第1話 美人局だと思ってた

二次元が好きだ。

平面が好きだ。

絵に描いた女の子が好きだ。


子供の頃から、ずっとずっと大好きな女の子がいる。むしろ、その子が画面から出てこないことが救いだった。


だから、始めたマッチングアプリも別に彼女が欲しいってわけじゃなかった。ただ何となく、わけのわからない行動をしたかった。むしゃくしゃしてやりましたってヤツ。


彼女が居たことはなくもないが、何年も前の話で、ずっと一人で生きてきたから、今更、どうだと言う気はなかった。


そんで、取説読まないタイプなせいで、入れたアプリの機能はよく分からなくて、適当に着いた足跡から辿って、スタンプ見たいなのを返したら、マッチしたらしい。


何人かマッチしたけど、円が光る感じのを求めてるのが殆どで、知らない世界を見た気がして、少しだけ楽しかった。書かれても、さっぱり読めない用語は暗号みたいで、自分で自分に金額を付ける文化に馴染みがなかったせいか、俺にはおとぎ話みたいに思えた。


けど、存外、飽きは訪れるもので、半日も経たずに飽きた。だって、みんな似たような文面なんだもん。


アプリを入れたのは18時は回っていて、金の計算したり、バイトの面接探したりしながら、そろそろ、眠いなって、適当にアプリを閉じて、寝て、暫くして、アプリの通知のうるささに目が覚めた。


アンインストールする前に何気なく開いたら、すんごい顔の良い女の子から、例のスタンプがきてて、正直、うわあってなった。三次元の美少女って、苦手なんだ。加工されてるんだろうとは思ったけど、それにしては今までメッセージをくれたどの子よりも綺麗な顔だった。人形みたいだった。


何かトラウマがあるってわけじゃないんだが、綺麗な顔が俺は怖い。きっとそれは俺がブサイクだから、本能的に恐怖を感じるんだと思う。造形として、綺麗って認識は持てるんだけどね。ガラス細工を綺麗って思うのと、ガラス細工が好きかってのは違うだろ、そんな感じだ。


けど、なんか、目元が好きなあの子に似てる気がして、そんで、面白半分で、最後に反応を返して、気づいたら、LINEを交換してた。


ちなみにこの俺の気のせいは後にある意味で、気のせいじゃなかったことと気付かされる。


その時の俺はネズミ講だとか、宗教勧誘だとかだと思ってて、5分以内に返ってくる返事に最近の勧誘は手が込んでるんだなぁと感心してた。


やり取りしてるうちに共通の趣味の多さにビビったが、一番驚いたのは誕生日が同じだった。でも、馬鹿な俺はこれがロマンス商法か!って、結婚詐欺だとか、美人局を疑ってた。


ここまでで俺は誕生日以外の個人情報を一切掲示してなかった。最寄り駅も嘘だし、なんなら幸か不幸か友達が居ないせいで、LINEの名前だって偽名だ。出身地も隣接県を言って誤魔化してた。


だと言うのに彼女はと言うと、「美人局じゃないよ!」とか必死に否定してきて、本名から、実家やら職場の住所までダダ漏れだ。なんなら自撮りの写真だとか、部屋の写真を渡してきた。


極めつけは「ネズミ講に勧誘する気があるなら、好きなアニメはSteins ○ateで、最推しがオ○リンなんて言わないよ!」と言われ、ちょっとだけ納得しかけたが、それでも、まあ、最近の勧誘は――と考えていた。ちなみに俺はフェ○リス・ニャン○ャンが好きだ。


半日ぐらいLINEが続いて、ピタリと止まって、朝に「寝落ちちゃった!」「おはよう!」なんて、LINEが来て、一度、ネズミ講についてぐぐった。日を跨ぐほど頑張るのかと。時給いくらなんだろうなぁって。


その後はトントン拍子で、通話することになって、恐る恐る出てみた。「美人局じゃないって言ったでしょ!」と言う彼女に猜疑心むき出しの俺は今思い返せばよく通話を切られなかったなと思う。


アニメや漫画の話に花を咲かせて、他愛のない雑談をしてたら、8時間ぐらい経過してて。そんで、流されやすい俺は「明日会おう」と言う彼女の提案を断ることもできず、承諾していた。


彼女は押しが強かった。なんで、こんなブサメンに……と思うレベルで強かった。別に俺が意志薄弱ってわけじゃない。


「私、ろくでなしくんと付き合うつもりで会うからね!覚悟しなよ!」なんてセリフ、平面の女の子以外が吐いて良いのかと今でも思う。あとアプリ退会したから!って、退会したスクショも渡してきた。


8時間話したってのにやっぱり俺は詐欺を疑っていたので、明日は何を買わされるんだろうって思いながら、クローゼットの奥深くに閉まってた一番オシャレな服を用意してた。


同僚以外の人間に会える服なんて、数着しか持ってない。丁度、自暴自棄にあわせて、断捨離したのがまずかった。


まあ、これで事件だの、詐欺に巻き込まれたら、この人生も心置きなく捨て置けるかと、漠然と首をくくる日を思い浮かべ、翌日を待った。


1話、終わり。

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