第2話 遭遇

俺の話は無駄に長いが、読ませる気のない日記だから、続けていく。


朝起きて、慌てて化粧して、彼女との待ち合わせ場所へと向かった。男が化粧?と思うかもしれないが、ブサイクはこうでもしないと人前に出られない。


社会に出てから、顔について何か言われることはなくなったが、子供頃、担任に面と向かって、ブサイクだのなんだの言われたのが今でも尾を引き続けてる。まあ、そんな話はどうでもいい。


待ち合わせ先は現地集合で、到着時間になっても、やって来ない彼女に「やっぱり、詐欺か~」なんて、少しだけ心が軽くなっていた。けど、「ごめん!電車遅延してる!」ってLINEがきて、確認したら、本当に遅延してた。泣きたかった。


数分経過して、ぼんやりと眺めていたら、何だか道行く人と等身の違う生き物がこちらに近づいてきた。


「ろくでなしくんだよね!」と声を掛けてきた彼女は自撮り写真よりも、ずっと顔が良くて、正直、俺は吐きそうだった。なんなら、今でも毎日吐きそうだ。


顔のいい人間は自撮りをして加工をすると、逆にブサイクになると聞いたことがあるが、都市伝説ではなかったらしい。何なら、何をしてもブサイクな俺とは違う生き物のようだ。


ここで恋に落ちれれば良かったんだが、俺はと言うと完全に未知の生き物と遭遇してしまった気分で、恋の花咲くことも何もなく、お喋りな彼女の話に耳を傾けるので精一杯だった。


合流した後は目に付いた店に適当に入って、服を見たり、食事を取ったりと、特に何か勧誘されることは無かった。


この時まで俺は彼女をあだ名で呼んでいて、本名をよく知らなかった。食事を取った際に改めて、彼女の名前を聞いて、俺は内心、また吐きそうになることになる。


――好きなあの子と同じ名前だった。


これが悪夢の始まりだ。

言い忘れていたが、彼女は日本生まれの外国人だ。学がない俺には海外のあだ名の付け方はよく分からない。キャサリンさんのあだ名がケイトになるって言われてもピンと来ないし、その手のあだ名だったもんで、まったく気づいていなかった。


そんな俺の気持ちなど、露知らず、「付き合ってくれる気になった?」と言う彼女。気づいたら、道行く際に手を握られているし、最終的に腕も組まれた。


なんなら、「あ、ろくでなしくんのために寝巻き買わないと!」「俺たち、付き合うの?」「あっ、まだ付き合わないんだよね」なんて、形容しがたい言葉が彼女の口から飛び出す。このやり取りは内容を変え、5回は最低でもした覚えがある。


文字にするとギャルゲー色が強すぎて、また吐き気がしてきたが、攻略対象は俺らしい。意味がわからない。


ちなみに今日は彼女が仕事に出ている間にこそこそと日記を書いている。居る時はスマフォは触れないんだ。何か不穏だろ。これについてはあとで書く。


そんでもって、特に何か起きるでもなく、20時を回った頃には解散の運びとなった。別に彼女と過ごすのは友達として、楽しくないわけではなかったが、交際となると話は別だ。


その顔があるなら、もっと良い物件を見つけれると思うし、見つけて欲しい。少なくとも職を失ったばかりの人間は辞めておくべきだ。


けれども、「明後日泊まりに来なよ!ご飯食べるお金もないんでしょ?」との一言で、優柔不断な俺は飯に釣られ、彼女の家へとお邪魔することとなる。


――そして、今、軟禁されている。わけがわからないだろ。俺だって訳が分からない。

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