第13話 神聖力検査
マルク司教から返される神聖力検査結果に一喜一憂する特待生たち。
そして20人の特待生全員に検査結果が返され、残すは特級生の4人となる。
「では特級生の皆さんですね。まずは……ルフジオ・ルベ・ブルデハルム」
「はいっ!」
「32900です。とてつもない神聖力ですね」
「やった……!」
発表されたルフジオの神聖力に、教室がまたもざわついた。
特待生たちのトップは28000。
そこから5000近く高い神聖力の数値に、皆驚きを隠せないのだ。
さすが特級生。
そんな雰囲気が立ち込める中、マルク司教は次に移る。
「パベル・サファ・リンドパーク」
「はい」
「36100です。立派な聖魔導士を目指してください」
「ありがとうございます」
ただでさえ異次元だったルフジオからさらに高い神聖力を記録したパヴェル。
確かにルフジオは聖騎士志望で、パヴェルは聖魔導士志望であるためこの順位は妥当かもしれない。
だが、今年の入校生数百人のトップ4はここまで桁が違うのかと、特待生たちも言葉を失う。
マルク司教はそんな特待生たちを一瞥した後、本命とも言える名前を告げる。
「イノハート・エメ・ホーケンブルス」
「はい!」
「41300。素晴らしいですね。インク創立以来最高値です」
「ほ、本当ですの司祭様!」
「えぇ。しっかりと神聖魔法を学べば、きっと聖女の紋章を授かるでしょう」
「わぁ、ありがとうございます!」
まさに規格外。
ルフジオ、パベルも高かったがイノハートの神聖力はそこからさらに高い数字を誇っていたのである。
その数値は800年近い歴史を持つインクの歴史の中でも最高値。
あの聖女アリアナ入校時の数値をも超えていた。
それを聞いたイノハートは大喜び。
夢であり目標である聖女の紋章に一歩近づいたと、ご機嫌な様子で席に戻る。
「では、最後に……」
ニコニコ顔のイノハートが席に着いたのを確認したマルク司教が視線を向けたのは4人の特級生最後の一人。
セリナである。
これに対し、当のセリナは顔に疑問符を浮かべ、首を傾げていた。
それもそのはず、セリナは神聖力の精密検査など受けていないのだ。
「あの……」
「最後のセリナは実際に測ってみましょうか」
「えっ?」
マルク司教の一言に、セリナはおろか特待生、特級生全員から不思議そうな声が上がった。
本来であればすでに図り終えている神聖力。
なぜまた測定する必要があるのかと疑問符を顔に浮かべている。
「ファリス」
「はい、マルク司教様」
そんな生徒たちを他所に、マルク司教はセリナを連れてきたまま入り口に立っていたファリスを呼び、測定器具らしきものを受け取った。
「セリナ、こちらへ」
「はい」
次にセリナを呼び、近くまで来たところで腰をかがめた。
「では、これを持ちなさい」
「こうですか?」
「はい、いいですよ。それではみんな近くへ。セリナの測定値は目で見てもらった方が早いでしょう」
そう言うと生徒たちは皆一斉に席を立ち、セリナとマルク司教の傍に集まる。
オリファス教の測定が間違っているなど皆疑いもしていないが、平民のみでありながら特待生の自分達を差し置いて特級生になるセリナの神聖力が気になるのだ。
それは同じ特級生の3人も同じこと。
「セリナさんはそんなにすごい神聖力をお持ちなのですか?」
「俺達よりも多いのか?」
「……ふん」
席が近かった事もあり、最前列からセリナが持つ計測器をのぞき込んでいる。
そして当のセリナは……。
「これ、どうやって使うんだろう……」
計測器の使い方が分からず、困惑していた。
昨日マルク司教の部屋で使ったものはランタン形状だったが、今回の物は板状。
手元に握る部分があり、先には目盛りと針が付いていた。
『ふむ……これはそのまま握ればよさそうじゃな』
「握れば……こう?」
スードナムに教えられ、握る部分をしっかりと持った、瞬間。
―――バチッ!
「む……!」
「きゃあ!」
「うわっ!」
「ちっ!」
計測器から何かが弾けるような音と共に火花が散り、煙が立ち昇ったのだ。
火こそ出ていないが、所々焦げており、教室には焼けたにおいが充満した。
「あ、あの……司教様……」
「なんと……これほどとは」
セリナはもちろん壊そうなどと言う気は全くなかった。
ただ言われた通りに握っただけ。
ではあるのだが、状況はどう見てもセリナが壊した、と言う形だ。
神聖力を測る魔道具が安いはずもなく。
いったいどれだけの値段がするのかとセリナの表情はみるみる青ざめ、泣きそうなになってしまう。
「け、計測器が壊れましたわ!?」
「えっ、ど、どういうことだよ、故障か!?」
「この計測器は僕たちの神聖力を測るときにも使った。それが壊れる……?」
そんなセリナとは対照的に、同級生たちの反応はさまざま。
なにが起きたのか分からない子。
音と火花にびっくりして遠ざかる子。
この事態を正しく理解し、驚愕する子など。
マルク司教も涙目になりつつあるセリナを他所に、何かしら考え込んでいる。
そして何か思い至ったように視線を横で同じく呆気にとられ茫然としていたファリスに向けた。
「ファリス、高神聖力測定器を持ってきなさい」
「よ、よろしいのですか?」
「かまわん。私の名前を使っていい。急ぎなさい」
「は、はいっ!」
マルク司教の指示を受け、教室を飛び出すファリス。
視線をセリナに戻すと、そこでようやく彼女が泣きそうになっているのに気が付いた。
「おぉ、すまないねセリナ。これは君の神聖力を測るには弱すぎたようだ」
「あの……司教様、ごめんなさい」
「気にしなくていいよセリナ。君の神聖力を甘く見ていた私のミスだ」
焼けた計測器を受け取り、涙目になってしまっているセリナの頭を優しくなでるマルク司教。
その後も俯きっぱなしのセリナをなだめ、他の子達が煙の止まった焼けた計測器を不思議そうに見るなどしていた。
すると、廊下の方からファリスが走って近づいてくる足音が聞こえてきた。
「マルク司教様、お待たせいたしました」
「ありがとう。ではセリナ、これを」
「も、もう壊れたりしないですか……?」
「あぁ、大丈夫だ。さぁ、持って見なさい」
ファリスが取ってきた新しい計測器をマルク司教が受け取り、確認。
そしてセリナへと渡してきた。
セリナは最初また壊れるのではと怖くなり、持とうとしなかったが、マルク司教に言われしぶしぶながら受け取った。
「じゃあ……いきます」
「うむ」
再度同級生全員からの視線を浴びながら、セリナが計測器の取っ手を握る。
今度は破裂音や火花は散らなかったが、なんと計測器自体が光り出したのだ。
「し、司教様……」
「大丈夫ですよ、続けなさい」
不安になったセリナが再度マルク司教を見る。
返ってきた返答は問題なし。
続けろと言う事なので、セリナはそのまま光が治まるまで計測器を握り続けた。
時間にして数十秒。
計測器から放たれていた神々しい光がだんだんと治まり、最後には何事もなかったかのように静まった。
「これでよろしいでしょうか……?」
「はい。十分ですよセリナ」
「司教様、神聖力はいくつですの?」
「俺達よりもスゲーのか!?」
「早く教えてください!」
「これ、そう急ぐものではありませんよ」
計測が終わるとセリナは持っていたくないとばかりにマルク司教に計測器を手渡した。
動きが早かったため近くにいた子達も計測器が読めず、マルク司教にその結果をせがむ。
マルク司教は興奮気味に押し寄せる子供たちを宥め、受け取った計測器に目を通す。
すると、それまで穏やかだった表情が一変。
真剣なものとなり、セリナの測定結果を口にした。
「130000……」
それは、先ほどイノハートが記録したインク新入生歴代最高値の3倍以上の、とてつもない数字だった。
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