第47話 フード・コート(1)

 俺とルイがフード・コートに着くと、浩二と健介が既に待っていた。

 ここにいる人間だけででも、行動を起こした方がいいんじゃないかと気がいたが、他のメンバーを待つ。すると、五分もしないうちに四人来た。まだ来ていないのは、メッセージに返信のなかった二人と大、一哉の合わせて四人だ。


 さらに待っていると、大から電話が入った。メッセージに返信の無かった二人は大たちと同じように手榴弾で攻撃をされ、命に別状は無いが怪我を負ったらしい。救急車に連絡を入れたので、自分たちはこちらにすぐ向かうとのことだった。


 俺は一般客の遠巻きな視線を感じながら、大の電話の内容を皆に伝えた。

「結果的に二人減ることになっちまったが、ここにいる人間で奴らのことを止めるんだ。大と一哉は遅れて来る」

 俺の言葉に、皆、無言で頷いた。


 何百席も座席とテーブルのあるフードコートでは、多くの客がそれぞれ座って食事や話に興じていた。広い店内の壁際に沿うように多くの飲食店が並んでいる。


 俺は客を見回しながら、口を開いた。

「まず、俺と西上さんがブラック・マンバのメンバーを見つける」


「どうやって、見分けるんすか? 敵のメンバーは知らない奴もたくさんいますよ」

 浩二が訊いた。


「説明するのが難しいんだが……」

「はい」


「奴らブラック・マンバには、邪霊という真っ黒な幽霊が憑いていてな、俺と西上さんにはそれが見えるんだ」

「邪霊すか?」


「ああ……邪悪な幽霊のことだ」

 ある時期、お前にも憑いていたんだぜ。俺は心の中で呟いて、浩二の目を見た。


「そいつが憑くと、どうなるんすか?」

「人が元々持っているよこしまな気持ちが強くなる。それも徐々にな」


「いい奴も悪くなるんすか?」

「まあ、簡単に言うとそうだ」

 俺は頷いた。


「世の中の悪人はみんなこれが憑いてるんすか?」

「そうではない。邪霊が憑こうと憑くまいと、悪いことをする奴はいるからな」

 ルイが静かな声で答える。


「ふうん。邪霊はブラック・マンバにだけ憑いてるんすか?」

「いや。この街で邪霊憑きは急速に増えている」

 ルイが答えると、浩二の目が光った。


「だから、前にブラック・マンバと喧嘩した時に一般の人たちも襲ってきたんすね」

「ああ、そうだ」

 俺が頷いていると、


「奴ら、そんなものに憑かれているってのか!?」

 突然、背後から大きな声が響いた。


 振り向くと、息を荒げた大と一哉がそこにいた。

「信じるのか?」

 俺は来たばかりの一哉と大に訊いた。


「馬鹿。ずっと信じられないようなことが起こってるんだ。それに、薬だ、何だっていうより、そっちの説明の方がよっぽど納得できるぜ。そうだろ、みんな!?」

 大が言うと、メンバーは皆、頷いた。


「今日だって、魔法陣だか何だか知らんが、塩でまじないを破るなんてこともやってるし、俺と一哉は、化け物みたいに変身しちまった奴とも戦ってるんだぜ」

 大が俺の背中をばしんと叩く。


「化け物って……お前らよく無事だったな」

「馬鹿。スカル・バンディッドの大と一哉の強さはおまえが一番知ってるだろ」


 大がそう言うと、メンバーたちは大笑いし、俺もつられるように笑った。頭をかきながら、皆の笑顔を見回す。


「マジな話。オレたちが戦おうとしている本当の敵はブラック・マンバよりもヤバい奴なんだろ? 全部言ってくれ。その方が燃えるぜ」

 一哉が言った。大も横で頷いている。メンバーは皆、一様に気合いの入ったいい表情をしていた。


「分かった。今から全て話すが、驚くなよ……。俺は、ひょんなことから、悪魔と戦うことになってしまったんだ。悪魔は邪霊を利用してブラック・マンバを使い、この街を好きなようにしようとしている。その企みを壊すために、皆の力を貸して欲しいんだ」


「悪魔!? マジなのか?」

「ああ。本当だ。実は奴とは一度既に戦っていてな。その時は退けたんだが、ブラック・マンバを使って復活してきやがった」


「戦った? 病院で寝てたのにか?」

「ああ。詳しくはまた話す。だが、確かに戦ったんだ」

 もちろん、俺だけじゃない。虎徹も一緒だったんだがな――

 そう思いながら、俺は右手首のブレスレットを撫でた。


「そうか……」

 大と一哉は、それ以上事情は聞かず頷いた。

「敵は悪魔だってよ。燃えるじゃないか。俺たちの街を守るために皆で力を合わせようぜ!」

 大が叫んだ。


「おうっ!!」

 同時に 気合いの入ったいい返事が返ってきた。


「よし。それじゃ、俺と西上さんが指をさした奴らに塩をぶっかけるんだ。残ってた塩は持ってきてるな?」

 俺が訊くと、皆、頷いた。


「俺、残ったやつをリュックに詰めてきたぜ」

 一哉が背中のリュックに手を突っ込み塩をつかんで見せた。特攻服のポケットからつかんで見せる奴もいた。


「よし。それじゃ、始めようか。俺と西上さんが指さした奴の背中に塩をかけるんだ。それで、取り憑いている邪霊どもは祓われる。いいか!?」

「分かった!」


 俺は皆の返事に頷くと、

「よし、二手に分かれよう。西上さんたちはあっちから行ってくれ」

 と指示をして、走り始めた。ルイの方に四人、こちらにも四人付いている。


 辺りを見回しながら走ると、至る所に、邪霊が憑いている奴らがいるのが見えた。ひょっとすると、ブラック・マンバ以外の奴らもいるのかもしれなかったが、見分けている余裕はない。片っ端から指さしていく。


「グああッ!!」

 塩をかけられると、苦悶の声を上げ、邪霊憑きが苦しみ倒れていった。


 俺の目には、真っ黒な邪霊が悲鳴を上げて散り散りに消えていくのが映っていた。混ぜられている銀杏の葉の粉と枝のおかげなのか。さすがはルイ特製の塩だった。


「きゃあっ」

「何っ?」

 塩をかけられた人々が倒れていくのを見て、関係の無い一般人も驚いて声を上げる。


 俺たちは構わず、塩をかけまくり、邪霊に憑かれている奴らを倒していった。

 その時だった――。


「何やってるの!?」

 俺は聞き覚えのある声に、反射的に振り向き、そして固まった。そこにいたのは由里子と母さん、そして妹の幸だったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る