第21話 邪霊の巣(2)
「うぉオぉオぉ、ガアぁオぉぉ……ッ」
ドアはガタガタと揺らされ、表面を引っ掻くような音と、邪霊どもの呻き声が響いてきた。
「これから、どうするんだっ!? あいつをやっつけなくっちゃ、あの女の子の幽霊は助けられないぞっ!?」
オレの叫び声に合わせるかのように、
バチン!
と、激しい音が鳴った。
死神が両手の中指と親指を同時に打ち鳴らした音だった。
途端に、辺りが真っ暗な空間に変化した。そこは何もないように見えるし、暗闇はどこまでも続いているように思えた。上下も左右も分からない。どこまでも続く無限の空間のようだった。
しん、とした空気が周りを満たし、オレたち以外の気配は感じられない。
目の前に浮かぶ死神は、無言で腕を組んでいた。
「何が、どうなったんだ? 何かしたのか? あいつら……魔物や邪霊はどこに行ったんだ?」
「とりあえず、一時避難した。ここは私が緊急避難的に作った亜空間だ。ずっとは保たないが、しばらくは大丈夫だ」
「そうか。あいつは何なんだ?」
「元は人間だろう。だが、今は恐ろしいほどの魔の力を持っている」
「元は人間? ただの邪霊憑きじゃないよな?」
「ああ……」
死神は一旦息を吐いて、上を向いた。そして、言葉を続けた。
「悪魔だ。悪魔が人間の体を乗っ取っているのだと思う」
「悪魔!?」
オレは死神の言ったその名前を呆然と呟いた。
(悪魔ってあれか? 蝙蝠の羽がついていて足が山羊みたいで、長くて細い尻尾のある……)竜一が訊くと、
「まあ、そういうやつもいるな。だが、見た目は色々だよ。それよりも恐ろしいのは、想像を絶する超常的な能力、いわゆる魔力を持っているということだな」
と、死神が答えた。眉根に深い皺が入ったその表情は深刻そのもので、いつもの淡々とした様子とは明らかに異なっていた。
「さっき、ここに逃げる寸前に奴の背後から邪霊がたくさん現れたよな?」
「ああ」
「やはり、ここが邪霊の巣なのか?」
「ああ、そうだ。間違いない。悪魔はここで邪霊を産んでいる。そして、街全体に邪霊どもをばら撒いているんだ」
「悪魔は邪霊の産みの親なのか……。それに、何やら恐ろしい魔力も持っている。そんな奴を倒せるのか?」
「悪魔とあの男との繋がりを絶つことで、悪魔は魔力を失うはずなんだ」
「邪霊憑きのようにやればいいってことか? そんな簡単にはいかないだろう?」
オレは死神の顔を見た。その表情はやはり深刻そのものだった。
「悪魔は、あの男の心を触媒にして、魔力を増やしているはずなんだ。悪魔は人と契約を結んで、自分の魔力を強力にするのだ。困難が伴うのは間違いない。邪霊の時のようにはいかないかもしれないが、何とかなる可能性はあると思う」
「可能性? どういうことだ?」
「あの男。悪魔に乗っ取られているのは間違いないが、何か無理矢理な感じがするのだ。きちんと契約を結んでいないのではないか。そうであれば、切り離せる可能性は高い。それに、この街を守るためにもやるしかない」
死神がオレの目を見て言った。
「もし、悪魔と男を切り離すことができれば、女の子の霊は助かるんだな?」
「ああ」
「そうか。分かった」
オレは頷いた。竜一も心の中で頷いていた。
「それでは、あの男がどのように悪魔に取り憑かれたのか、その記憶を送る。ここから先は、この前の修行と同じだ」
「男が根っからの悪人で、悪魔とその契約とやらを結んでいたらどうするんだ?」
「それでも、何とかするしかない」
死神が大きく息を吐いたその瞬間、空間がぐらりと歪んだ。
まあ、死神に色々と訊ねたが、オレの気持ちは決まっているのだ。わざわざ訊かないが、竜一だってそうに決まってる。
オレは大きく息を吸うと、気合いを入れてゆっくりと吐いた。
ギシ、ギシ、ギシッ……
空間全体が軋むような音を立て、大きく揺れる
「それじゃ、行くぞ!」
「ああ!」
(おう!)
オレと竜一は同時に答えた。
死神が
バチン!
と、両手の中指と親指を同時に打ち鳴らした。
その途端――
ゴウッと、恐ろしい耳鳴りがして、目の前の景色が変わった。
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