真実 4
鏡を見るたび、父とそっくりな緑の目と
だが、実の父に11年間騙されていた、というのと、他人に騙されていた、というのとでは、ティリオンの心に加わる衝撃が違う。
実の父を斬った、というのと、他人を斬った、というのとでは、自分の犯した罪に対する
だから
クレオンブロトスの言うことを認めれば、
「……くっ!」
「なんだその顔は? まだ違うとでも言いたいのか、え?
おまえはアルクメオンだろうが、ティリオン・アルクメオン!」
「……いやだ……ちがう」
「こいつ、まだそのようなことをっ!!」
またしても
激しく打たれるティリオンの心は、幼い頃にも
エレクテイス家当主の父に
緑の目のテオドリアス・アルクメオン。
しかし、父におじさんと会うことを禁じられ、道でおじさんに「もう会えない」と断ると、そのあと恐ろしい男たちに襲われた。
そこにおじさんもいた。
今から思えば、助けにきてくれていたのだろう、とも考えられるが、6歳のその時は、逃げようとする自分を捕まえるおじさんは誰よりも怖かった。
そしておじさんは、エレクテイス家当主の父を殺した。
血の海に倒れていた父のそばで、血にまみれた手で、血のついた短剣を持っていた。
エレクテイス家当主の父には、嫌われていることはわかっていたし、自分を嫌っている父はもちろん好きではなかった。
それでも父だと思っていたから、いつか好いてもらえるかも、好きになれるかも、という期待があって、殺されたのを見た時はやはりショックだった。
恐怖し混乱する6歳の頭の中で、おじさんへの信頼は、壊れた。
だからティリオンは母だけを呼んだ。
もう母しかいなかった。
それなりに孫として扱ってくれた祖父を亡くし、父に虐待され続け、ならず者に襲われ、おじさんへの信頼を失い、友もない、幼いティリオン。
深く傷ついた心ですがりつけるのは、もう母だけだった。
ティリオンの大事な母、愛する母、最後の救いである母。
でも、母はいくら呼んでも来てくれなかった。
ティリオンは生きる気力を失っていった。
そんなティリオンの前におじさんは再び現れ「必ず母に会わせる」と約束した。
「母に会わせるから自分の言う事をきけ」と言った。
どうしても母に会いたいティリオンは、言う事をきいた。
だが実は、それだけではない。
ティリオンのなかには、優しく親切だったおじさんをもう一度信じたい、という気持ちがわずかに残っていたのだ。
その後、実の父親だと名乗ったおじさんは、ティリオンの新しい父となった。
緑の目のテオドリアス・アルクメオンは、優しい父だった。立派な父だった。
貴族アルクメオン家当主として、氏族組織の長として、アテナイ・ストラデゴスとして、多忙な日々の中でもできるだけの時間を作ってティリオンを可愛がってくれた。
やがてティリオンは優しい父になつき、立派な父を敬愛し、信頼を取り戻していった。
それなのに……
テオドリアス・アルクメオンは、またもやティリオンの信頼を裏切っていた。
必ず会わせると約束した母は、すでに死んでいた。
ティリオンが6歳のときに、母はすでに自殺していたのだ。
ある出来事があって、エレクテイス家からアルクメオン家への大量の財産譲渡書類と、欄外に母の自殺の書かれた手紙をティリオンは発見してしまった。
母に必ず会わせる、と約束をした最初から、テオドリアス・アルクメオンは自分をずっと騙していた。
信じ切っていただけに、その時の凄まじいショックは、ティリオンに通常の思考を失わせ、殺意をまで抱かせるに十分だった。
そしてティリオンを騙し続けてたのは、テオドリアス・アルクメオンだけではない。
かけがえのない存在だった、フレイウス。
忠実な守護者であり、誰より信頼できる師であり、いつもそばにいて、特別な強い絆で結ばれていた、フレイウス。
そのフレイウスさえも、ティリオンを騙すことに
オレステス将軍、ゼウクシス、パトロクロス、ギルフィ、アルヴィ、マイアン、ビアス……
それらの者全て……ティリオンの回りにいた者全てが、ティリオンに母の死を隠して騙し、エレクテイス家の財産横領にも協力していた。
アテナイで信じていた者、愛していた者、すべての者にティリオンは騙され、裏切られたのだ!
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