スパルタへ 3 *
泣く少女の背中に、ため息をつくフレイウス。
質問をあきらめ、背筋をのばして振り向く。
そこには、じっと彼の命令を待つ、忠実な双子の青年兵の姿があった。
フレイウスの
本国アテナイから、あちらへこちらへと追跡を続け、もう4ヶ月以上。
長く過酷な追跡任務だった。
けれども、追われる側は、追う側よりももっと苛酷なはず。
追われる側のティリオンは、双子よりももっと痩せ、疲労して、顔色を悪くしているはずだった。
早く捕まえなくてはならなかった。
部下たちのみならず、自らの気力を奮い立たせるためにも、フレイウスはきびきびと命じた。
「やはり、あのかた、は馬で逃げた。
だが、まだそう遠くへは行っていないはずだ。
すぐに
ギルフィは兵たちの状態を見ろ。
やけど等の負傷者には、応急手当をしてやれ。
アルヴィは馬の点検にかかれ。
ばてすぎている馬は、集めた館の馬を借りて交換させてもらう。
一刻を争う事態だ。旅用の荷物の積み替えはしなくていい。
馬具を整え、たいまつの準備が出来たらすぐ出発する!」
ひと呼吸置いて、付け加える。
「それから、館の住人たちを村まで送ってやれ。
誰か兵を1人……1人しか人数はさいてやれないが、護衛につけて、安全に泊まれる場所を確保してやるように」
栗色の髪の双子は、
そして双子の兄のほう、ギルフィが、
「お館の人たちの事はわかりました。
しかしフレイウスさま、
フレイウスは暗い山々を振り仰いだ。
「無理は承知だ。
しかし、やるしかない。
ここはアテナイではないのだからな。増援は呼べない。
だが、私の
追われ続けて、あのかた、の体力は落ちているはずだからな。
急げば追いつける可能性はある。
それでだめなら、さらに南下して、国境ぎりぎりまで捜索してみる」
「南ですか?!」
と驚いた声を上げたのは、双子の弟、アルヴィである。
大きな茶色の目をさらに大きくして、彼は言った。
「でも南には、南には……あの
いくらなんでも、そんな危険なところに逃げ込む、ということはないのでは?」
フレイウスは、
「いや、ここまで追い詰められて、あの
スパルタに逃げ込む決心をした、と私は思う。
スパルタに入るなど、当然ながら、あのかた、にとっても大いに危険なことだ。
それでも、アテナイ軍である我々を振り切るためには、スパルタに逃げ込むことが最も効果ある手段には違いないからな。
だから何としても、スパルタ領に入られてしまう前に捕らえねばならん。
さあ、わかったらふたりとも、急げ!」
「「はいっ!!」 」
声をそろえて返事をし、命令実行に駆けだす双子のアテナイ青年兵。
その顔には、スパルタに対する恐怖の色が少なからず浮かんでいた。
◆◆◆
紀元前372年
ギリシャは、地中海を囲んで、数多くの
それら都市国家群のなかで、ギリシャ筆頭ポリスの地位を占めていたのが、二王制軍事国家スパルタだった。
30年間の長い長いペロポネソス戦争の末、最大の敵対勢力、民主制国家アテナイをついに
その戦争が終わってから、さらに31年間、スパルタは、スパルタ教育による最強のスパルタ兵士、無敵のスパルタ兵団を誇り、今に至っていた。
――――――――――――――――*
人物紹介(学問と芸術の盛んなアテナイ
● ティリオン(18歳)……自分の父親の
複雑な生い立ち、背景を持っている。
【※アテナイ・ストラデゴスとは、アテナイの将軍長、という意味の、役職名です】
● フレイウス(25歳)……アテナイ軍の将校で、ティリオンを追っている。
『アテナイの氷の剣士』と異名をとる、剣の達人。
● ギルフィとアルヴィ(18歳) →双子でフレイウスの部下。アテナイ軍士官。
【※タイトルの横に*のあるのは、人物紹介、年表、歴史その他、諸解説が文末にあるしるしです。作者のメンテナンス用ですので、あまりお気になさらないでください。m(__)m】
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