第27話 怖くないダンジョン②
「にいに きょうは さきにぎるどに いかなくちぇいいの~?」
「わふぅ」
「ああ、今日は町から少し外れたところに良い狩場の洞窟を発見してな。そこでゴブリン退治しよう」
「ごぶりん!」
俺とレイリーはルーナ、ヒナ、バジュラと合流して俺の作ったダンジョンへと向かう。
「ゴブリン……。それで私にもこんな立派な剣をくれたのね。ヒナにも短剣をくれて。頑張ってこの剣の代金は返すから!」
ゴブリンと戦うのにさすがに無手と言うのはありえないので、俺は武器屋でルーナとヒナが扱えそうな剣と短剣を購入して今日会った時に渡している。
と言っても、俺のダンジョンなのでルーナたちに攻撃をするなと命じれば反撃を一切することなく倒すことも可能なんだが……、ダンジョンで作られた簡単にポップする魔物とは言えさすがにそれは忍びない。
まあ、ダンジョンに入った時点でルーナとヒナとバジュラはダンジョンコアに認識をさせてダンジョン側の攻撃は訓練仕様で、何かあれば逆に助ける行動をとるようにインプットすることにしてはいる。
ダンジョンコアと一体化している俺が認識するだけで実際は同じ事ができそうではあるのだが、今の所やり方がわからずダンジョンに入った時点で全てのものは個別認識をしてダンジョンコアに記憶されることが判明しているので、それを使って今回はルーナたちの安全を守ると言う訳だ。
「ナンナさんもいずれしておく必要があるな……」
「え? お母さんがどうかしたの?」
「あ、いや……これから行くところなら、ナンナさんも一緒で良かったかもと思ってな。ゴブリンを殺すことに禁忌感がなければだが」
まあ、異世界なのでヒナのように幼児でも獣人なら身体能力が高かったり、魔物そのものが敵と言う認識でナンナさんも倒すことは出来るんじゃないかとは思うんだけどね。
「お母さん? 畑仕事の水やりと雑草の処理さえ終われば来ることもできるかな?」
「おかーしゃんとぼうけん!」
「わふう」
「まあ、それは今回ルーナとヒナがどれくらいやれるか試してからだな」
「おー!」
「うんっ!」
農地の雑草対策はほんとうに困るから、ナンナさんだけでは重労働だろう。
たまに俺も草刈りを手伝いに行くか。
俺たちは会話をしながらダンジョンへと向かう。
ヒナはナンナさんとの冒険を楽しみにしているみたいだが、俺の目的は世話になった人を俺のダンジョンの魔物で命の危険がないようにすることが一番の目的だ。
まあ、ダンジョンを公開しても入らなければ良いだけなんだが……そう言えば管理されている俺のダンジョンでもスタンピードは起きるのだろうか?
後でレイリーに聞いておく必要はあるな。
魔物がポップしすぎてひしめくような状態はダンジョンにとって健全とは言えないので、魔物を放出させるためにダンジョンの仕様になっている可能性も否定できない。
「ん? 目的の場所の前に別の冒険者パーティがいるようですね」
「立ち止まっている感じか? あそこは俺も魔法の練習に使用したことがあるからそういう目的だと時間がかかるかもしれないな……」
俺より索敵に優れたレイリーが俺のダンジョン前に冒険者がいることを察知したようだ。
ルーナたちは人がいたらダメなの? と言うような表情をしている。
美味しい狩場なら競合する冒険者がいてもおかしくはないしな。
ただまあ、俺たちがこれから行くところは隠蔽されている俺のダンジョンなので入るとこをを見られるのは困る。
「どうやら朝食をとっているだけのようです」
「それなら少し待てば問題ないか、少しここで待っていよう。リーナとヒナは剣が上手く振れるか試したらどうだ? レイリー、二人に振り方を教えてやってくれ」
「了解です。お互いの剣が当たると危険なので少し離れて……振ってみてください」
この世界に来て俺も時間がある時には
体術というか空手なら道場に通っていたこともあるが、それも就職するまでだった。
まあ子供のころからやっていたのでそれなりの期間ではあるが。
「やっ とぅー はちゃー!」
ヒナが短剣を振り回す姿は、本人は一生懸命やっているのだろうが微笑ましい。
「えいっ! えいっ!」
ルーナは普通に上から剣を振り下ろす素振りだな。
これなら俺でも教えられるが……、まあレイリーに任せておけば問題ないだろう。
俺も剣術のスキルを取得すれば、脳に振り方や体の使い方が脳にインストールしたような状態で覚えることは可能なんだろうがね。
「ルーナ様は握り方をもう少し……こういう風に握って下さい、そう、それでそのまま先ほどのように振り下ろして」
「えいっ! えいっ!」
「レイリーおにいちゃん! ヒナは? ヒナはー?」
「ヒナ様はそうですね、短剣術を覚えて行きましょうか。握り方はこうで……」
レイリーがルーナに『様』をつけて呼ぶのをルーナは誇示していたのだが、結局は言いくるめられていた。
ヒナ? ヒナは最初からレイリーにヒナ様と呼ばれて嬉しそうにしていた。
犬じゃなくとも猫でも序列には敏感なのか?
「食事を終えた冒険者が来るようです」
ダンジョンを作った広場は行き止まりなので、食事をするために立ち寄っただけでこれからクエストにでも行くのだろう。
「おや? 私たちが広場を使っていたせいでここで訓練をさせちゃったのかな? 可愛い子には私たちがいると怖がらせちゃったかな」
「いやそういう訳でもないんだが場所に余裕があると言っても、食事中に近くで訓練をされても嫌だろう?」
「ハハハ。お兄さんに気を使わせちゃったみたいだね」
俺は冒険者パーティの一人である姉御風な女性と会話を交わし、それ以外には目礼をしてやり過ごす。
「よし、じゃあ行くか」
剣の素振りを止めたルーナたちと俺は目的の場所へとやって来る。
「ここだ」
俺が大きな岩の隣に手をかざすと、そこには隠蔽されていたダンジョンへの入り口が現れた。
「こ、これはダンジョンじゃ!? しかもさっきまで見えなかったのに。キョウジ、ここ大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。どうも通常ではわからないようになっているようなんだが、見つけたんだ。レイリーと入ってみた感じ問題なさそうだったから行こう」
「ぼうけん!」
突然現れたダンジョンにルーナは驚き、ヒナは冒険を楽しみに俺たちはダンジョンへと足を進めるのだった。
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