第45話 土下座
異世界転移をしてから一番の強敵を倒した俺は、戦闘中は必死で気が付けなかったが、自分に回復をかけたことで魔力を強めにして使ったわけでもないのに、威力が上がっていることに気が付く。
レイリーを解析した時に、他の能力も上昇をしたように感じたので、恐らくそれが原因で
もし、直前でレイリーを解析していなければ、さらに苦戦していた可能性もあったわけか。
そしてさらに、他の敵が横やりを入れてくる可能性があったので、周りの気配に神経を尖らせていた。
かなり集中をしてそれらを行っていたことが原因であるのか、娼館内でどこに人がいるかという気配までわかるようになっている。
「これは何かスキルを取得したか?」
俺はそれに気が付いて自分の能力を見てみると、DPで取得した記憶のない気配察知というスキルがあることがわかった。
「マスター?」
「ああいや、コイツと戦ったおかげで気配察知を覚えたようだ」
俺は意識を失って俺の足元で倒れているBランクを指さした。
「それはおめでとうございます」
「もしかしてこれもレイリーを解析したせいか?」
「いえ、気配察知を私は持っていますが、元々マスターが取得をしていない魔法やスキルでは熟練度の上昇やスキルの取得はありえません」
「そうか。自力取得をしたということなら嬉しいな」
ただ、取得した後でなら、レイリーが使える魔法やスキルはアップデートができるということでもあるわけか。
ということは、俺はまだあと一段階
まあ、よほどのことがなければ、せっかくの異世界なので地道に訓練をするけどね。
「しかしどうやらこれ以上は用心棒的な存在はもういないみたいですね。どうしますか?」
娼館内でこれだけ声を出したり戦闘音が聞こえても、こちらへ向かってくる存在はいないことから戦闘員はもういないのだろう。
俺の気配察知でも各部屋内に人がいるのは感じられるが、出てくる様子はなかった。
まあ、この界隈で一番を自称しているやつを倒しているから、そのせいで出て来てないだけかもしれないが。
「それよりそいつらをさっきちょん切った男のいる部屋へいれておけ」
レイリーは俺が戦闘をしている間に、周囲の警戒をしながら院長と女をロープで縛り、口をふさいでいた。
俺は足元に倒れているBランクを縛って抱えると、レイリーと共に先ほど突入した部屋へと戻る。
部屋へ入ると縛られた男女二人が「ん゛ー、ん゛ー」と何か言っているが……。
「騒ごうとすれば殺す」
俺が一言そう言うと、だるまさんがころんだをしているのかと思うくらいに一瞬でこいつらは静かになり、そして俺が連れてきた男を見て表情を変えた。
ちょん切られたし、俺が本当に殺すと思ったのかな。
まあ、やるけど。
それとも、自称界隈最強がやられているから黙ったのか?
「とりあえずこの部屋に全員あつめるか」
「そうですね。それが良いと思います」
俺たちはその後、娼館内の部屋を回り全員を縛りあげると、先ほどの部屋へ連れて行く。
ああいや、全員ではなかった。
2階の一室にここの支配人と思われる女性がいたが、部屋に入るとその護衛がいきなり俺を殺しかかって来たので、首をへし折りゴミとしてアイテムボックスに収納している。
後でダンジョンに捨てないといけない。
「二五人か。結構多いな。コイツらが俺が死ぬと言う可能性を見せてくれるのなら一瞬でダンジョンに運べるんだが……」
「それなのですが、私がいれば恐らくマスターと二人で力を合わせて問題なく転移ができると思います。結局のところ、エレナ様をコアルームへ転移させた延長線上ですので」
そう言えばエレナがコアルームに転移できているのはよく考えればおかしい。
エレナに対してはポイントにしたい(処分したい)と思っていなかったし、普通に仲間……とまでは認識をしていないが、処分しようと思ってもいなかった。
「エレナの場合はどうなんだ? 普通に移動できたよな?」
「エレナ様の場合は、マスターは物という認識でしたよね? 吸収させるつもりもなかったようですし。普通にマスターが着ている服と同じような認識で転移されています。仲間認識でも……可能かとは思いますが」
エレナは脅威もなかったし、興味もなく、ただルーナの友人としてコアルームに連れて行ったが、物としての認識だと言われると俺がめちゃくちゃ冷たいみたいで嫌だな。
アイツは俺の着ている服と同等だったのか。
その後はレイリーの力を借りて、俺は娼館にいた二十五人全員をダンジョンの三階層へと転移させた。
「二十五人中十人ほどは、処分までは必要がない気もするが、解放するのも問題だよな?」
捕まえた全員を解析したところ、一生懸命にお金をためて、モテないから娼館に童貞を捨てに来ていただけの何の悪さもしていないやつを含めて、最初の部屋で行為をしていた女……も、同僚をいじめはしていたが、それで即処分というのもやり過ぎな気もする。
そうそう、俺と戦ったBランクの男も、強さだけを求めて戦いの多い場所を職業に選んでいただけで、犯罪行為……は暴力を振るう以外は特にしていなかった。
まあ、一般人に暴力を振るっている時点で、死ぬレベルの試練までは必要がないというだけで、ある程度の罰は必要ではある。
とりあえず、死ぬほどの罪まではないこの十人は、縛っている縄をほどいておいてやるか。
娼館の連中をゴブリンの餌にして、ゴブリンが梅毒に
鑑定で感染をしていないと出ていても、娼館を利用していれば潜伏期間でまだ発症をしていないだけの可能性もあるからだ。
「マスターの記憶から奴隷を
まあ、日本で奴隷なんていうと頭がおかしいとしか思えんからな。
しかし完全にまともな童貞を捨てに来た一人を含めて、死ぬほどの罪がない十人はとばっちりだ。
だがまあ、見方によっては、童貞君の相手をしていた女は完全に梅毒に感染をしていたし、処分されるほどの罪がない者たちであっても、感染中もしくは感染の可能性が高かった状態を治療している。
しかも、隷属をさせないで逃がしたとしても、逆にそのせいで領主や俺たちの話をして結局死ぬことになるのなら、契約で縛っておく方がこいつ等にとっては命を助けることになるかもしれない。
「う……。ここは? 俺は生きている?」
俺が契約魔法の取得を悩んでいると、Bランクの男が気絶から目覚めたようだ。
「よう、調子はどうだ」
「調子って……体中いてぇよ!」
「あはは、元気じゃないか」
「全員捕まっている? しかしこんな事をすれば領主が黙っていないぞ。個人で強くても兵士の集団に勝てるとは思えない」
「ああ、それはそこの娼館の女主人からも聞いたよ。だがそうだな、お前には選ばせてやる。本当に俺が領主に負けると思うなら、ここで解放をしてやるから逃げると良い。だが、俺の下につくと言うなら……刺激的な毎日を送らせてやろう。どうする?」
Bランクの男は少し考えたのちに、
「どうか俺を配下にお加えください」
「頭が多少は回るようだな。お前を許そう」
互角の戦いをした間柄ではあるが、回復魔法を俺が使えたことでその差に思い至ったのだろうか?
少し考えただけで俺に恭順をしめしたこいつは、頭も悪くないのかもしれない。
ってか転移直後で俺の土下座は輩どもに理解をされていなかったが、やはりこの世界でも這いつくばるという行為はあるんじゃないか。
俺は男に回復魔法をかけながらそんなことを思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます