第31話 抗争(1)
雀の鳴き声で、オレは目を覚ました。あくびを一つして祠の外に出る。
外に出ると、眩しい日の光が目を射した。
パキ、パキッ……
前足を前に伸ばし、体全体で伸びをすると体中の骨が鳴った。
何だか久しぶりに起きたような気分だった。よく寝たなんてもんじゃない。
悪魔との激闘のせいかな……。俺はそう思いながら体中を舐め、身繕いした。
腹がもの凄く減っていて、腹が背中にくっつきそうなくらいにへこんでいる。
(おい、クレージュに行こう!)
「お。竜一も起きてたか?」
(おう。お前の腹の音がうるさくて目が覚めたぜ)
竜一が笑って言った。
太陽は頭の上をかなり過ぎている。もう、昼飯時はとっくに過ぎている時間だ。
「この前は、悪魔のせいで行きそびれたからな。今度こそは美味いものを食うか」
オレはそう言うと、外の道へと向かった。クレージュはちょうど、ランチの残飯が出ている時間だ。
走ろうとすると、体に力が入らず、ふらふらとする。オレはゆっくりと歩いた。
(虎徹……)
「何だ?」
(あれは、本当のことだったんだよな?)
「悪魔との戦いのことか?」
(ああ)
「そうだな。何だか、夢を見ていたみたいな感じもするけどな……」
本当に信じられないような激闘だった。あんな化け物がこの街にいて邪霊を生み出していたと思うとぞっとする。あれで、悪魔が大人しくしてくれれば心配はいらないんだが――
(何を考えてんだ?)
「いや、まあ。悪魔はあれからどうなったのかと思ってさ」
(あそこで倒せればよかったが、逃げ出しやがったからな。だが、復活するのにはもう少し時間がかかるんじゃないか?)
「そうか……そうだといいな」
オレは竜一にそう答えると、街の景色を眺めた。地面には看板や建物の作る影と日光のコントラストができている。向こうでは、サラリーマンらしき人影が汗を拭きながら歩いていた。
また、ぐうっと腹が鳴った。
「まあ、悪魔のことは置いておこう。とりあえずは腹ごしらえだな」
オレはそう言って足を進めた。
クレージュに向かう途中、海からの風に乗って新聞が飛んできた。
オレは風に舞う新聞を前足で押さえた。プロ野球がどうのこうのと書いてあったが、興味はわかない。それよりも書いてある日付だった。
(おい。あれから十日も経ってるぞ!)
竜一が驚いて言った。
「腹が減るはずだし、体に力が入らないはずだな。こんなに長い時間寝てたのは初めてだ」
オレはそう言って、腹を押さえた。
こんなに長い間寝ていたことを自覚した途端、ますます腹は鳴り、どうにも堪らなくなってきた。クレージュを目指す足は、どんどん早くなっていった。
裏口に着くと、ゴミ箱の中に大きな魚のムニエルが半分捨ててあるのを見つけた。大喜びでそいつにかぶりつくと、むさぼるように食べる。
(こいつはたまんねえな)
「本当だな」
オレたちは夢中になって魚を食べた。食べ終わって、ふと上を見上げると、厨房の窓が少し開いているのが見えた。
窓からテレビのニュースらしき音声が漏れ聞こえてくる。
オレは窓の出っ張っている部分に飛び乗り、中を覗いた。
昼の忙しい時間帯が終わり、休憩しているところのようだった。コック帽を机の上に置いた料理人とフロアスタッフらしき少年がまかない料理をつつきながら、テレビを見ていた。
「……昨晩、港の埠頭で、大規模な不良チーム同士の抗争があった模様です。多くの怪我人が出た上、一般の車両も巻き込まれ、数台、大破したとの情報も入っています。関わった不良チームの名称はスカル・バンディットとブラック・マンバ……」
オレはそのニュースを聞いてテレビに釘付けになった。
「これ、お前のチームってやつの話じゃ無いのか?」
(ああ……本当に、ブラック・マンバと始めちまったのか……)
「浩二が言ってたな。ブラック・マンバとの抗争に打ち勝つって……」
(ああ。だが、やらなきゃ、やらない方がいいんだ。一旦やり始めたらお互いにただじゃすまないからな……)
「竜一。悪魔が背後にいるのかもしれないぜ……」
(確かに、その可能性はあるな。あいつが邪霊を生み出して操っているのなら、そう考える方が自然だ。浩二にも邪霊が憑いていたしな……)
「おい。お前たちの仲間はどこにいるんだ!?」
オレは竜一に仲間のいる場所を訊くと、表通りへと飛び出した。
オレは街中を走った。いつもより出会う邪霊が多い。あの悪魔のせいで、街全体でも何かやばいことが起こっているのではないか――
オレたち二人の心を強迫観念が支配し、焦げ付くような焦りが足を進めた。邪霊に出会い、避ける度に、その思いが強くなる。あれから一向に減っていない邪霊たちは、その思いを証明するかのようだった。
竜一に教えられたガレージに着くと、わずかに開いていたシャッターの隙間から中へと入る。スカル・バンディッドのメンバーが普段たまっている場所だった。
錆びた工作機械や整備用のリフトが並び、機械オイルの匂いが漂っている。壁は打ちっぱなしのコンクリートで、奥にはタイヤがうず高く積み上げられていた。
竜一によると、メンバーである
中には人の気配があった。オレは、タイヤが積み上げられた場所へと足音を殺して近づいていった。そこにはため息をついて、肩を落としているメンバーたちがいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます