第47話 急転直下
昨日のうちに領主まで手を伸ばしておきたかったが、俺が考えていたものとは違った力の示し方で、処分を免れた者たちがいた。
そのため、それらの者たちの簡易的な衣食住を整えたりしているうちに時間が過ぎて次の日を迎えてしまった。
「レイリー、俺の記憶を読んでいるからわかると思うが、ダンジョンを外に広げることはできるのか? 例えばダンジョンの中に入らなくとも、外にダンジョンの機能を失っていない街を作るとか。それができるならナンナ家へ一瞬で転移も可能だよな?」
「それはダンジョンマスターとしての力が強大になれば、ある程度であればこの世界を侵食して作ることも可能です。ですが、現状ではダンジョンの入口付近も無理だと思われます。ナンナ家への転移程度でしたら空間魔法を取得されてはいかがですか?」
「空間魔法か。取得するには10万ポイントも必要なんだよな。まだまだポイントは残っているとは言え、早く日本の物を取り寄せられるようにポイントを貯めたい所だからなぁ」
「それならダンジョンを解放するのが一番ですね」
「そろそろそれも考える時期か」
俺はナンナ家へ向かいながら、レイリーに気になったことを聞いていく。
ちなみに、バルガスもルーナたちに紹介をするためにここにいるが、俺がダンジョンマスターであることは昨日のうちに教えている。
ナンナ家に到着してバルガスの紹介をした後で、俺たちは常時依頼の薬草採集に山の麓までやって来ていた。
ナンナさんは畑の様子が気になるからと今日は俺たちとは来ていない。
バジュラの活躍もあって、今回も大量の薬草を手に入れた俺たちは、そろそろ昼という時間になったことで、見渡しの良いひらけた場所へと移動する。
天気もなだらかでピクニックをするなら最高の日差しだろう。
俺が
遊んでいるうちに結構遠くまで移動しているな。
離れすぎだと感じたのかルーナがヒナを呼びに行く。
「ん? なんだ? 大勢がこちらに来ている?」
今いる場所はひらけてはいるが、ヒナのいる少し先は茂みになっていて見ることができない。
ヒナの場所から50メートル……俺たちの場所からだと約350メートルの辺りに俺の気配察知に大勢の反応があった。
バジュラの反応を見る限り俺より先に気が付いていたか?
バジュラは周りの敵意に敏感なので、それが反応していないということは――
そんなことを考えていたその瞬間、バジュラが一気に警戒をした様子を見せ始める。
そしてその直後、茂みから矢を構えた兵隊たちが現れると、一斉にヒナに向かってその矢が放たれた。
「は?」
「ヒナ!」
俺の間抜けな声と声を上げてヒナに駆け寄るルーナ。
いやいや、ルーナ。
そこへ行ったらお前も矢の射撃に当たってしまうよ。
明らかに今から動いて、俺やレイリー、バルガスが間に合う距離ではなかった。
俺が惚けている間にも、レイリーとバルガスはすでに動き出している。
間に合う訳がないのに。
俺たちの中で一番スピードがあるであろうレイリーでギリギリ間に合わない。
俺が諦めてしまっているのはこのためだ。
それにもし、奇跡が起きてレイリーが間に合うならそれでこと足りる。
ルーナに命を助けられた俺だが、どうやらその価値はなかったようだ。
俺を助けていなければ、ルーナもヒナもこうなる未来はなかったのだから。
俺の見ている中で、ヒナは何本かの矢を避けたが、放たれた矢の一本が当り血しぶきを上げる。
そしてそれとほぼ同時に、近くにいたルーナもヒナを守るために剣で矢を防ぐが、肩に矢を受けて剣を落としてしまった。
二人が矢を受けて血しぶきを上げるのを見た瞬間、俺の中で何かが
心なしか身体能力もそれによって大幅に上昇しているように感じる。
(
俺はさらに自分の能力を引き上げるため魔法を使う。
そしてヒナとルーナの救出に動くが……。
それでも、それでもだ。
俺に訪れた変化で、もしかすれば二人を救出できるかもしれないと動いたが、自分の認識が遅延して一秒が一分になっているように思えても、これは自分自身の能力が上昇しているだけであって、実際の時間が遅延しているわけではない。
あと、一手。
たったそれだけが足りず、俺もレイリーもヒナとルーナに辿り着く前に、二人は矢に貫かれて死ぬだろう。
そしてそれは現実的に俺に見えている矢の軌道から、あと数秒もしないうちに訪れる。
だが、もし即死でないのなら、俺の回復魔法で絶対に助けてみせる!
そして数秒後。
目を背けてしまいそうになるが、ここで背ける訳にもいかない。
俺は自分の怠慢で訪れたこの結末を目に焼き付ける必要があるだろう。
そしてまさに二人に追撃の矢が当たると思われたその直前! バジュラが大きく
足りなかったあと一手は、バジュラによって
そして矢を一身に浴びたバジュラは、それでもなお動きヒナを甘噛みすると、背に乗せこちらに来ようとして……そのまま崩れ落ちた。
急いで駆け寄った俺は、ヒナやルーナ、バジュラに刺さった矢を引き抜く。
矢じりには
ヒナはすでに意識を失い、引き抜いても大きな反応を見せていない。
一刻の猶予もない状態だ。
俺はそれぞれ矢を引き抜きながら、すぐにヒールをかけていく。
バジュラなんて死んでいないのが不思議なくらい矢を浴びてしまっているので、俺は矢を引き抜いてはヒール、引き抜いてはヒールと繰り返す。
「ウ゛ッ……キョウジ、ヒナがヒナが……」
「大丈夫だ! キュア! ヒール!」
「私は良いから……ヒナだけは……」
ルーナは俺にヒナだけは助けてほしいと懇願すると意識を失う。
俺は矢に毒が仕込まれている可能性も考えてキュアとヒールを全力で放つ。
それはエリアヒールと呼べるほどの効果となって、バジュラもその上に乗っているヒナも、近くにいるルーナも包み込んだ。
絶対に傷は残さない。
俺はそんな意識を持ってヒールを唱え続ける。
「第二射、放て!」
そんな声が聞こえるが、俺が既にここに辿り着いているように、レイリーも辿り着いていて、放たれる全ての矢を俺たちに届かないように落としていた。
少し遅れて、俺が追い越したバルガスも到着している。
静寂。
レイリーが全ての矢を防いだことで訪れたその一瞬。
俺は仲間に向かって指示を出す。
「レイリー。悪いがお前はルーナとヒナ、バジュラ連れてダンジョンに行ってくれ。お前にしか頼めない。もしも……ないとは思うが、もしもダンジョンが攻め入られたら守ってくれ」
「了解しました」
「バルガス。あそこで指示を出している指揮官以外は殺す。皆殺しだ!」
兵隊が何の考えもなしに、狩りのようにヒナに矢を放つことはないだろう。
俺は間違いなく昨日の俺たちの娼館での行動が、この事態を引き起こしたと直感している。
そうであるなら、俺のダンジョンも知られていてもおかしくはない。
俺にとってここは絶対的に信頼のおける眷属に、大切なものを任せることにする。
俺はレイリーと協力をしてルーナたちをダンジョンに送ると、バルガスと共に50人ほどの兵隊に死を与えるため、行動を開始するのだった。
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