第36話 クズを捨てますか?

 自動給水装置を畑に作った次の日。

 俺はいつも通りレイリーとともにナンナ家へとやって来ていた。

 今日はナンナも一緒にダンジョンへ行く予定となっている。


 昨日、畑仕事も楽になったことだし俺たちと一緒にクエストをしませんか? とナンナを誘っておいたのだ。

 ルーナたちとクエストをしている時の話で、薬草採集をしているという話をしていたことから、初めはそれなら自分にもできるかもと興味を示していた。


 ナンナは冒険者登録をしていないだけで、カイフー草などの薬草は自分で使うために採集したこともあるようだった。

 だが、俺がナンナを誘う理由はレべ上げだ。

 それに俺はダンジョンマスターという特性上、ダンジョンの魔物を氾濫させてスタンピードを起こし、町を崩壊させる可能性もゼロではない。

 もっと言えば、人類の敵としてこの世界に君臨する可能性だってあるのだ。


 ただ、そのようなことになったとしても、俺がナンナ家が所有していた上級ポーションで命を助けられたことも事実。

 死ぬ運命を助けられたほどの恩を受けているのに、簡単に殺しますというような不義理を俺はしたくない。

 もし、スタンピードを起こした場合、俺のダンジョンの魔物モンスターが俺の知らない所でナンナを手にかけてしまうこともあるかもしれない。


 だから俺はナンナを一度俺のダンジョンに呼んで、生体情報をコアに記録させたいのだ。

 そうすれば、何かあった時に、俺の指示で個体識別が可能となってナンナに攻撃をすることはなくなる。

 ルーナとヒナ、バジュラはすでに登録している。


 ダンジョンコアと俺は一体なので、ダンジョンにナンナが来なくとも俺が認識をするだけで良さそうなものなのだが、将来の俺ならともかく、今の俺にはそこまでの力はなかった。


 ただまあ、俺が人ではないということがバレてしまって俺がすることに同意ができず、ナンナ家とたもとを分かつようなことがあったとしても……、できるだけ彼女たちには配慮をしたい。

 今まで仲が良い人だからと言って、いきなり自分の住んでいる町を魔物に襲わせるような指示を俺がした場合に、それを彼女たちに知られることになれば、さすがに現状維持の関係とはならないだろうしな。

 

 っと今の所そんな悪さをしようとは考えていないのに話がそれた。

 ナンナは薬草採集だけではなく、ダンジョンでゴブリン退治をするという話をすると、露骨に拒否反応を示した。

 しかし、俺はこれはまずいと考えて、魔物を倒してレベル……が上がると若返りますよと言うと、ダンジョンに興味を持ってもらうことに成功する。


 レベルとは何かということから説明をしたので少し骨は折れたけどね。

 そしてダメ押しとばかりに、ルーナやヒナが心配でしょう? と言うと結局ダンジョンへ同行してくれることとなったのだ。


 「的確に女性が気になる若さや子供の話をして、丸め込んだマスターは詐欺師の才能が有りそうです」

 「おいおいレイリー、これは神算鬼謀の策略と言ってほしいな」

 「……」



 コンコン


 「おはようございます。キョウジです」

 「はーい、入って~」


 ナンナの了解をとって俺とレイリーはナンナ家へと入る。


 「ナンナ様おはようございます」

 「レイリーさんおはようございます。って前も言ったけど、言葉遣いは崩して下さって良いのよ? キョウジさんも。ときどきルーナに話しているように私にも話しかけてくれていることがあるでしょう?」


 俺は日本では基本的に友人以外と話す時は敬語を使っていて、それが特に面倒ということもなかった。

 それがこちらの世界に来て知らず知らずのうちに言葉遣いが変わっているのは、こちらに馴染んできたという証拠だろうか。


 「ああ、元々無理して丁寧に話しているわけじゃないんだ。だから両方の話し方が出ていても気にしないでもらえると助かる」


 レイリーはそういう訳にはいきませんと頑なだが、俺は本当に無理している訳ではないので本音を話す。

 

 「こらヒナ、早く支度しなさい。キョウジたちはもう来てるわよ」

 「にいにきちゃ? でもねぐしぇ……」

 「そんなの水をつければ直るでしょ」


 猫獣人の寝ぐせだって!?

 凄く見てみたいのは俺だけだろうか?


 「マスター。心の声が漏れています。レディが身だしなみを整えるのを待つのも男の甲斐性です」


 ……5歳児にレディって。

 レイリーの甲斐性の考え方のほうが間違ってるだろ。

 俺はジトっとした目でレイリーを睨む。

 俺のその目を受けて、レイリーは白い手袋をしていているのだが、それをなぜかイジるとポーズをとった。

 いや、なんだそれ。

 執事だから?

 




 その後俺たちは、ナンナを連れてルーナやヒナがダンジョンで初めにしたようなゴブリンとの戦闘を昼食をはさんでみっちりと行うと、最後にギルドでナンナの冒険者登録をして少しだけとっておいたゴブリンの耳を納品した。

 ルシオラがいれば、ナンナを紹介していたのだが受付にはいなかったことが残念だ。


 「マスター、気が付かれていますか?」

 「ああ。さすがにこのまま連れて行くわけにはいかないな」

 「では私が対応しましょう」

 「いや、ここは俺に任せてくれ」

 「キョウジ? 何かあったの?」

 「にいに?」

 「ああ、悪い。ちょっと用事ができた。レイリー、三人を送って行ってくれ」

 「御意に」

 

 ギルドを出て五人と一匹で俺たちは道を歩いていたのだが、俺たちが角を曲がった瞬間、俺はナンナ、ルーナ、ヒナに別れを告げると身を隠した。

 俺たちがダンジョンから出てしばらくしてからのことなのだが、三人の男たちがずっと俺たちの後をついて来ていたのだ。


 ギルドに入った後もそいつらも同じくギルドへ入ってきたことで、その三人がルーナたちに気をとられている隙に俺はやつらの会話が聞ける所まで移動し気配を消していた。

 何もなければそれで良いと思いながらも念のため彼らの会話を聞いたのだが、ルーナの容姿が目をひいてずっとついて来ていたらしい。


 しかも、ルーナとナンナさんをこの後どうするかという話とヒナは奴隷として売り飛ばそうという会話までしていた。

 俺とレイリーがいるにも関わらず舐められたものだ。

 俺たちがギルドを出てもついて来ていたために、レイリーがどうするか俺に確認をしたわけだ。


 ナンナ家を突き止められるわけにはいかないし、そもそもナンナさんとルーナに言葉に出来ないことをすると宣言していた。

 なにより俺がいるにも関わらず、それらの行動をしようとした事実を許すことはできない。


 「少し離れすぎていたか? 急ぐぞ!」

 「「おう」」

 

 通路の角を曲がり、距離が離れていたことで焦っている三人を見て俺は声をかける。


 「待てよ。そう急がずゆっくりしようや」

 「お前は!」

 「気づかれていただと!? だがお前はDランクになったばかり。しかも異常な速度だから不正したのだろ」

 「そうそう、俺らは実力でDランクになった。しかも三人だ」


 まさかこいつらは俺とレイリーは一応数に数えてはいたが、ルーナやヒナ、バジュラは含まず、しかも俺とレイリーはDランクで二人。

 こいつらは三人だから余裕という判断なのか?


 「俺たちのことを前から知っていたかのような言い方だな」

 「ハッ、お前らは有名だよ。ありえない数のクエストをこなしている不正者だってな」

 「「ハハハ」」


 不正者か。

 まあ、俺たちは自分のダンジョン産のゴブリンの耳でクエストを達成しているから、言い得て妙な表現かもしれないな。


 「そうか。ここではなんだ。もう少し人通りのいない所に行かないか? 理由はわかるだろう?」

 「馬鹿が調子に乗りやがって。さっさと始末してお前のパーティメンバーを探しにいかないとな」


 俺は三人を連れて人通りが全くない場所へと三人を誘い込んだ瞬間に殴り掛かった。


 「グハッ」

 「グギャ」

 「ウギャ」


 俺はパンパンと手の汚れを払う。


 「マスター、まだ生きているようですが?」

 「レイリー戻ったか。折角だし、こいつらは俺のダンジョンのゴブリンの訓練に使おうと思ってな」

 「なるほど。それは良いお考えです。それではマスターは一人よろしくお願いします」

 

 レイリーはそう言うと二人を肩に担ぐ。

 俺も一人を肩に担ぐと、自分のダンジョンへクズを捨てに向かうのだった。


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