それぞれの想い 6
フレイウスは静かに、だが素早く歩んで机の前に立った。
はりつめた
書簡を読み進むにつれ、引き締められていた口許が大きくほころぶ。
「ありがとうございます! これで堂々とスパルタ領に入れます。
オレステスは苦い顔になった。
「それを議会で議決させる事が出来たのは、
平和会議への参加を要請しておきながら、スパルタの
事前に、スパルタの来襲がある、との情報は入ってきていた。
だが、平和会議への参加を要請してきているくらいだ。
海賊とつるんでいるスパルタのはぐれ者がちょっと襲ってくるのか、程度に思っていたら、平和会議を要請しているスパルタの
まさか、こちらの返事が遅い、とのスパルタ式催促のつもりではあるまいな」
「我々も、一年とはいささか待たせすぎてしまいましたから……
待ちくたびれて、スパルタ人らしい乱暴な催促をしたくなったのかもしれません」
と、フレイウス。
複雑な表情になる、オレステス。
「確かに、一年待たせたのは長かったかもしれん。
実際、あのかたの件がなければ、返事はもっと早かった。
調査を終えた今年の春には、返事を出していた。
ただし、内容はこれとは逆で、
我々はこの平和会議の提案は、時期が悪すぎるとみている。
テバイとボイオティア同盟の政情が、非常に不穏なのだ。
特に、テバイの指導者となったエパミノンダスという人物には注意を要する。
この点、平和会議を開くとなれば、本国スパルタに他のポリスの人間を多数、引き入れることになる
が、あまりその辺には
腰の後ろで組んでいた手を解き、窓際から執務机のほうにゆっくり歩みながら、オレステスが続ける。
「しかし我々としても、スパルタへ逃げ込まれる、というような事態になってしまった以上、この会議への招きを利用するしかない。
つまり、スパルタへ平和使節を派遣するのは、おまえをスパルタ領内へ入れるための口実。
最終目的はあくまで、おまえの任務のためだけ、と思ってくれていい」
大切な書簡を胸に抱いて、フレイウスは深々と頭を下げた。
「承知しました。
数々のお骨折り、心から感謝します。
今度こそご期待にそえるよう、全力を尽くします」
「その書簡は、船便でスパルタに届けさせる。
おまえは平和使節団の警護隊の隊長として着任し、平和使節団を連れてコリントス西あたりまでは船、あとは陸路で捜索、ということになるが……」
「はい、連れていく平和使節団の準備ができ次第、すぐにでも出発したいと思っています。
一刻も早くとって返して、捜索を急ぎませんと……」
右手を軽く振って、オレステスはフレイウスの言葉をさえぎった。
「待て、早まるな。
焦りは禁物と言ったはずだぞ。まだこちらの話は終わっていない」
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