第46話 悪魔の企て

 遠くから救急車のサイレンが聞こえてきたかと思うと、違う方向からパトカーのサイレンも鳴り響いた。


「くそ。皆は大丈夫か!?」

 俺はメンバーにメッセージを送った。敵は、不良少年のレベルを遥かに超えた攻撃を仕掛けてくる。みんなが同様の攻撃を受けていないかの確認だった。


「おい。どうしたらいい? あんたが頼りなんだ。しっかりしてくれ!!」

メッセージが返ってくるまで時間がある。俺は呆然としているルイの肩をつかんで揺らした。


「あ、ああ……。す、すまない」

 ルイが頭を振って言った。


「悪魔を、ブラック・マンバを止めるぞ。どうしたらいいのか、指示をくれ!」

 俺はルイの両肩をつかむと、目を見つめて強く言った。

 泳いでいたルイの目が、俺の目と合った途端、焦点を結んだ。


「あ、ああ、そうだ。魔法陣の……円の中心を目指さなくてはいけない、のだ。そこで、大殺戮を伴った、儀式を行う可能性が高い、からな……奴の残虐性は、分かっていたことなのに、なぜ、そこに、思いが至らなかったのか……」

 ルイは倒れている女性を見て、途切れ途切れに言った。


 既に、女性は、俺が上着をかぶせて芝生の方に寝かせているが、呼吸が浅く危険な状態に思えた。


「人の血を流すことで、悪魔は魔法陣破りのまじないを逆に破ったってことか?」


「そうだ。だが、それだけではない。皆が盛り塩をした地点を結ぶと大きな円になるだろう? その中心に人がたくさん集まるところはあるか?」


「ああ、大型のショッピング・モールがある」

「そこだ! おそらくそこで奴は大量の生け贄を使った反転魔法陣を完成させようとしているはずだ」


「反転魔法陣!? なんだ、それは?」

「それぞれのポイントで生け贄によって集めた魔力を魔法陣の中心へと集め、地獄と直結させる。そして、その中心地点でにさらに大量の生け贄を捧げることで、地獄の力を引き込み、我が物へとする術だ」

 ルイはそう言うと、もう一度頭を振った。


「どうしたらいい?」

「チームのメンバーをショッピング・モールに集めるんだ。何ならパトカーも連れてきてもいい。大殺戮をなんとしてでも止めねばならん」

 ルイが息を大きく吐きながら続けた。


 ルイと話している間、スマートホンが続けて鳴った。メンバーに送ったメッセージが返ってきたのだった。


「くそ。二人返ってこない」

 俺は大と一哉に電話して、それぞれメッセージの返ってこないメンバーを教え、様子を見に行くように伝えた。その上で、ショッピングモールに来るように言う。続けて、同じ指示をメッセージで皆に送った。


「後ろに乗れ」

 俺はゼファーのエンジンをかけると、ルイにヘルメットを投げた。ルイが後ろに乗ったことを確認すると、後輪を激しくスリップさせながら走り始めた。


 すると、すぐにけたたましいサイレン音が迫ってきた。バックミラーにパトカーが映っていた。


「よし。このまま行くぜ」

 俺はそう言うと、右手のアクセルを開いた。


 甲高い排気音を鳴らし、ゼファーはショッピング・モールを目指して駆けていった。


      *


 ショッピング・モールに着くと、玄関の近くにバイクを駐めた。

 渋滞中の車を縫うように走ってきたおかげでパトカーはついてこれていなかったが、じきに追いついてくるだろう。


 俺はルイと一緒に建物を見上げた。


 広大な敷地に、二階建ての巨大なコンクリート造りの建築物が建っており、周りを囲む広い駐車場とは別に屋上にも駐車場がある。竜一自身も何回か来たことがあったが、中にはモールを運営している企業のスーパー・マーケットと専門店街、フード・コートやゲームセンター、映画館なんかがあったはずだった。


 周りを歩く多くの家族連れを見て、俺は頭を抱えた。本当にこんなところで事件を起こすって言うのか――。


 俺はバイクを降りると、ルイと一緒に中に入っていった。遠巻きに、横目でちらちらと見られている視線を感じる。


 特攻服を着ているから物珍しいのだろうが、関わり合いにはなりたくないのだろう。直視してくる人はほとんどいない。


 スーパーマーケットのゾーンにある果物や野菜の売り場を通り過ぎ、足早に中へと踏み入っていった。


「ルイさん。悪魔がどこにいるのか、あんたなら分かるんじゃないのか?」

 俺は歩きながら訊ねた。


「奴は人の体に入り込んでいるはずだから、離れていては分からない。だが、近づけば分かる」

「そうか……。だが、そもそも、奴はここに来る必要があるのか? あの空の黒いドームの下にいれば、魔法陣の効果はあるんじゃないのか?」


「いや。大きな力を得るためにはここに来なくてはいけないんだ。大量の生け贄を捧げ、その対価に力を得ようと思っているのであれば、来る」

「そうか。じゃあ、どこを探せばいいんだ? 心当たりはあるのか?」


「悪魔の気持ちになれば、ここの中でも特に人が集まるところだろうな」

「それなら、フード・コートだな。もうすぐ昼になる。昼食を食べるために、人はたくさんいるはずだ」


「そうか。それじゃ、まずはそこだ。それから邪霊だ。ブラック・マンバのメンバーは、ほとんどが邪霊憑きのはずだ。奴らも気をつけて隠れているだろうが、お前なら分かるはずだ。虎徹の中にいたときにあいつがどう力を使っていたのかを思い出せ」


「大丈夫だと思う。邪霊なら、虎徹の体から出た直後にも見ることができた。それにルイさんが俺の見る力を解放してくれたしな」

 俺はそう言いながらさらに足を速めた。モールの中心にあるフード・コートを目指しながら、そこに来るようにメンバー全員にメッセージを送る。


 俺たちは小走りにエスカレーターに飛び乗ると、二階へ走って登っていった。

 雑貨店や洋服店、靴屋といった様々な販売店が通路に沿って並ぶ中、俺は人混みをかき分け、走った。フード・コートはすぐそこだ。

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