第35話 井戸掘り②

 俺は打ち立てた竹をどんどんと打ち込んだり取り出しては穴を掘り進めていく。

 異世界に来て魔法も使わず井戸を掘る。

 異世界転生を夢見て、最悪チートがない場合のために知識を蓄えていたことが役にたっている。


 レベルが上がったせいか、かなり力も強くなり疲れない体になっていて、作業の時間短縮としてはそのお陰で助かっている。

 ただ、逆にそのせいで打ち込んでいる竹を粉砕してしまいそうで力加減が難しい。


 3メートルほど掘り進めると粘土に砂が混じるようになってきた。

 ここまでで、表面は赤土、1,5メートル付近で黒土、そこから黄色い粘土の層の後に粘土と砂が混じる地質に順調に変化している。

 地下水は砂の間を通って流れるので期待値が上がってきた。

 俺は慎重にさらに奥へと掘り進める。


 すると4メートル付近から取り出す土は水気を含み、5メートルで砂礫されきとなって水脈へと到達した。

 近くに井戸があったので早い段階で水が出るとは思っていたが、予想より1~2メートルも早く水脈に到達したようだ。


 「ってまさか自噴じふん井戸か!?」


 水脈へ到達してすぐに水が表面まで湧き出たことから、俺が掘った井戸はどうやら自噴井戸らしい。

 自噴井戸とは粘土層の上に帯水層があるとその重さから圧力がかかり、水は逃げ道を探して噴き上がってくるものを自噴井戸という。

 ポンプいらずで結構珍しい井戸である。


 俺はさらに1メートルほど竹で穴を深く掘り、水脈を安定させた。

 そして別に作っておいた竹の節ごとに一度穴をあけて中の節をとり、その穴をもう一度塞いだ竹を繋ぎ合わせて、長さを調節するとそれを穴に入れて周りを土で埋めた。

 

 「キョウジさん、もう井戸ができたのですか!?」

 「ああ。ただ、綺麗な水になるには半日くらいかかるかもな。しかしこのままだと自噴してくるせいで水が出っぱなしだな……」

 「これなら近くの他の方に開放すれば喜ばれますね」

 「ああ、それはもちろん構わないんだが、これで終わりじゃないぞ? 自動給水装置を作ることが今日の目標だからな。とりあえずはこの井戸に指している竹の先端を加工して両側へ水が流れるようにしてっと……」


 今回の井戸は常に水がで続けてしまうので俺はため池を作ることにした。

 日本であれば蛇口を取り付ければ、押し上げられる水はそのまま地下水として地下に流れるので問題はないのだが、今の俺では鋳造ちゅうぞうすることが出来ないので蛇口そのものを作ることはできない。

 ペットボトルでもあれば……と考えて閃いた!


 これは災害時なんかで日本なら役にたつことなんだが、ペットボトルの下側に小さな穴をあけて、その穴を指で塞ぎながら水を入れ蓋を閉める。

 そしてそれを立てれば、片手でペットボトルを持っていると片方ずつしか洗えなかった手が両手で洗えるようになって、しかも水量の消費も少なくて済む簡易蛇口が作れるということを思い出した。


 警視庁のホームページにも災害対策で使える知恵として載っている豆知識だ。

 ちなみに穴をあけたら、水が無くなるまで流れ出ると思うかもしれないが、小さな穴をあけたところを上にしてペットボトルを寝かせれば水は漏れない。

 この着眼点から、俺は竹でも同じことができると気が付く。

 古くから、竹は水筒として使われていたことを思い出したのだ。


 俺は先ほど加工した井戸についている先端を切り取る。


 「キョ、キョウジさん!? 今、加工してうまく出来ていた所をいきなりバッサリと切ってどうするんです!?」


 まあ、わざわざ加工した所をすぐに切り落とせば、頭がオカシイと思われるよな。

 砂場で手の込んだ城を作ったら、即壊すみたいな所業だ。


 「ちょっと思いついてね」


 俺はそう言うと節が残った竹を取り出し、一つだけ節を残して下側を削っていく。

 そして先ほど切り取った井戸の先端にはめ込むと、一番上には節があるために噴き出していた水は止まった。

 念のためにはめ込んだところは布で縛って外れないように強化しておく。


 そして竹の節の少し下に穴をあけると、そこから小便小僧のように水が流れでた。

 さらに俺は親指程度の木材を取り出すと、それを削っていきだんだんと太くなるように作ると、小便小僧のようになっているアソコへとそれをねじ込む。

 ワインのコルクのようと言えばわかりやすいかもしれない。


 「よし! これで蛇口が完成だ!」

 「す、凄い……」

 「まあ、少しの間は流しっぱなしにして綺麗な水が出るまで待ちましょう。その間は畑の草ぬきでも手伝いますよ」


 不純物の多い地下水のままだと、単にその水を水やりとして使うだけなら問題はないのだが、俺がこれからしたいことは綺麗な水でないとうまくできないのだ。

 草ぬきをしたりして畑の作業を手伝っていると、ナンナさんから声がかかる。


 「キョウジさん今日はこのくらいにしましょう。ルーナとヒナが戻る前に、昼食も作らないといけませんから。お昼は何か希望がありますか?」

 「いや、俺は竹が足りないので買いに行って、少しその竹の加工をするので戻ります。また昼の鐘の……次の鐘……午後3時くらいにここにきて作業をするつもりです」

 「畑はキョウジさんには関係がないのに苦労をかけてごめんなさいね」

 「俺はこういう業者の力を借りずに自分自身で何かを作ることは好きなんで、むしろ楽しいですよ」


 俺はそう言ってナンナさんを家まで送ると竹を買いに行き、他にも必要な材料を手に入れるとダンジョン内で竹の油ぬきをした。

 午後3時ごろ、畑へ戻ると出しっぱなしにしていた井戸水は濁りもなくなり、水量が落ちることもなく水が透明になった以外は変わりがないようだ。


 俺はその水が入るように大きなかめを近くに設置する。

 甕から水が溢れ出しても良い様に水路を作ると、その先に小さなため池も作っておく。

 そして甕に水が溜まる間に、畑にそって地面から少し高い位置に竹を繋げていく。

 さらに作物の根がある所で竹の上部を少しだけくり抜いていった。


 その作業が終わる頃には甕に水が溜まりあふれ出ていたので、雑貨屋で見つけたチューブのような魔物の素材を甕に入れて逆側から吸う。

 そしてそれを繋げた竹の上に置くと……逆から俺が吸ったことでチューブ(魔物の管)の中は水で満たされる。

 そうすると、サイフォンの原理・・・・・・・・によって、水が魔物の管を通って竹に流れ込んだ。

 

 甕から竹に水が流れる量が多いと竹の上部にくり抜いて穴をあけた所から水があふれ出てしまうので、竹の高さと甕に入れたチューブ魔物素材の管の高さを調節する。

 これによって、竹の中が水でいっぱいになる前に甕から竹への水の流入が止まるように調節することができた(サイフォンの特性)

 さらに作物の根がある近くに開けた竹の穴に、俺はひもを入れて固定をするとそのひもを作物の根の所まで伸ばして置いていく。


 これで今度は、毛細管現象・・・・・という原理で、竹の中の水がひもを伝って作物のある場所まで流れることとなる。

 ついに自動給水装置の完成だ。

 まさに知恵の勝利と言えるだろう。

 毛細管現象を分かりやすく説明すると、バケツに水を入れて乾いたぞうきんの端を水に浸すと、どんどんと水を吸い上げる現象と言えばわかりやすいだろうか?

 これはぞうきんでなくとも、キッチンペーパーやひもなんかでも同じことが起きる。


 毛細管現象と言う名称はあまりなじみがないかもしれないが、現代人であれば多くがその恩恵を受けている。

 例を挙げれば、吸汗速乾と書かれているようなTシャツは、汗を素早く吸収して生地の肌側についた汗を外側に移動させてから、素早く拡散・乾燥させている。

 太さの異なる糸で多層構造を作ることによって、毛細管現象を利用しているのだ。

 マスクなんかでもドライや吸水速乾と書かれていれば、この毛細管現象の効果を高めたものとなっている。



 「あ、にいにいた!」


 自動給水装置の完成に満足していると、ヒナの声が聞こえる。

 どうやら、ナンナ家が勢ぞろいでやって来たようだ。


 「井戸を一人で作るなんて信じられない!」

 

 ルーナは驚いて俺にあれこれと聞いてくる。

 その中でこの水は飲めるのかと聞かれたが……。


 「沸騰させれば問題ないが、飲料水にはしない方が良い。浅い井戸だから大腸菌のような細菌が混入している可能性があるからな」

 「だいちょーきん?」


 ヒナには難しいと言うか、この世界では大腸菌と言っても通じないか。

 ろ過装置も作ろうかとは考えてはいたが、飲料水にするつもりがなかったので作らなかった。


 「飲むと病気になったりする原因が大腸菌だな。沸騰させれば問題はないが……。というか、町の中にある井戸も水質検査なんてしていないだろうから、もしかしたら体に良くないのでは」

 「水質検査? 井戸水は井戸水でしょ?」

 「まあそうだが。水は基本的に一度煮沸をしてから今後は使うようにするべきだな」

 「フーン。キョウジが言うなら気を付けるわ。お母さん?」

 「ええ。難しいことを知っているキョウジさんが言うなら気をつけますね」

 「この町のことや常識は知らないのにね!」


 いやルーナよ。

 この世界のことがわからないだけで、俺は常識人だぞ!

 もう人じゃないけど。

 俺はこの後、井戸の使い方や自動給水の話、それらの注意点などをナンナ家の三人に伝えナンナさんの仕事の手間の一つを減らすことに成功したのだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あけましておめでとうございます。

 今回の竹での井戸掘りや自動給水はかなり斬新で実際に可能なものなのですが、サイフォンは書かれている小説はあっても電源なしの自動給水はないと思います。

 ただ……説明が難しい……。


 

 

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