出会い 2 *
間もなく、一軒の家から村長と一人のスパルタ士官兵が出て来た。
村人たちは、不思議そうにふたりを見つめた。
村長が青い顔で緊張しきって、かちんこちんと歩いているためではない。
村長の前を歩んでいる、この部隊の指揮官らしい、ずいぶんと若い青年士官。
その青年士官の顔や手足が、
が、左目のまわりのくっきりと丸い
そして皆の視線はすぐ、ふたりの後ろから出て来た、朱色と金色のきらめく鎧を着け、マントがわりの薄い
村人の一部に驚きが走ったあと、誰かが上ずった声で叫んだ。
「アフロディア姫さまだ!」
一斉にざわめきが起こる。
「本当だ、アフロディア姫さまだ」
「なんで、アフロディア姫さまが、こんなところへ?」
「うわぁ、なんて綺麗な金の髪だろう」
「ほんとだ、あんなにきらきら光って! それにあの鎧も、すごく綺麗だねぇ」
「ちょっと、あたしにも見せておくれよ」
「かわいらしいお顔だぁー。お歳はおいくつだっけ?」
「確か、一週間ほど前にスパルタ市でお誕生日のお祝いがあったから、15歳になられたはずだよ」
「でもなんか、姫さま、ご機嫌が悪そうだね」
ざわざわざわ……
村人たちは押しあいへしあいし、スパルタ王国の姫ぎみを眺めた。
意外な人物の登場に、この時ばかりは恐怖を忘れ、
ティリオンも人垣の間から、スパルタの姫ぎみをこっそりと見た。
彼もまず、姫ぎみの見事な金髪の美しさに目を見張り、それから思い出した。
(あの、スパルタの
兄ぎみとかなり年が離れてるな。まだほんの子供じゃないか。
でも、たしかにあの素晴らしい
ティリオンは以前、彼女の兄、スパルタの
もう6年も前になろうか。アテナイ視察に来た当時19歳の王は、アテナイ・ストラデゴス子息であった12歳のティリオンの、すぐ前を通っていったのだ。
年若いが、噂に
(しかし、なぜスパルタの王女がこんなところに来たのだろう?)
ティリオンの疑問は、村人全員の疑問でもあった。
――――――――――――――――*
ここで『ギリシャ物語』の時代について、ごく簡単に説明させていただきます。
(ご考までに、です。
以下、お読みにならなくても、ストーリーに差しつかえありません)
紀元前433年頃 ペロポネソス戦争が起こる。
(ペロポネソス同盟盟主スパルタ VS デロス同盟盟主アテナイ)
⇩
長い戦争なだけに、色々なポリスがからみあい、
ペロポネソス戦争の途中で、アテナイの指導者ペリクレス、疫病で死亡。
⇩
紀元前404年頃 スパルタ勝利、アテナイ降伏。
約30年にわたるペロポネソス戦争が終結
⇩
コリントス戦争が起こる。
(スパルタ VS コリントス、アルゴス、テバイ、アテナイの四大ポリス同盟)
⇩
9年後、コリントス戦争終結。
スパルタ勝利、四大ポリス同盟敗北。
⇩
ペロポネソス戦争が終わってから、30年以上、ギリシャの筆頭ポリスとして、スパルタが力をもつ。
⇩
紀元前372年 ← いまここです。『ギリシャ物語』『ギリシャ物語 外伝 ~旅のはじまり~』
スパルタ、強いですねー。
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