第11話 特級・特待生クラス


 インクの入校式が終わってしばらく。

 生徒たちは大聖堂に張り出された紙を食い入るように見つめていた。


「やった、僕二等生だ!」

「私三等生……」

「ば、馬鹿な……この俺が一等生だというのか!?」

「特待生は名家ばかりだね」

「でも、私だって負けないよ」


 皆が見ているのは等級とクラス分けの紙。

 セリナは受けなかったが、全員入校式前に神聖力の精密検査を受けているらしく、それを元にした等級分けのようだ。


 それでも数百人はいる新入生。

 自分の名前を見つけるのも一苦労。


 等級は神聖力が高いものが最上位である特待生になり、次に一等、二等、三等と続く。

 配分はピラミッド型で、三等だけで新入生の半数を占めている。

 等級が上がるごとに人数を大きく減らし、二等で100人、一等で60人。

 特待になるとその人数はわずかに20人となっていた。

 

 当然皆上位の特待生から名前を探し、一等、二等と等級が下がるたびに残念そうな表情になってゆく。

 それでも、皆インクへ入校できた喜びの方が大きく、同じ等級、同じクラスの子と講堂を後にする。


 そんな中セリナはしばらく椅子で座ったまま待ち、人がだいぶ少なくなってからクラス分けの紙を見に前の方へと移動した。


「私はどこかな……」

『上位から探した方が早いじゃろう』

「えへへ……」


 上位から探した方がいい、それはつまりセリナはここに居た数百人の中でもトップクラスであるという事に他ならない。

 スードナムに言われ、思わず頬がにやけるセリナ。


 さっそく上の方へ視線を向けると……。


「あった……けど……」

『ほう、特級生とな?』


 思ったよりもあっさりと名前を見つける事が出来た。

 それもそのはず、名前が書かれていたのは特待生のさらに上。

 僅か4人しかいない特級生だったのだ。


「あっ、まだこんなところに! セリナ!」

「シスター?」

「もうみんな揃ってるよ、急いで!」

「え、えぇ?」


 特級生の意味がよく分からず立ち尽くすセリナを探しに来たのはシスターファリスだった。

 それも額に汗を浮かべ、ひどく焦っている。


 状況が呑み込めないセリナの手を掴み、他の子供たちを押しのけて走るファリス。

 たどり着いたのはインクの建物の中でもひと際豪華な扉をもつ教室だ。


「マルク司教様、連れてまいりました」

「よろしい。さぁ、早く席に座りなさい」

「あ、はい……」


 訳も分からず連れて来られた教室。

 中には20個以上の机が並べられており1つを除いてすべての席が埋まっていた。

 状況から察するに、あの開いた席がセリナの席なのだろう。


「修道女?」

「ってことは平民?」

「平民ごときが僕らを待たせたって言うのか?」


 皆セリナが遅れて来たかのような言い方だが、そもセリナは入校式終了後この教室に来るようになど聞いていない。

 言いがかりに少しばかり不満そうな表情をし、そそくさと空いていた席に着く。

 なお空いていた席はよりによって一番前にあった4つの席の一つである。


「おいおい、平民は謝罪も出来ねぇのか」

「厚かましい人ね」

「あなたたち、お止めなさいませ!」


 セリナの表情と何も言わず着席したのが気に食わなかったのか、先ほどの子達から軽口がとぶ。

 私だって好きに遅れたんじゃない、と言い返そうかとしたとき、隣に座っていた女の子が軽口を吐いた男の子に注意を入れた。


 私をかばってくれたのかな?

 と視線を横に移す。

 するとセリナの表情がみるみるうちに驚きの表情へと変わってゆくではないか。


 それもそのはず、となりに座っていたのは何と先程新入生代表挨拶をしたイノハート・エメ・ホーケンブルスだったのだ。

 セリナの視線に気づいたイノハートは栗色の縦ロールをふわりと揺らしながらにこりと笑い、視線を正面にいるマルク司教へと向けた。


「彼女は少し遅れましたが、集合時間にはまだ余裕があります。特待生であるなら、多少の事は気に留めない度量も持ちなさい」


 イノハートの視線を受け、マルク司教も軽口に対する注意を告げた。

 その一言で不機嫌そうにしていた子達も大人しくなり、全員が視線を正面、マルク司教へと集中させる。


「全員揃いましたね。ではさっそくホームルームを始めましょう」


 視線が集まったのを確認したマルク司教が笑顔で皆に語り掛け、後ろのボードに文字を書く。

 セリナは孤児院に置いてあった絵本の聖典やシスターに教わったので難しくなければ文字を読むことはできる。


 周りはイノハートを含めほとんどが文字を気にしておらず、この程度の文字であれば問題なく読めるのだろう。

 ただ、周囲よりは服のレベルが落ちる子供数名が落ち着かなくなっており、識字率が完璧と言うわけでもなさそうだ。


「まずは自己紹介から始めましょう。等級、名前、生まれ、好きもしくは得意な事、苦手な事、目指す紋章」


 そこまで書くと、マルク司教はこちらへ振り返り、お手本とばかりに自己紹介を始めた。


「では私から。司祭マルク・マートン。マートン伯爵家三男。好きなことは読書、苦手なことは早起き。この通り聖魔導士の紋章を主より授かりました。このクラスの担任にして世代主任。どうぞよろしくお願いします」


 マルク司教の自己紹介が終わると自然と拍手が起こり、満足そうな笑顔をこぼしながら手で制した。


「それでは……特待生の子からお願いしましょう。君から」

「は、はいっ! 特待生エリオット・リークローバー、リークローバー男爵家長男です。得意なことは……」


 こうして始まった自己紹介。

 そこでセリナは初めてこのクラスが特待生のみのクラスであることを知った。


 そしてそのほとんどがこの国の貴族であるという事も。

 それを考えれば先ほどの態度はまずかったかなとも思うがすでに時遅し。

 背中に冷や汗が流れて行くのを感じながら、貴族直系の子供たちの自己紹介を聞いて行く。


「特待生レリック……です。好きな事とかは特になくて……」


 次に自己紹介を行ったのは文字が読めず焦っていた子供だった。

 この国では家名があるという事はそれすなわち貴族。

 逆に名前しか無ければ平民という事になる。


 特待生のほとんどは貴族だが、この子を含め少数、貴族の子より質素な服を着ている子が平民出の特待生なのだろう。


 そうこうしていくうちに特待生の自己紹介が全て終了。

 この世代で特待生は全部で20人。


 全てセリナより後ろの席。

 つまり、前にある4つの席は特級生という事になる。


「はい、ありがとうございました。あとは前の4人ですね。誰から……」

「はい! マルク司教様、わたくしからお願いいたします!」

「いいですね、それではお願いします」

「わぁ、ありがとう存じますわ!」


 特級生4人、誰から自己紹介をお願いしようかマルク司教が視線を向けたところ、セリナの隣に座っていたイノハートが元気よく手をあげ立候補。

 マルク司教も笑顔でこれを快諾。


 了解を得たイノハートは勢いよく立ち上がり、机から離れマルク司教のいる教壇へ上がると、全員から顔が見える様振り返ったのだった。

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