影の王家 2
カーギルとクラディウスは顔を見合わせた。
「クレオンブロトスさま、それはいささか考えすぎでは?」
と、カーギル。
クレオンブロトスはテーブルに
「確かめる方法はいくつかあるぞ。
一番手近なのは、あのティリオンをもっときつく……死ぬ寸前まで締め上げてみることだが……」
クラディウスが息を飲み、何か言いたげに口を開いたが、カーギルに睨まれて口をつぐんだ。
それを複雑な表情で見ながら、クレオンブロトスが続ける。
「だがあの様子では、これ以上は死んでも何も吐きそうにないな。
アテナイ人にしてはあいつめ、たいした根性を持っているようだからな。
あいつには他に使い道を思いついた事があるから、とりあえずあまり弱らせずに置いておくことにする。
他にも、アテナイ軍と本格的な
22年前に
もちろん、私はまだ王として指揮していなかったから、その強さが新しく組織されたアテナイ軍のものだとはいいきれぬが……
単独のアテナイ軍と戦ってみて、そういう視点を持って観察し調査すれば、組織の有無をある程度確かめられる。
ただし、この間のピレウス港沖の
もっと本格的な
カーギルが低い声で問う。
「では、アテナイと本格的な
クレオンブロトスの表情が一瞬、野獣じみた怒りを浮かべた。
「いいや、やるとしてもアテナイはもっと後だ。
叩くのはテバイ!
我々を平和会議から閉め出し、会議をぶち壊してくれた礼はたっぷりさせてもらうぞ!!
今からすぐにでも準備を始めて、夏が終わる前にはテバイへ進軍するつもりだ」
「賛成ですな。すぐにテバイを叩きつぶしに参りましょう」
と、カーギルも凶暴な笑いを見せる。
クレオンブロトスが頷いて、言う。
「そこで、だ。
この機会を利用して、私はアテナイに罠をかけようと思う。
この罠にあいつを使う。
あいつがアテナイで起こした事件のことは知らぬふりをして、アルクメオン家宛に書簡を送りつけてやるんだ。
テバイに宣戦布告するから、あいつの命が惜しければこちらに同盟し、協力しろ、とな。
それですんなりあのアテナイがこちらにつくようなら、あれだけの大事件を起こしたにもかかわらず、アルクメオン家なりその下の組織なりが、まだあいつを大いに必要とし、そのためにアテナイを動かすだけの強い力を持っている事がわかる。
そしてあいつを生かしておくために、おそらく事件はもみ消されている。
こうなってくるとおもしろい。
影の王家の存在は見えたも同然で、我々は、ティリオン・アルクメオンという、影の王家とアテナイ中枢組織への切り札を手にいれたことになる。
しかし、アテナイがいままで通りテバイにつくようなら、影の王家、などというのは私の思い過ごしだ、と。
アテナイは、13年の実績を誇る自国の
そしてあいつが言っているように、フレイウスは本当にあいつの首を取りにきていたのかもしれん」
「あの……それで、結局、ティリオンはどうなるのですか?」
兄カーギルの顔色をうかがいながら、クラディウスがおずおずときく。
クレオンブロトスは、いかにも心配そうなクラディウスを見、眉をひそめ、ことさらに冷たい声を出した。
「まあ、アテナイがこちらに協力するなら、命くらいは助けてやる。
アテナイは平和会議の件では、テバイとつるんではいなかったのだからな。
ただ今後はアテナイに対して、あいつの存在を十分利用させてもらう事になるだろう。
アテナイが中立を守るようであれば、その時点でもう一度考える」
そして突き放すように言った。
「だが、アテナイがテバイにつけば、みせしめとしてもちろん殺す。
ただし、父親アテナイ・ストラデゴスを斬った重罪人の処刑を、こちらが受け持たされるだけではつまらんから、せいぜいその体を
そうだな……戦場のアテナイ軍の目の前で、派手に八つ裂きにでもして、軟弱なアテナイの奴らが震え上がって戦意をなくすように仕向け、早く
アテナイの出方が決まるまで、あいつは監禁しておく」
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