第43話 マスカレードの始まり

 食事を終えて俺はもう少しエレナから聞き取り調査をした結果、やはり領主と孤児院の院長はクズエピソードばかりで、この二人を擁護する必要性のある話は全く出てくることはなかった。

 いや、領主の長男が使用人にも優しく、父親を反面教師にしていたようではあるんだが、今は中央……王都の学園で領主を継ぐために学んでいるようでこの町にはいない。


 俺としては、権力者に潔癖を求めているというわけではない。

 ノブレスオブリージュ……身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳感がこの世界にもあったとして、それは何も清廉潔白、私利私欲がないと言うことでもない。


 アメリカのセレブなんかはその意識ノブレスオブリージュの下、ボランティア活動や寄付を積極的に行うが、結局のところ「やらない善よりやる偽善」をしているだけだ。

 大体、権力者が私利私欲に走らないわけがなく、何のためにその権力や名声を手に入れたんだって話でもある。


 ボランティアだけをしていました、困っている人には手を差し伸べますなんてやって権力なんて手に入らないのだから(偏見)

 全員とは言わないが、多くが成り上がる前までに後ろ暗いことをしているから、偽善で返すねと言う話だ(大偏見)


 「しかしエレナの話から推測すると、梅毒がかなり蔓延している可能性があるな。不遇に扱われて身を落としているやつらは助けてやりたいがどうするべきか。エレナを娼館に連れて行けば、元孤児かどうかはわかるだろうが……」

 「エレナ様を連れて行くのは止めた方がよろしいでしょう。私たちであれば対応もできます。ですが、エレナ様が悪意にさらされた場合には、せっかく病気から回復をしたばかりなのに命を落とす可能性があります」


 せっかく「やる偽善」で助けたし、他にも助けようとしている時に結局は死にましたでは意味がない。


 「しかし乗り込んで元孤児の人、手を挙げてーとする訳にもいかないだろ?」

 「マスターはスキルで鑑定を取得しましたが、その上位に解析というスキルがあります。いずれ鑑定は進化をして解析になりますが、かなりの時間がかかるのでそれを取得することをお勧めします。解析なら対象に触れることで、過去の記憶まで読み取れますから」


 俺はレイリーから解析のスキルを取得するように勧められたのでそのスキルを確認する。

 取得には10万ポイントも必要か。

 鑑定が5万で取得できたのでその倍、アイテムボックスと同じだけのポイントが必要らしい。

 高いと言うことはそれだけ効果が良いと言うことだろう。

 それに鑑定の進化が解析だというなら、差額の5万ポイントで取得できるのでは?

 それならとらない手はないな。

 俺はそう考えながら解析を取得した。


 「って差額の5万じゃなくて、10万のままかよ!」

 「新規のスキル取得は持っているスキルの上位であっても完全に上書きされますね」


 どちらにしても取得するつもりだったから問題はないはずなのに、損をした気分になるのはなんでだろうな?


 「これでエレナを解析すればいいんだな?」

 「お待ちください。取得した直後であれば、記憶までは解析できません。まずは私に手を当てて解析をしてみてください。私の解析は熟練度が高いです。それを解析することで、私はマスターの眷属ですから、すぐにそこまで能力が引き上げられると思います」


 手を当ててくれと言うだけでは、片手で良いのか両手でなければいけないのか分からないので、俺はレイリーの目を見ながらガッチリと両手でレイリーの肩を掴んで解析を始めた。

 しばらくして、自分のスキルがアップデートされた感じがあったので手を放す。

 というか、他の魔法やスキルも更新された気がする。

 

 俺がそんなことを考えていると、ふと視線を感じたので振り向くと、少し離れたところにいるエレナが俺たち二人をジッと見ていた。


 「キョウジって女の裸に興味がないと思ったら、二人はそういう関係だったのね。大丈夫よ。あたしはそういうことに理解があるから」


 まあ、誤解をされるような状況ではあったが、すぐそういう方面へ物事を考えるのは良くないぞ。

 俺は薄ら笑いを浮かべながらエレナに近づく。


 「な、なに? ちょっとバレたくらいで! こ、こわひ……ん”ん”ーー!!」

 

 俺はそのまま近づくと、良く回る口だなと両手でエレナのほっぺたを掴み、解析をして記憶を読み取る。


 「い、いひゃい」

 「フン。よし、行くか!」

 「お供させていただきます」


 俺はエレナの頬から手を離すと、レイリーと共にコアルームから転移で外へと移動する。


 「顔を隠すのに仮面がほしいな。できればベネチアンマスク……目の周りの部分を覆うアイマスクか半面があればいいんだが」

 「ベネチアンマスクとは?」

 「そう言えば地球のことはわからないのか。そうだレイリー、俺を解析して記憶を読み取ってみろ。そうすれば俺が話すことも理解できるだろう」


 俺がそう言うと、レイリーは片手で俺の肩に触れて目を瞑る。

 どうやら、俺の記憶を探っているようだ。

 ってか、片手で目とか見なくてもよかったのかよ。

 これでレイリーは俺が地球のことを話しても、俺が記憶していたことは理解するだろう。

 

 「ベネチアンマスクと似ているのですが、記憶の中のマスカレードマスクに似たものを売っている店はありますね。町を調べていた時に裕福な者たちが利用しているような店でしたが……」

 「ベネチアンマスクとマスカレードマスクはたぶん同じだな。イタリアのヴェネチアのカーニバルが有名だったからベネチアマスク、そのほかの仮面舞踏会で使われるのがマスカレードマスクっていうくらいの認識で良いだろう。知らんけど」


 俺の記憶だとベネチアンマスクとして売られていたりしたものを見ている時はそう呼んでいるし、そう書かれていない時はマスカレードマスクと記憶しているのだろう。

 もしかしたら実際には両者のマスクには違いがあるのかもしれないが……。

 同じ物かそうでないのか俺自身がイマイチ把握できていないから、記憶を読んだレイリーも両者を分けて話したのかな。



 俺たちは仮面舞踏会用のマスクを手に入れると、それを装着して娼館へと向かう。


 「そう言えば、レイリーが解析を覚えていたのなら、お前がエレナの解析をすれば俺がスキルを取得しなくとも見分けがついたんじゃないのか?」

 「それはその通りなのですが、マスターが元孤児だけとは言わず、他の者も解析をして処断したりしたいのではないかと思いまして」

 「ああ、そう言われるとその通りだな」


 レイリーが解析をして俺に教えるより俺自身が解析をして動いた方が早いし、誰を処分すると言うこともすぐに決めることができる。

 俺たちは町の中を走り、ついに娼館へと到着したのだった。

 

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