けるなど許されず、隙あらば上の者さえ食ってしまおうと目をたぎらせる。
そんな子供たちの心意気を知ってか、注意事項を付け加えるのも忘れない。
「なお、インクで神聖魔法、神聖力訓練を教わるまで自主トレーニングは厳禁です。気がはやるのも分かりますが、今はまだ入校したばかり。焦らないように」
そう言って気の張った子供たちの力を抜けさせる。
その後は今後のカリキュラムの説明、年間行事など簡単な説明を行い、解散。
マルク司教はファリスを連れて教室を後にした。
貴族の子供たちは、貴族寄宿舎にて親も参加できる入校祝いのパーティーが予定されているため、早めの下校。
寄宿舎住まいの平民出の子供たちも同様で、寄宿舎の先輩たちが新入生歓迎パーティーを用意してくれている。
セリナは当然、平民寄宿舎の歓迎パーティーに参加の予定……だったのだが。
「セリナさん、よろしければわたくし達のパーティーに参加なさいません?」
「えっ?」
声をかけてきたのは、隣の席に座っていたイノハートだ。
「せっかく特級生になったんですもの。ぜひお越しになってくださいませ」
「わ、私が行ってもいいの……?」
「もちろんですわ!」
綺麗な栗色縦ロールを揺らし、笑顔で語るイノハート。
だが、そんな彼女に特待生の子達の反応は悪かった。
「そ、そいつは平民なんだぞ!」
「お前、イノハート嬢に誘われたからっていい気になるなよ。立場をわきまえろ」
「そうだそうだ!」
特級生とは言えセリナは平民。
それが貴族のパーティーに出るとあっては、自分たちのメンツがないと貴族の特待生たちから非難が出る。
さらに……。
「それに、さっきの数値だっておかしいじゃないか!」
「なにかイカサマしたんだろ! そうじゃなきゃあんな数値でるもんか!」
「さっき壊した計測器、弁償しろ!」
「お、おいお前ら……!」
セリナの測定結果に不満を持つ特待生がここぞとばかりに突っかかってきたのだ。
130000という文字通り桁違いの数値に、検査をごまかし自分達を差し置いて特級生になった、と。
ヒートアップしてゆく特級生たちに危機感を覚えたルフジオが止めに入ろうとしたとき。
イノハートが腕を組んで堂々と言い放った。
「あら、あなた方オリファス教会の測定結果に異議を申し立てるのですか?」
「うっ……」
「そ、それは……」
「壊れた測定器はもとより、2回目に使用したのは現役の聖魔導士の方にも使う物。測定ミスなどありえませんわ。ましてやイカサマなど……」
イノハートの反論に何も言い返せない特待生たち。
彼女の言う事はもっともで、疑いようのない事だ。
しかし、あまりにも常識外れな数値と平民と言う身の上、貴族のプライドから認められないでいた。
それを知ってか知らずか、イノハートは言葉をつづける。
「あなた方は、セリナさんが居ることをチャンスと思いませんの?」
「は?」
「チャ、チャンス?」
「セリナさんはわたくしの数倍の神聖力をお持ちですのよ? そんな方と同期だなんて、幸運この上ありませんわ!」
イノハートには平民、貴族などと言うこだわりがないのだろう。
セリナの測定値を受け入れ、ともに学ぶ友として見ているのだ。
だからこそ、先も見据えて平民寄宿舎のパーティーではなく貴族のパーティーに招待したのだ。
それはもちろん、セリナだけではない。
「もちろん、レリックとパトリックもご招待いたしますわ! わたくしの家族に皆様をご紹介させてくださいませ!」
「えぇっ!?」
「ぼ、僕たちも!?」
急に名前を呼ばれ、驚くレリックとパトリック。
二人はセリナと同じく平民出の特待生であり、神聖力は特待生平均よりも高い。
とは言っても特級生から見れば低く、まさか自分達まで貴族のパーティーに呼ばれるとは思っていなかった。
「イノハート嬢、やめた方がいい」
「あら、パベル。あなたもみなさんの参加に反対なのですか?」
「いや、そうじゃない。出席しても恥をかくのは彼女たちだ、と言ってるんだ」
「どういう事ですの?」
「服装、言葉遣い、マナー。僕たちは目を閉じてても出来るけど、彼女たちはそうじゃないだろ?」
「それは! そう、ですわね……」
セリナ達平民組はほんの数日前まで普通の暮らしをしていたのだ。
それに対し、イノハートたち貴族は物心つく前から貴族としての礼儀作法を習っている。
貴族のパーティー、それもイノハートの様な侯爵家も参加するようなパーティーなのだ。
当然相応のマナーを身に着けていなければ務まらない。
インクの学習指導要領としてこの辺りのマナーも入っているのだが、セリナ達は当然まだ習っていない。
身だしなみも平民としては頑張っているが、上流階級としては全く話にならない。
「分不相応なパーティに出ても馬鹿にされるだけだ。やめておいた方がいい」
「で、でもですわ!」
「あー! ストップストップ!」
イノハートと視線も合わせず言い放つパベルにイノハートが突っかかり掛けた時。
間にルフジオが割って入った。
「イノハート嬢、今回はパベルが正しいぜ。これから6年は一緒なんだ。彼女たちはまた次の機会に招待しよう」
「う……うぅ~……はい、ですわ」
「セリナ嬢もすまないな、突然」
「ごめんなさい、セリナさん……」
「い、いえ、お気になさらず……」
ルフジオがイノハートをなだめ、パベルとの仲介役となったことでこの件は終結。
セリナ達はそのまま寄宿舎の歓迎会、イノハートたちは貴族家の祝賀会に参加することとなった。
なお、もしイノハートに押されたら、平民であるセリナたちに拒否権はないも等しく。
いきなり名前を呼ばれたレリック、パトリック両名も参加しなくて良くなり、ほっと胸をなでおろしたのであった。
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