第49話 この町のフィクサー

 俺は念のためにナンナに剣を渡す。

 そしてナンナが少しでも安心できるようにと、この部屋には誰も入らせず、すぐ戻るが、その時はドアの前から声をかけるからと言うことを伝え、俺はバルガスの元へ急ぐ。

 まあ、俺の気配察知によって、バルガスが敵対する者は全員倒していることはわかっているが、気配察知も万全ではないからな。


 「ここは領主館だから、そこそこ強いやつもいたんじゃないか?」


 俺は廊下が倒れた敵で埋め尽くされてなお、仁王立ちをしているバルガスに声をかける。


 「C級クラスの二人が多少手こずってしまいました。すんません」

 「いや、連携を考えたら一人で対応できただけでも十分だろ。とりあえず戦闘員はもういないようだ。死んでいるやつはアイテムボックスに収納するが、生きている使用人たちを……そうだなそこの部屋に集めてくれ」

 「了解です」


 俺は死んでいる者は収納し、意識を失っている者は近くの空いていた部屋へと集める。

 せっかくだし、勝利ドロップ品として調度品や高級そうな壺や絵画、絨毯から、食材にいたるまで目につく物は全て収納していく。

 金庫の中には金の延べ棒がそのまま入っていたり様々な契約書類もあり、娼館経営の書類もあったので経営者をバルガスに変更しておく。

 女の支配人をせっかく生かしたので、バルガスの下に付ければうまいことやるだろう。

 ただし、俺の倫理に触れないレベルのやり方で経営はしてもらうがな。


 「しかしさっぱりしやしたね」

 「まあ片っ端から収納をしてクリーンまでかけて綺麗にしたしな。屋敷の全てが神隠しってな。俺はナンナさんを呼んでくるから見張っておいてくれ」


 ナンナを呼びに行き、気絶させた者たちを集めた部屋へと案内する。

 レイリーがいなければ出来なかったダンジョンへの転移も、ルーナたちを送った時に一人でもできるという感覚を得ていた俺は、部屋に集めた全員をダンジョンの4階層へ自分と共に転移させた。


 「……ここは……ダンジョン?」


 そう言えば、ルーナとヒナは意識を失っていたが、ナンナは意識があるまま転移させてしまった。

 何度かダンジョンには一緒に潜っているし、雰囲気でバレたか。

 ナンナたちには知られても構わないので、ダンジョンマスターだと言うことを後で話しておこう。


 ただまあ、人の機能は……残っているので、人類ではないと明言はしないがね。

 感覚的に、不死ではないが不老だということはわかるので、時がたてば容姿が変わらないことでバレるだろうが、獣人や長命なエルフもいる世界だ。

 そう言う種族ということで問題もないだろう。

 俺はナンナ以外に契約魔法をかけると、バルガスに指示を出して、ナンナをコアルームへと連れて行く。


 「バルガス。コイツらが起きたらもう家には基本的には戻れないことと歯向かわないようにわからせておけ」

 「了解です」

 「ナンナさんはこっちへ。ルーナとヒナが待っていますよ」


 俺はそう言うと魔法陣を出現させて、コアルームへと二人で移動する。


 「キョウジ! と、お母さん!?」

 「にいに! おかあしゃん~」


 ヒナが俺とナンナの名前を呼んでから、俺に抱き着こうとトテトテと近づき……俺を見上げると、ビクリと震えてルーナの後ろへ一瞬で戻ると背中に隠れる。


 「ん? ヒナ。どうした?」

 「ヒナ? どうしたの? いつもキョウジに甘えるのに」


 俺から逃げるようにルーナの後ろへと隠れたヒナに俺は声をかける。

 ルーナもヒナの様子がいつもと違うことが気になっているようだ。

 あれか? 兵隊に襲われたことを思い出したのか? 

 逆にルーナはあれだけ痛みを感じて気を失うほどであったのに、レイリーが落ち着かせたのか、いつもと変わらないように俺に話しかけてくる。


 「にいに、なんだか こあい」


 ヒナがルーナの背中から顔だけをピョコリと出すと、俺を怖いという。

 何も変わらないはずなのにな? と困惑をしていると、レイリーが近づいて小声で話す。


 「マスター。昼の兵たちに襲われた時から、敵対をする人類全てを滅ぼす決断をしましたよね? その時から、常に生かすか殺すかという判断基準で人類を見るようになっています。それをヒナ様は鋭利な洞察力で感じとっている模様です」


 いやいや、それは当たり前だろ?

 あの時の俺の絶望感は半端がなかった。

 自分が攻撃されるのであれば対処はできるし、もし死ぬようなことになっても自業自得だ。

 だが、自分の命を助けてくれたルーナたちが俺の不手際で確実に死ぬ状況。


 あの時の俺は、ルーナたちが矢に貫かれて死ぬ未来がルーナたちの実力や矢の軌道から見えていた。

 悪党を裁くつもりで行った怠慢の結果が、大事なものさえ守れない、そんな自分自身がどうしようもなく腹立たしかった。

 バジュラがいなければ――バジュラをヒナが助けて仲間にしていなければ、今ここに二人はいないんだぞ!


 俺は昼の出来事を思い出し、感情が高まる。


 「きょ、キョウジ……」

 「……ほりゃ」

 「……キョウジさん」

 「が、がるぅ……」

 「マスター。落ち着いて下さい。周囲を威圧しています」


 俺の魔力暴走で苦しそうにしているルーナたち。

 レイリーの声で俺は周囲に魔力を垂れ流し、威圧していることに気が付く。

 上手く感情が制御できないが、恩を受けた人たちを苦しませる訳にはいかない。

 魔力の暴走を必死に抑え込み、周りを見渡す。

 周囲を見渡しても苦しんでいる様子はなく、どうやら抑えきれたようだ。


 「にいに、きりゃい!」


 グハァ


 ルーナの背中から顔を半分出したヒナから、非道な一言が放たれる。

 俺はその言葉を聞いて、もうヒナを撫でることが出来ないのかと膝を付いた。orz


 「あ! 今なら私にもわかるわよ。なんだかキョウジが弱っているわ!」

 「……こわさ なくなた」


 ヒナは俺から怖さが取れたと、俺がOTLとなっている所にやって来て、ピョンと背中に飛び乗った。

 お、おお……。

 ヒナよ、こんな矮小な俺を許してくれるんだね。

 俺はヒナが背中に乗ったことで、高速ハイハイをしてヒナを喜ばせご機嫌を取るのだった。




 1時間ほどヒナのご機嫌を取り、ナンナたち三人に数日はここで生活をしてもらう必要があることと今日の出来事の説明をした俺は、レイリーと共にダンジョンから町へとやって来ていた。


 「マスター……。また、ヒナ様に怖がられてしまうのでは?」

 「そうは言うがな、レイリー。やられたらやり返す。1000倍返しだ」


 俺と記憶の共有をしたレイリーは、処置なしと言う風にヤレヤレとお手上げ状態の動作をすると首をふった。

 いや、仮面を買った店の店主と、俺を売った冒険者たち。

 それと、休暇中の領兵は殺すよ。

 当たり前だよな?

 まあ……、ヒナに嫌われることは避けたいので、店主や冒険者の家族、休暇中の使用人は拉致もせず放置してやることにするか。

 連座は俺の仲間というだけで、ヒナたちを襲ったやつらと同じになってしまうしな。

 こうして俺たちは二人で対象者を罰するため、街の中へと消えたのだった。





 その日、男爵が治めていた町、キストリンは大混乱となった。

 ある裕福な者たちが利用する商店では、店主の首だけが店内の机に置かれ、またある飲み屋では、三人の冒険者たちが、多数の客がいる中で飲み食いしていたにもかかわらず、これまた一瞬で血がしたたる首だけが机に放置されていた。


 人目も多い場所で起きたこの殺人事件は、急ぎ兵士のいる屯所とんしょへと連絡がされることになるのだが、そこには誰一人として詰めている者がいない。

 そしてそれを不審に思い、男爵邸へとさらに連絡が行われるが、そこにも誰一人、何一つの痕跡もなく無人となっていたのだった。

 それにより、冒険者ギルドから急遽、この国の王へとその情報が伝わり役人がキストリンに派遣されるまで、町は大混乱に陥ることになるのだが、それはキョウジのあずかり知らぬところである。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 第一部はこれにて完結です!

 閑話を書くかもしれませんが、二部は今の所は未定です。

 この後の展開としましては、

 『町の混乱中にひっそりと報告をされるダンジョン(ダンジョン解放)』

 『地球の物と等価交換できるスキルの取得(領主たちをゴミ箱で)』

 『他のダンジョンマスターとの争い』

 と、一応の想定はあります。

 ですが、とりあえずの一部完結です(カクコンの読者選考的にも)

 フォローや☆、ハートなど、いつも励みになっています。

 本当にありがとうございます。

 

 

 

 


 

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