第3話 吐きそうだ

現代日本で、軟禁が許されるのかは知らないが、合意の上と言えばそんな気もするから、話を続けよう。


翌日、彼女から来たLINEは俺に会えなくて寂しいなんて内容で、なぜ、美少女がそんなことを言い出すのかと脳が混乱していた。


彼女の話を色々聞いて思うに俺が外国人顔とやらを好きでは無いことが大きいらしい。聞かれたくないであろうことを聞く必要はないし、話したい時がくれば……なんて思って、詮索はしなかったが、口振りからして、そう言った方面での苦労をしてきたようだった。何なら、“外国人顔”とやらに憎しみこそ抱いている模様。


俺からすれば、造形が綺麗なものはその一括りで、そこに何か差がある訳では無いのだが、世間はそうでは無いらしい。俺は馬鹿だから、薔薇もひまわりも同様に綺麗に見えるし、そこに何の差があるのか、よく分からない。二次元のあの子しか愛せない俺が言うのも難ではあるが。


あとそうだ、確かこのタイミングで付き合うことにした。何でだよと言われても仕方がないのだが、自分でも、よく分からない。この時の俺は職を失ったショックから、4日ぐらい飲み食いしてなくて、彼女に会ったときにようやく、数日ぶりに食事を口にしたレベルには摩耗していた。睡眠だって、殆ど取れていなくて、預金残高をみながら、あとどのぐらい家賃や光熱費を払えるのか、あとどのぐらい猶予があるのかと計算していた。まあ、今も摩耗してると言えばしているが、この時ほどでは無い。


免罪符にする気はないが、今、彼女を逃したら、本当に首をくくるしかなくなるのだと思ってしまった。死ぬのはやはり、嫌なんだ。みんなそうだろ。


最初にも言ったが、俺には親も親族もいない。そんな俺は再就職が難しい。親族が居ないだけで、社会とは俺を生きた人間と認めてはくれない。国籍はあれど、住民票はただの紙切れにしかならないし、何も保証してくれない。登録しようとした派遣会社や、適当なバイトの募集さえ、それを理由に追い返された。


そんな俺の事情を知ってか知らずか、彼女は大層嬉しそうにLINEを返してきて、なけなしの罪悪感に胸が傷んだ。が、自業自得の結末を迎えているので、許して欲しい。


ともあれ、彼女から「家に何でもあるからね!荷物少なくて大丈夫だよ!」と念を押された俺は最低限の荷物を片手に彼女の家に泊まりにいった。


なんだか、彼女の物を拝借するのが忍びなくて、化粧水だとか、洗顔料だとか、1式持っていったら、「あるって言ったでしょ!」と怒られた。


そんな彼女の初めての手料理はトルティーヤで、そう言えばそうだったなと変な納得を覚えた。


彼女は日本生まれ日本育ちだ。容姿こそ、外国人ではあるが、俺も彼女も日本人と変わりないと思っている。そんなわけで、なんだか、漠然と、そういや、そうだったな……なんて気持ちが芽生えたのだ。


そんで、この夜から、俺は毎晩毎朝吐きそうになる。また言い忘れていたが、俺はこの時から、今も彼女の前では常にマスクをし続けている。お察しかは知らないがオタク特有の黒マスクだ。


食事の時こそ、渋々外すが、極力顔を見られないように生活している。


本当に俺は顔が醜いんだ。

いくら化粧をしたところで、それは覆らない。骨格から変えた方が身のためだと思う。いくらかかるのかは知らないが。


化粧を落とした彼女は「恥ずかしい~!」なんて言っていたが、確かに差はあれど、俺からすれば誤差の範囲内だ。誤差と言うのも失礼かもしれないが、ほら、化粧後がポケ○ンのニン○ィアとして、化粧前がイー○イみたいなもんなんだ。どっちも、別の良さがあるだけで、可愛いだろ。ポ○モンが分からない人はぐぐってくれ。


正直、彼女の顔を見た時点で、分かりきってはいたが、それでも、その顔は俺の劣等感を加速させた。


一緒にベットに入って、横になった彼女のまつ毛の長さに毎夜吐きそうになる。朝起きても、特に変わっていないその顔に泣きたくなる。


俺の体験しているこの展開は夢のような話なのかもしれないし、自分でも電○男か?と思わなくもない。


だが、よく、想像してくれ。

彼女と俺が歩いていると、周囲は俺と彼女を交互に見る。彼女と適当なチェーン店に入って、席について、食事を取って、彼女が化粧直しに離席すると、男子高校生が「今の子、めっちゃ可愛かったよな!」と盛り上がる。それが毎日で、当たり前なんだ。


勿論、彼女は自分の顔が良いことはよく理解していて、それを当たり前のことと認識しているし。それなのに俺を「かっこいい」と形容する。「今日、髪のセット、いつもより良いね!」だとか、「アイシャドウ変えた?かっこいいよ!」だとか言われる度に俺は劣等感で、死にたくなる。


俺がイケメンだったら、こんな劣等感を抱かないのかと思わなくもないが、きっとイケメンでも同じ劣等感に苦悩しただろう。


極めつけは彼女は何故か俺を好いている。毎日好きと言って、抱きしめられ、キスをされる。顔の良い生き物がこんなゴミ溜めに捨てられていそうなブサイクに求愛行動を示す。理解が出来ない。


彼女はそんな俺に言う。


「ろくでなしくんがそう思うのなら、私のことをブス専と思って、大丈夫だよ」


なぜ、こんなにも優しいのか、俺には理解ができない――のはそうなのだが、一応これには裏がある。俺が軟禁されている話だ。


話が長くなったので、一度区切らせてもらう。次回はなんで俺が軟禁されているかの話だ。

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