第44話 界隈の雄

  娼館の前には、客引きの男がいて道行く人をいざなっていた。

 見た目がカタギには見えないから、何かあれば暴力要員として参加するのかもしれない。


 「おっ、兄さんたち! 仮面舞踏会へこれから行くのかい? それとも帰りの最中かな?! 帰りならどうだいスッキリと! まだこの店のナンバーワンとナンバーツーのが残っているよ。運が良いねぇ!」


 客引きの男はマスクをつけている俺たちを見ても警戒をすることなく話しかけ、俺の肩を「どうだい?」と言いながらポンポンと叩く。

 俺は相手のその行動を受けて、こちらも男の肩に手を乗せながら会話する。


 「はは、待機をしている全員の女の子が、ナンバーワンとナンバーツーって言っているんじゃないんだろうな?」

 「まさか! 勧めるのは身なりの良い人だけですよ。相応の値段がしますから」

 「そうか。なら二人だ、案内してくれ」

 「はいよ、二名様ご案内!」


 男がそう言って、娼館へ俺たちを案内しようと向きを変えた瞬間。

 俺はその男を殴り飛ばし意識を刈り取る。


 「声すらあげさせないとはお見事です」

 

 レイリーはそう言いながら姿勢を正し、白い手袋を両手にはめていた。

 手袋をはめる・・・と言うのは中部から関西方面の言い方で、関東地方はする・・、北海道や東北でははく・・、山形ではつける・・・という割合が多いらしいが――


 「あんたたち! 何をやっているんだい!」


 俺がレイリーの白い手袋をみて、日本語の使い方は地域によって違うから難しいんだよなとか考えていると、娼館の女郎だろうか? に倒れている男が見つかり声をあげられた。

 まあ、道端で普通に殴って昏倒させているしな。

 声を上げさせずに倒しても、そりゃバレるか。


 ああ、一応客引きの男は解析の結果、顔も隠さずレイプの常習犯であったので思い切りやった。

 後悔はしていない。


 「とりあえず、邪魔になりそうなやつは全員黙らせるか。それからクズかそうでないかを解析で調べていけばいいだろう。というかレイリー、これから暴力を振るうのに純白の手袋はないんじゃないか?」

 「問題ありません。血などつく前にすべて終わらせますので」


 ……ちょいちょいカッコいいこと言うの止めてくれる?

 俺も言ってみたいわ! 

 出血を伴う暴力行為を働いて血がつかないってどういうことだよ。

 殴った瞬間に出血したら、手袋に血はつくんじゃないの?

 その出血より早い速度で離れるということなの!?

 

 女郎の声を聞いて複数の気配が店の奥からこちらへとやってくるのを感じ、俺は即座に女郎を昏倒させると、店の中へと押し入る。

 レイリーは客引きの男を担いで店の中まで来ると、雑に落とした。

 これで外には争う声は聞こえても、何をしているかはわからなくなるだろう。


 俺たちが店の入り口を閉めたと同時に男たちが五人現れる。

 

 「お前ら、何をしているのかわかっているのか? 無駄に命――ぐはぁ」


 「ぐっ」、「ごはっ」という声を発して五人の男たちは俺たち二人によって一瞬で沈黙する。

 いやー、仲間がいるっていいわ。

 これが一人ならもう少し時間がかかっていた。


 俺たちは人の気配がする方へと動き、部屋を開けて確認をしていく。

 当然全裸の男女がいるのだが、俺はとりあえず男の方から解析する。

 うん、コイツも悪党だな。

 俺はその男のアソコをちょん切ると、尿道に棒をさしてヒールを唱える。


 「ヒール!」


 そしてその後に指した棒を引き抜くと、抜いた時の傷で少し出血していて痛そうにしているが、あら不思議! 男はアソコはなくしてしまったが、は出来る状態へと進化を遂げた。

 良かったね!


 「キャー! 暴漢よ! だれか!!」


 はぁ……。

 全裸の女が叫ぶので殴り飛ばす。

 ちょん切った男ほどではないが解析をすると、どうやらこの女も仕事仲間へのいじめを繰り返しているようだった。

 まあ、全員が全員不幸な生い立ちでこう言う仕事をしているわけでもないか。

 

 部屋を出て別の部屋に向かおうとしていると、2階から数人……男が二人と女が一人、下へ降りて来たようだ。

 そして俺はそいつらの顔を見て……堪えきれない笑みが浮かび、口角があがった。


 「いやー、院長先生。こんなところで会うなんて奇遇ですね」

 「ん? なんだお前は! お前がこの騒動を引き起こしたのか? 楽しむ前にこの混乱が起きたせいで、ワシは避難をすることになっただろう!」


 孤児院の院長は俺のことがわかっていない?

 まあマスクもしているし、1回会っただけだからそんなものか。

 それにコイツの素の態度はここまで悪かったんだな。


 「ハッ、その遊ぶ金はどこから出たんだ? まさか寄付金からじゃないだろうな?」

 「なに? お前……いや、そんなバカな」

 「俺は怪我や病気、孤児院の待遇をよくするために使えと言って渡したよな?」

 「これは寄付なんだ! どう使おうとそれはワシの勝手だろう!」


 院長のその声を聞いて、俺は手加減は無用だと一歩踏み出す。

 その瞬間、院長の隣にいた雰囲気のある男が動く。

 俺はその男の攻撃をギリギリで避けると、少し距離をとった。


 「マスター、その男はBランク程度の力があるようです。今のマスターと同格と思われます」

 「ハハハ! コイツはこの近隣で一番強い! おい、あいつをやってしまえ!」


 この辺りで一番強い男ね。

 というか、それよりも俺はレイリーの言葉がショックだわ。

 俺はこのBランクの男と同程度か。

 異世界転移をしてまだそれほど経っていないのに、上級冒険者の強さを手に入れていると考えれば、恐らくとんでもなく早い成長なのだろう。


 しかし、俺は異世界転生系のラノベを嗜んできた者として、Bランクはその世界の上位であっても、基本的に主人公たちからすればヤラレ役というのが一般的だ。

 地球からここに転移をさせられたやつらは全員が主人公と言えるはずで、そう考えると俺はまだまだ弱いと言うことになってしまう。


 殴りかかってくる男の拳に俺は自分の拳を合わせる。


 「ステゴロ素手の殴り合いか。良いね。だが、お前には俺の成長の糧となってもらう」

 「フン、カチコミに来るだけあって言うじゃねぇか!」


 俺が男と一進一退の攻防を繰り広げていると、院長と女がコソコソと逃げようとしているのが目に入る。

 それに気を取られた瞬間、俺は蹴りを食らってしまった。

 

 「クッ……」

 「俺を前に余所見なんてしてるからそうなる。どのみち泣いて助けを乞うことになるだろうが、絶望をして死んでいけ」

 「ハッ、クズがいっちょ前にカッコいいこと言うじゃねーか。それはお前自身に言っているんだろ?」


 俺は院長の下へレイリーが動いたことを確認すると、もう一度男と向き合い戦闘を再開する。

 レイリーが俺と同格というだけあって、どうやらダメージを最小限で抑えて勝つということは無理そうだ。

 そのことを理解した俺は、相打ち覚悟で防御を捨てて相手の攻撃に合わせて常にカウンターを加えていく。


 「どうした? 俺を絶望させて殺すんじゃなかったのか? もうフラフラだぞ」

 「お前もそうだろうがぁ!」


 防御を捨てた殴り合いをしていた俺たちは、最後の一撃とばかりにお互いがパンチを繰り出す。


 「クソっ……。今日からお前がこの界隈の一番だ。……だが、その傷ではソレもすぐ終わる――」

 「ヒール!」


 俺は負った傷を、ヒールを使って全快させる。

 それを見た、用心棒の男は絶望に顔色を変えて崩れ落ちたのだった。



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