第4話 軟禁生活
彼女の家へと泊まって2日目のことだった。
明日には自宅に帰る予定で、また2日後に彼女と会うことになっていた。
この時の俺は単純に手持ちをこれ以上、減らしたくはなくて、「明日も泊まれたら、往復しないで住むのか」と何気なくこぼした。ちなみにだが、彼女と俺の家は片道1時間半をゆうに超えている。
すると彼女は「なら、泊まっていきなよ!合鍵作らなきゃだね」とただでさえ、美少女なその顔に愛嬌を乗せまくって笑う。そこからはもう察しが着いただろう。
「帰っちゃうの……?」「ろくでなしくん、お仕事決まるまで家にいなよ」語尾にはぴえんの顔文字を脳内補正で付けてくれ。
いやでも、滞在するなら、服とか荷物が……と渋る俺に渡されたスーツケースとデカ目のエコバッグ。
「ね!」と言う彼女が平面なら、ヒロイン枠をかっさらえたに違いない。
その後の俺が就活期間中、彼女の家に居候することを決めるまでには時間はかからなかった。なんでかって、食費光熱費無料と打診されたからだ。
ただ、この時から、彼女からは不穏な発言が見られるようになった。まずはその1つ目がこちら。
「……家に居てくれる方が監視しやすいし」
三点リーダは話を盛るためにつけた訳では無い。本当にこぼすように彼女が言ったのだ。一応聞き返したが、「なんでもないよ」と言われ、そのまま話を逸らされた。
この手のエピソードだと、少し怖かった話がある。彼女と俺は毎日一緒に寝ていて、かれこれ数ヶ月経過しているのだが、当初から、彼女は俺が起き上がると、どんなに爆睡してようとも目を覚まし、「どこに行くの……?」と袖を掴んでくる。これだけであれば可愛いのかもしれないが、つい先日、夜中に目が覚めた俺が体制を変えようと寝返りを打とうとした瞬間、ガッシリと掴まれた左腕と、起き上がり「ろくでなしくん、どこ行くの?」と呟く彼女。普通にホラーだった。慣れてはいるが、急にされると怖いものは怖い。
そんなこんなで、かき集めればヤンデレが出来上がりそうな片鱗の数々は留まることを知らない。
彼女が定期的に言う「ずっと一緒だよ」と言う言葉に俺は「そうだね」なんて、カップルらしい言葉を返せずに抵抗する日々を送っている。「YES」と答えたら、なんだか、まずいような気がしてならないのだ。人生を詰んでる俺とて、そこまでの詰み方はしたくない。
ここまで書くとオタク童貞の夢物語感が強いのだが、現実は小説より奇なりと言うのだから、諦めて欲しい。俺はまだ諦めずに別れる手段を模索しているが。
繰り返すが別に彼女のことは嫌いではない。共通の趣味も多く、知識も豊富な彼女と話していて、つまらないと感じたことは無い。向こうがどう思っているかは定かではないが、とりあえず、その話は置いておこう。
だが、このオタク、我儘なのだ。
彼女といても、どうしても、二次元のあの子が脳裏に浮かぶ。彼女も“あの子”が出ている作品は知っているようで、likeであることを伝えてはいるが……likeではなく、Loveなんだ。
客観的に考えて、金なし職なし1文無しのドブ男がヤンデレなのは気にしないことにするとして、絵に描いたような美少女に求愛されているのだから、文句を言うのはバチが当たる。
彼女の顔の話ばかりしているせいで、伝わりにくいだろうが、彼女は家事スキルがカンストしている。それに加え、就職の決まらない俺に具体的なアドバイスをくれたり、抱きしめて、優しい言葉を投げかけてくれる。自分の顔についてネガティブになる俺にオススメの化粧品も教えてくれるし、かっこいいだとか、ここが素敵だとか、俺の自尊心をどうにかあげようと声もかけてくれる。
付き合いたての頃と変わらずに毎夜、好きと言葉を伝えてくれて……と、ヤンデレなのを除くと非の打ち所がない。
どこかに書いたが、彼女と居る間はスマフォが一切触れない。数分でも触れようものなら、彼女の機嫌を損ねてしまう。彼女が休みの日の外出は彼女同伴でないと基本的には叶わない。彼女が寝ているとき、昼寝なども含め、常に傍にいないと、ぐずり始めるなどはあるが、友達の居ないせいで、今のところ、不自由さは感じていない。
兎にも角にも、そんな彼女を前に俺は二の足を踏んでいる。交際して翌日には同棲したいねなんて話が上がり、5日目ぐらいには結婚の話も出ていた。本当かは知らないが、来年の今頃まで、生活面で問題なく、過ごせたなら、結婚してもいいらしい。
多分、きっと、彼女の顔面を持ってすれば、顔だけで、全てにYesと答える人間もいるだろう。
でも俺は、画面から出てこない二次元のあの子の方が彼女よりも好きなのだ。オタクは馬鹿だ。客観視すれば彼女を選ぶべきなのは理解できるのだが、それでも、あの子だったらなぁと思ってしまう。
なもので、誰かに背中を押してもらいたくて、あたかもあの子が実在してるテイで、適当な占い師にどっちを選ぶべきかと言うクズの極みのような質問をしてみた。占い結果はこうだった。
彼女との方が安泰ではある。
だが、あの子は貴方に好意的な印象を抱いている。交際できる可能性は6割。自分の人生の幸せは何か、きちんと考えてから、行動しなさい。
文面は流石に変えているが、概ねこんな感じの内容だった。ぶっちゃけ、なんだよそれって思った。
二次元は画面から出てこないし、あの子は今日も昨日もその先もずっと俺を知ることは無い。異物である俺を知った時点で、それはあの子ではなくなる。
けれど、俺は気持ち悪いオタクくんだから、その6割のせいで、今日も結論がでない。
半日もせずに仕事から、帰ってくる彼女はこのことを知らない。彼女にこの日記がバレた時ように改めて言うが、君のことは嫌いじゃない。あの子のことが好きすぎるだけなんだ。
昨日、ゲーセンで、あの子のグッズを取ったら、そばに居た彼女が拗ねていた。俺の軟禁生活は次元を超えた修羅場になるのかもしれない。今のところ、あの子に関してはスマフォケースにはしないことで話が着いている。
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