出会い 5 *
「ハハハハハハハ! ハハハハハハハッ!」
甲高い笑い声が響き渡った。アフロディアである。
彼女はここぞとばかり、まぬけた顔になった幼なじみをあざけった。
「ハハハハハハ、こいつは面白いぞ!
こんな村に、凄い反乱者もいたものだな、クラディウス。
絶対逃がすな、しっかり捕まえろよ!
ハハハハハッ、アテナイのペリクレスとは、アルクメオン家のペリクレスとは、超、超、凄いじゃないか。
アテナイ
もし捕まえられたら、とてつもない大手柄だぞ! ハハハハハハハハハハハハ」
スパルタ兵たちの遠慮がちなくすくす笑いの中、アフロディアは、クラディウスの回りをふざけた足取りで、ぐるりと一周した。
「まあ、おまえなんぞには、50年だか60年だかも前に、
ハハハハハハハッ」
アフロディアの言葉に、いつも年長者の話に最後までまともに耳を貸さなかった、
驚愕と恐怖に満ちた目は
アフロディアは膝を叩いて大笑いしていた。
「ハハハハハハハ、こいつは全くおもしろい!
こんな所へ、わざわざ奴隷なんぞにからかわれに来て、ハハハハハハハハハハ。
ヒヒヒヒ、ハハハハハハハハハ、アテナイのペリクレスだって?
ほ、骨のかけらでも残ってればたいしたものだ、なあクラディウス。
ハハハハハハハハハハハハ、アーハハハハハハハハ……」
アフロディアは、最初はあてつけ半分の笑いが止まらなくなっていた。
この年頃の娘にはよくあることである。
アフロディアの笑いにつられ、スパルタ兵たちも、上官に対する遠慮を捨てて、げらげら笑い出していた。
クラディウスが、兵士たちの笑い声に負けぬ大声で怒鳴った。
「くそっ、ふざけた事をいいやがってっ!
その口、二度ときけんようにしてくれる。
おいっ、奴を連れてこいっ!!」
呆然としていた村長がびっくりして我に返り、クラディウスに取りすがる。
「お許しください!
息子は何も物を知りませんで、どうか聞かなかったことにしてくださいっ」
だが、奴隷にからかわれたと信じ、姫ぎみに馬鹿にされて大笑いされ、部下たちにも笑われ、大恥をかかされた誇り高いスパルタ人クラディウスは、村長を蹴りとばした。
村長は地面に平たくなって、のびてしまった。
村長のかみさんが悲鳴を上げる。
ふたりの兵士が、硬直している末息子の腕を両側からがっきと捕らえた。
両腕をつかまれると、末息子は女のような悲鳴を上げ、腰を抜かした。
村人たちは誰も止めようとしなかった。
いけにえは、自ら進んで選ばれたのだ。
ただ凝固して沈黙し、末息子を見る目は、既に死人を見る目だった。
怒りのままに、剣の
アフロディアの笑いが、小さなしゃっくりの音をたてて止まった。
兄王に大切に保護されて育った王女は、口では偉そうに言っていても、まだこういう場面に慣れていなかった。
後ろめたさと意地の間で、彼女は、クラディウスをなだめる言葉を口にしようかどうか、迷った。
村長のかみさんが気を失って倒れかかるのを、ティリオンは素早く立ち上がって支えた。
彼がこの村に来てから、何かと親切にしてくれた優しい村長夫婦。
ティリオンは叫んだ。
「まてっ、アテナイ人なら、ここにいるぞ!」
――――――――――――――――*
ここで『ギリシャ物語』の時代について、ごく簡単に説明させていただきます。
(ご考までに、です。
以下、お読みにならなくても、ストーリーに差しつかえありません)
紀元前433年頃 ペロポネソス戦争が起こる。
(ペロポネソス同盟盟主スパルタ VS デロス同盟盟主アテナイ)
⇩
長い戦争なだけに、色々なポリスがからみあい、
ペロポネソス戦争の途中で、アテナイの指導者ペリクレス、疫病で死亡。
⇩
紀元前404年頃 スパルタ勝利、アテナイ降伏。
約30年にわたるペロポネソス戦争が終結
⇩
コリントス戦争が起こる。
(スパルタ VS コリントス、アルゴス、テバイ、アテナイの四大ポリス同盟)
⇩
9年後、コリントス戦争終結。
スパルタ勝利、四大ポリス同盟敗北。
⇩
ペロポネソス戦争が終わってから、30年以上、ギリシャの筆頭ポリスとして、スパルタが力をもつ。
⇩
紀元前372年 ← いまここです。『ギリシャ物語』『ギリシャ物語 外伝 ~旅のはじまり~』
スパルタ、強いですねー。
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