第37話 ダンジョンはゴミ箱

 俺とレイリーはクズの三人を俺のダンジョンの1階層の最奥へと連れて行くと、雑に落とす。


 「うっ……。こ、ここは? て、てめー! いきなり殴りかかって来るなんて卑怯だぞ! おい、お前ら起きろ!」


 たしかに俺は人気がない場所についた途端にこいつ等を殴り飛ばしたが、そもそも移動をする前にこいつ等は俺を始末すると言っていた。

 始末って殺すという意味ではないのか?

 それなのに、自分たちの人数が多いからと余裕をこいて攻撃を受けて敗北する。


 そして敗北をしたら卑怯だと罵る。

 そもそも、ナンナさんやルーナ、ヒナに酷いことをしようとしていて、許されると思っていたのだろうか?

 俺が冷めた目で三人を見ていると、最初に意識を取り戻した男の声で他の二人も目を覚ます。


 「ハッ。馬鹿どもが。不意打ちで俺たちを倒せたから調子に乗っているのか? 俺たちの装備すら取り上げていないなんてな」

 「「アハハ」」

 「剣を持っていても使い方も知らないみたいだが?」

 「舐めやがって!」


 初めに意識を取り戻した男が剣を抜き俺に切りかかる。

 それを俺が対処しようとした瞬間、レイリーが俺の前に出ると相手の振り下ろした剣を人差し指と中指で受け止めた。

 か、カッケー……。

 この行動を見るだけでもレイリーは今の俺よりも圧倒的に強そうだ。

 俺にはまだいくら相手が弱いからと言って同じ事ができる自信はないからな。


 「く、くそっ。離しやがれ。おい、お前ら!」


 男の声で他の二人も剣を抜いた。

 

 「来たか」


 俺の後ろから大勢の足音が聞こえる。


 「グギャ」

 「ギャギャ」


 先ほどまで声を出していなかったゴブリンたちが俺の近くにきたせいなのか、グギャグギャと騒ぎ始めた。

 なんだ? ゴブリンの言葉はわからないが、『来ました~』とか言っているのか?


 「な、なんだ!? なんの声だよ? そう言えばここって何処なんだよ!」

 「レイリー離してやれ」

 「ハッ」


 レイリーは俺の声を聞いて男を蹴り飛ばす。


 「お前ら三人でゴブリンを何匹倒すことができるかな? 出口は開けておいてやる。ではさらばだ」


 俺は三人に告げると、レイリーとコアルームへ転移した。

 俺とレイリーの二人は、俺のダンジョン内ならどこからでもコアルームへと移動することができる。

 そしてダンジョンのどの場所でも見ることが可能なのだが、俺はわかりやすく空中にディスプレイのようなものを出現させると、三人の冒険者を映した。


 「くそっ。何でゴブリン共がこんなに!」

 「やるしかないぞ!」

 「わかってる!!」


 三人は状況が理解できていないながらも、剣を持ちゴブリンを倒していく。


 「へへ、所詮はゴブリン。ここが何処かはわからないが何とかなりそうだな」

 「だな」

 「あいつ等は戻ったら絶対に許さん。仲間を集めるぞ!」

 「「おう!」」


 男たちは三人でゴブリンを10体ほど倒すと、余裕が出て来たのか俺たちへの不満を言い始める。


 「ふむ。こんなやつらでも結構倒せるもんなんだな? これだとルーナたちと同程度か?」

 「そうですね。ただ……ルーナ様とヒナ様とは同程度かと思われますが、バジュラの能力が私にはまだ把握しきれておりません。実際はかなり強いと思われます」

 「バジュラが? しかし最初に助けた時はゴブリン5体に囲まれて殺されそうだったぞ?」

 「それなのですが、何か事情があったとしか思えません。当初から5体程度であれば確実に倒せる実力は備えておりました。むしろ底がみえないのです。普段はヒナ様を気遣って少しでも問題が起きそうであれば、先にその可能性を潰しているほどの動きです」

 「そこまでか。まあ俺たちの話している言葉を理解しているのは間違いない。ただの犬や猫とは違うのだろう。弱いより強いのならヒナがウロウロとしても安心か」


 男たちがゴブリンを倒した総数が15体程度になると、急に動きが悪くなり始める。

 

 「疲れたか? しかし散発的に少しずつのゴブリンを向かわせるだけでは、殺されるだけでこちら側の訓練にはならないな?」

 「たしかに。今だと三体程度が毎回挑んでいる形ですから、各個撃破をされている状態です。ただ、10体が一斉にかかるというような状況にすれば、逆に一瞬で終わってしまうのでは?」

 「そうなんだよな。3対3の戦いでゴブリン側も少し連携させることはできないのか?」

 「上位種が指揮をしていないゴブリンでは知能も最弱レベルですから……。ダンジョンコアに連携をするように念じながら命令をすれば、マスターなら多少の影響はゴブリンに与える事ができるとは思います」


 俺はレイリーの言葉を聞いて、コアルームに鎮座しているダンジョンコアに手を当てると、他のゴブリンと協力をして対応しろという命令をゴブリンに送る。

 すると、今まで馬鹿正直に攻撃をしていたゴブリン3体が、男一人だけに集中攻撃をしかけた。

 急に三方向から攻撃を受けた男は対処することができずに致命傷を負う。


 「グフッ……」

 「お、おい!」

 「このゴブリン共が!」


 男たちは一人やられたが、何とかゴブリン三体を倒しきる。

 そしてすぐに次の三体がやって来た。

 この三体も二人となった男たちの片方だけへ攻撃をしかけると、既に疲れ切っている男はゴブリンを一体も倒すことができずに崩れ落ちた。

 その間にゴブリンが向かってこなかった方のもう一人が、後ろからゴブリン一体を剣で貫く。

 

 「く、くそっ。剣が抜けねぇ!」


 無防備な背後から攻撃をしたというのに剣を突き刺した男は、その剣を引き抜くことに手間取り、結局は残った二体のゴブリンの攻撃を受けて死亡する。


 「Dランク三人を倒すのにゴブリンが21体も必要だったか。生き残った二体は死なないように訓練をさせろ。魔物にも経験値的なものだってあるんだろう?」

 「もちろんです。この二体はレベルが上がり、強くなっているはずです」

 「そうか。それならこの二体を訓練して、上位個体に進化させるように」

 「了解しました」


 男たちの死体は放置しておいても1時間でダンジョンが吸収をするのだが、今回は俺がダンジョンマスターの能力を使ってすぐに吸収させた。

 これは生きている場合では使えないが、生命活動を停止していれば使える能力のようだ。

 そして俺は何気なく今回の戦闘でダンジョンポイントがどうなったかを確認するためにログを確認すると、


 ――ログ――

 ・ダンジョン一階層で初めての人族の死体の吸収を確認:100000pt


 

 ヒナたちをダンジョンに入れてゴブリンと戦闘をさせた時にも、『初めての~』という通常よりポイントが多いボーナスはあったのだが、一階層ずつでボーナスがあるのなら、死体は三人分あったので三階層まであるダンジョンそれぞれの階層で吸収させる方が良かった事に気が付く。


 「まあ、この世界に悪党やクズは多そうだから機会はいくらでもあるか」


 せっかくのボーナスポイントを得るチャンスではあったが、一気に吸収させたせいで、その機会を逃たことを少しだけ後悔したが、この世界なら犯罪者も多そうだと気が付いて俺は気を取り直すのだった。

 


 


 

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