第10話 入校式
オリファス教会本部。
そのすぐそばに隣接する形で作られた学校があった。
これこそオリファス教会が有する最大の聖騎士、聖魔導士養成機関インクである。
入校基準はただ一つ、教会が行う神聖力検査で一定水準以上の反応を示すこと。
この水準が満たせなければ爵位をもつ家であろうと、それこそ皇族や王族であっても入校することはできない。
逆に反応さえ示せば身元不明の孤児でも入学可能。
入学年齢は10歳固定。
期間は6年。
16歳で成人となるまでの6年間で、聖魔法の使い方に加え剣技、礼儀作法などを勉強する。
卒業後は教会に属す事になるが、国中に教会を持つオリファス教ならば生活に何ら不自由はない。
入校時、両親、もしくは本人に多額の支度金が渡されるという事もあり、親にとっても子供にとっても入校を夢見る学校なのである。
そんな著名な学校の大聖堂に、今年の新入生たちが一堂に会していた。
そこには昨日ファリスの部屋に泊まったセリナの姿もある。
「凄い人だね……」
『ふむ、皆なかなかの魔力保持者じゃな』
「分かるの? スーおじいちゃん」
『うむ、感知魔法を使えばの。じゃがセリナ程の者はおらん様じゃ』
「えへへ……」
この場にいる新入生は軽く見ても数百人。
皆身なりも背恰好も違い、気後れしてしまうセリナ。
しかし、スードナムから自分が一番魔力を持っていると言われ、ついにやけてしまう。
そのまま周りを見渡したり、スードナムと話をしていると準備が整ったのか、壇上に一人の女性が現れた。
「皆さんお静かに。時間となりました。これより入校式典を執り行います」
壇上に上がった女性が着ているのはマザークレアと同じく司祭のもの。
正面には魔道具が置かれており、
女性の声でそれまでざわついていた会場が静寂に包まれる。
司祭は静まり返った会場を一瞥し、口を開く。
「よろしい。それでは養成機関インクを取り仕切る大司教レイオット様より式辞をお願いいたします」
そう話すと視線を講堂の隅で座っていた一人の男性に向けた。
視線を受け男性は頷き、司祭と入れ替わる形で壇上に上がる。
男性は昨日会ったマルク司教よりも年配で、髪にはだいぶ白髪が混じり、より豪華な祭服に身を包んでいた。
「皆さんはじめまして。私はこのインクを指揮します大司教レイオット・アブドレオルです」
年相応の落ち着いた声で話す大司教レイオット。
彼こそがこのオリファス教養成機関インクの学長に当たる人物である。
「今年も才能豊かな子供達を迎えられた事、主に感謝いたします。皆さんもこれから立派な聖騎士、聖魔導士を目指し、主の道しるべに背くことなく日々精進してください」
大司教ともなれば、祝典や祭典でスピーチすることも多いのだろう。
外見からは想像できないはきはきと聞き取りやすい声で式辞を述べてゆく。
「インクは約800年前。魔王ストライトフとの戦いで騎士、魔導士に多くの死者が出た事を契機に設立されました」
『む……』
「スーおじいちゃん、どうかしたの?」
『いや、なんでもない』
大司教レイオットが語っているのは養成機関インクの成り立ち。
聖典によると、800年ほど前に魔王との戦いがあり騎士、魔導士に多くの犠牲者が出た。
戦いには勝利こそしたが、魔王は取り逃し、いつまた復活するか分からない。
それはこの国のみならず、魔王との戦いで被害を受けたすべての国が共有している事であり、国ごとに魔王の復活へ備えているのだ。
この国ではインクで養成された聖騎士、聖魔導士がそれにあたる。
インクは当時の国王と教会が結託して作ったものであり、教会が行う神聖力検査も国内のみが対象。
なお国外から検査を受けに来るものについてはその限りではない。
そう言った話を聞いていると、何故かスードナムが反応。
セリナがどうしたのか問うもはぐらかし、そのまま黙り込んでしまった。
「……以上をもって私からの式辞といたします。皆にオリファスの導きがあらんことを」
スードナムを他所に、大司教レイオットの話を聞いているうちに式辞が終了。
壇上を降り、再度司祭の女性が壇上に上がる。
「ありがとうございました。それでは次に教皇モルガン様より皆様への祝辞がございます」
続けて語った言葉に、静寂に包まれていた講堂が僅かにざわつく。
教皇モルガン・ベリル・パーシング。
オリファス教の最高位の人物であり、この場にいる者であれば誰もが名を知り尊敬する教皇である。
まさかの人物の登場に沸き立つ者も多く、あちらこちらから話し声が聞こえてきた。
「お静かに。……それでは教皇モルガン様、よろしくお願いいたします」
私語が多くなったことを壇上で司会をする司祭の女性が咎め、再度落ち着くのを待ってから教皇モルガンに声をかけた。
司祭が降りた壇上に姿を見せたのは、今までで一番豪勢な祭服を着た老人。
「主と神々に感謝を。今年も神の子らを導いてくださいました」
静かに、はっきりとした口調で祝辞を述べる教皇モルガン。
それを聞く子供たちは皆うっとりとしており、まるで神の啓示を聴くかの如く手を組み合わて祈る子までいた。
「2年後には皆授章の儀において聖騎士、もしくは聖魔導士の紋章を得るでしょう。今年の子らの中には100年以上現れていない【聖剣】【聖女】の紋章を示すであろう才能を持つ子もいると聞いております。どうか来たる授章の時に備え、自らを高めて頂きたい」
先ほどの大司祭レイオット同様、祝辞を述べる教皇モルガン。
だが、その中にまたしてもスードナムが反応する言葉が出てきた。
『紋章……じゃと?』
「スーおじいちゃん、知らないの?」
『知っておるのか、セリナ』
「う、うん。この世界に住む人間は紋章を神様から貰って初めて強い魔法や剣技が使えるようになるって」
『ふむぅ……?』
それは現代を生きる人々であれば周知の事柄。
しかし、セリナの説明を聞いてもやはり腑に落ちないようでスードナムの反応は芳しくない。
「神の子らの未来に、祝福あらんことを」
そうこうしているうちに教皇モルガンの祝辞が終わり、壇上を後にする。
壇上には再度司祭の女性が上がり、講師の紹介へ。
聖魔導担当や騎士道、礼儀作法などの講師がそれぞれ女性に呼ばれ壇上に上がり、自己紹介して壇上奥に整列。
中にはセリナも知るマザークレア、マルク司教などの姿もあり、名前を呼ばれ壇上に上がる。
マザークレアはインク寄宿舎の寮管、マルク司教は聖魔法の講師であり、同時にこの世代主任との事だ。
「この世代はこの人員で指導していきます。何かあればすぐ誰かに相談するように」
講師の紹介はこれで終わりらしく、講師陣が次々に壇上から降りてゆく。
「では最後に、新入生代表挨拶。ホーケンブルス侯爵家よりイノハート・エメ・ホーケンブルス」
「はいっ!」
名を呼ばれたのは講堂で最前列に座っていた新入生のようだ。
これだけの人数の代表として挨拶するとあり、家柄、才能共に申し分ないのだろう。
「うわぁ、綺麗な子」
壇上に上がったイノハートは持っていた紙を広げ、新入生代表として言葉を述べてゆく。
セリナはそんな彼女の綺麗な栗色の髪と洋服に、終始見とれているのであった。
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