真実 3
王宮の地下の拷問室で、兵士にひとしきり
「この馬鹿者がっ!
あれほどアテナイ人を信用するな、と言っておいただろうがっ!!」
ティリオンの
鼻と口から血を流しながら、拷問室の冷たい石壁を支えにしてやっと立ち上がり、 腫れ上がった唇で言う。
「申し訳ありません……」
「きさまのやった事が、あやまって済む事と思っているのかっ!!」
兄の
クラディウスはすでに、ティリオンに関していままでアフロディアに頼まれてやったことを、全て白状させられていた。
「もういい。やめろ、カーギル」
血まみれの弟の胸ぐらをつかんで引きずり上げ、まだ殴ろうとしたカーギルを、クレオンブロトスが止めた。
「頼んだアフロディアも悪い。
クラディウスに対しては、その程度でいい」
「しかし、こいつはっ」
「やめとけ!」
「……はっ」
カーギルを止めたクレオンブロトスは、ティリオンに向き直った。
ティリオンは、両手首を
鎖でひとまとめにくくられた足はかろうじて床に届いているが、気を失っているため、
上半身は裸で、激しく
「水をかけろ」
そう兵に命じて、クレオンブロトスは自ら
びゅっ、と音をたてて試し振りをする。
ざばっ!!
冷たい水を頭からかけられたティリオンが、
クレオンブロトスが濡れた銀髪をつかんで、ぐいと顔を上げさせる。
「休み時間は終わりだ。
アテナイ・ストラデゴスの息子よ、目を覚ませ」
「う………あ……」
ティリオンのまぶたが薄く開いて、エメラルドの瞳が覗く。
クレオンブロトスは顔を寄せて言った。
「さっきの続きをするぞ。
おまえの目的は、テバイとつるんで平和会議をぶち壊すことと、他には何だ?」
「………ちが……う」
「何のためにスパルタへ来たのかっ!」
「………ア……テナイから……逃げ……てきた」
「嘘をつくな!
おまえは、父親のアテナイ・ストラデゴスから
そうだろうがっ!」
「……ちがう、私は……何もしらな……い……
びゅっ、と
クレオンブロトスが腕を振る度、飛び散る血が王の服を汚していった。
「はうっ! うあっ! あっ、あっ、あ――っ!!」
ティリオンのかすれた悲鳴。
やがてクレオンブロトスは
「どうだ、えせ楽士。いいかげんに全部吐いてしまえ!
もう髪の毛の影や幕の後ろに、こそこそ隠れることはできんぞ、
「………」
血のにじんた唇を噛んだティリオンの緑色の目が、悔しげにクレオンブロトスを睨んだ。
クレオンブロトスは
「はっ、臆病な楽士変じて、ずいぶんと気が強くなったものだな。
だが、スパルタ王宮に密偵として潜入するくらいだ。
ふてぶてしいこっちがおまえの本質なのだろう、アテナイ・ストラデゴスの息子よ」
「……私は、アテナイ・ストラデゴスとは……何の関係も……な……い」
歯をくいしばってティリオンがそう言ったとたん、今度はクレオンブロトスの平手打ちが飛ぶ。
「うぐっ!!」
「嘘をつくな、と言ったはずだ!
おまえがテオドリアス・アルクメオンの息子、すなわち、アテナイ・ストラデゴスの息子であることは分かっている」
「う………うっ」
「おまえのその目、それは父親テオドリアス・アルクメオンの目と全く同じだ。
私は7年前、テオドリアス・アルクメオンのその目を見ている。
アルクメオン家独特の色合いの、緑の目をな!」
クレオンブロトスの言葉は、ティリオンの一番触れられたくない部分にまともに突き刺さってくる。
つまりテオドリアス・アルクメオンが、やはり自分の本当の父親であることを認めろ、というのだ。
すなわちティリオンが、血のつながった実の父に11年間騙され、その上で、実の父親を斬ったことを認めろ、と。
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