陰謀ピレウス港 4 *
「去年の秋に……
一年近くも前に送った
と、カーギル。
頷くクレオンブロトス。
「うむ、そうなんだ。
だがコリントスでも、平和会議参加の決定には色々ともめて、
内部で大いにもめているのかもしれん。
ここでクレオンブロトスは首をかしげた。
「ただ奇妙な事に、返事が遅いだけでなく、私が
今年の春ごろから、人前に全く姿を見せなくなった、との報告をうけている。
平和会議への返事の催促も、何度か追加書簡で出したんだが、もはや本人に届いているのかもわからない状態だ。
かといってアテナイ
あんな、適当に選んで寄せ集めた奴らなど、アテナイの反スパルタ世論に流されて、この平和会議の本質を理解しようともせず、反対反対と感情的に騒ぐくらいが関の山だろうしな。
ここは何としても、アルクメオン家のアテナイ・ストラデゴスと交渉がしたいのだが、本人の行方がわからなくて困っている」
「まさか、フォイビダス将軍とアテナイ・ストラデゴスがすでに手を結んでいるのでは?」
疑い深いカーギルの言葉に、クレオンブロトスは首を振った。
「いや、違うな。
フォイビダスなど、それこそ賢いアテナイ・ストラデゴスに取り入ろうとしても、鼻であしらわれるだけだろうよ」
遠くを見る目になって、王は続けた。
「私がアルクメオン家のアテナイ・ストラデゴスと会見したのは、もう6年も前になるが、非常に
軍人とは思えないほど性格は穏やかで、
だから私の平和会議の申し出にも一番に理解を示してくれると思ったのに、どうして返事をくれないのだろう?」
カーギルは、眉間に険しく皺を刻んでいた。
「王よ、アテナイ人を簡単に信用してはなりませんぞ。
奴らは軟弱な分だけ、ずる賢くて卑怯な手を心得ています。
私とて、クレオンブロトスさまのたってのご希望でなければ、あんな連中と手を組もうとするなど、とても
「わかった、わかった」
クレオンブロトスは苦笑して、
そしてすぐ、表情を引き締めて
「だが、アテナイのような大ポリスを計画から外す訳にはいかない。
すべてのポリスが力を合わせねば、『ペルシャ大王の和約』は破れない。
このままポリス同士で争いばかりしていては、我らはどんどん消耗し、近い将来、スパルタはもちろん全ギリシャが、ペルシャ帝国に呑み込まれてしまうだろう。
そんなことになる前に、私は何としてもギリシア全体平和会議を開き、
「険しい道のりですぞ」
「承知しているとも、だが、やりがいのある仕事ではないか。
だからおまえも、手伝ってくれているのだろう?」
「さて、もう寝るとするか。
ピレウス港襲撃など、どうせ初めからやるつもりはなかったからな。
こうもきれいに密告して引き上げる口実を作ってくれて、かえってよかったようなものだ。
明日の夜明け前にはここを出発して、スパルタに帰還するぞ」
しかし、こうして眠りについた、夜半過ぎ。
きな臭い空気に目を覚ましたクレオンブロトスは、自らの計画が大きく
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人物紹介
● クレオンブロトス王(25歳)……二王制軍事国家スパルタの、アギス王家の若い王。
強くたくましく、賢い王で『スパルタの
● カーギル近衛隊長(26歳)……スパルタ軍、アギス王家の近衛隊長。クレオンブロトス王の腹心の部下。
クラディウスの兄で、アテナイ人嫌い。
● ペイレネ嬢……コリントス人。クレオンブロトス王の想い人。
● スポドリアス中隊長……フォイビダス将軍の配下で、クレオンブロトス王を陥れようとしている。
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