陰謀ピレウス港 3 *
疲れた顔で
「もはや奴を生かしておいてはなりません。害になるばかりです。
王よ、どうぞ私に、始末のご命令を」
クレオンブロトスは首を振った。
「いや、スポドリアスの処分は、スパルタに戻ってから正式に行う」
「そんな、クレオンブロトスさま!」
荒々しい足取りで、カーギルはクレオンブロトス王の前にまわって片膝をつき、訴えた。
「これ以上は許せません!
スパルタに戻れば、フォイビダスやアゲシラオス王の
この前のときのように、また
クレオンブロトス王はもう一度、
「だめだ、まだ奴を殺してはならん。
今ここでスポドリアスを殺せば、奴を操るフォイビダス将軍に、色々と
「しかし、しかし、奴めは」
悔しげに顔をゆがめ、納得出来ない様子のカーギル。
クレオンブロトスは小声でなだめた。
「ここは、こらえてくれ、カーギル。
フォイビダス将軍の陰謀など、私さえ注意深くしていれば避けられる。
奴は
私への罠をかける時も、みえみえだからな。
それより私は、例の、『ギリシャ全体平和会議』の計画が成功するまでは、できるだけやっかい事を
実はな……」
ここで、王の
「実は、計画の実現に大きく前進することが出来そうなのだ。
コリントスとの交渉がうまくいったのでな」
カーギルが驚きの声を上げる。
「コリントス・ポリスから、良い返事がございましたか?!」
頷いて立ち上がり、近くの小机に行って上にある箱を開け、一通の
目くばせでカーギルを呼ぶ。
そして、コリントス・ポリスの聖獣、イルカの紋章の
小机の上のランプのあかりのもと、書簡に目を通したカーギルが、
「うーむ、そうでしたか、あのコリントスまでが平和会議出席を承知するとは……
正直いって驚きました。
しかし、これの裏には、ペイレネ嬢さまの、かなりのお骨折りがあったから、ではないですかな?」
ペイレネ嬢、という名前を強調して、カーギルがクレオンブロトスを
その名に、わずかに頬を赤くした若い王は、素早く暗がりの方へ顔を
小さくため息をつき、カーギルは口調をあらためた。
「ともあれ、これで、テバイ、エレトリア、メガラ、アルゴス、テゲア、マンティノア、デルポイ、トロイゼン、等々……、そしてコリントス。
ギリシャの主なポリスの、平和会議参加の返事は取り付けたわけですな。
たった一つを除いて」
「そうだ」
背けた顔を戻し、
「問題は、アテナイだ」
――――――――――――――――*
ギリシャの
● スパルタ……二王制軍事国家。スパルタ教育で有名。国民皆兵で、鍛えられたスパルタ戦士による、強力な軍隊を持っている。
● アテナイ……民主制国家。学問と芸術が盛ん。エーゲ海に面するピレウス港を持つ、海運国。
● テバイ……民主制国家。農耕が盛ん。
● コリントス……
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