ある日の鳩首凝議、

「急展開だなぁ」僕は思わず、そう呟いた。



 ゴールデンウイークの最終日。僕と九条さんは、近所の商店街にあるミニシアターに併設されたカフェにいた。書店とカフェが一体になったような造りで、僕のお気に入りのカフェだ。


 世間の皆さんはゴールデンウイークに浮かれているだろうが、僕は特に用事もないので、うまい珈琲でも飲みながらゆっくり過ごそうと思い、このカフェに来ていたのだが、先ほど「どうも。脚本ができました」と言いながらやって来た彼女によって、その予定は崩れてしまった。


「それで、読んだ感想は急展開の三文字だけですか?」


「いや、流石にそれだけじゃないよ。内容も面白いし、構成も巧いし、台詞も良いなって」


「当たり障りのない感想ですね……。ですが、高評価のようで良かったです」


 彼女は満足そうに、紅茶を口に運んだ。



 僕たちのサークルでは、秋の文化祭に向けてショートフィルムを作ることになっている。僕は別の仲間と映画を撮ることになっていたので、彼女の脚本に意見する必要はないのだが、以前から脚本を渡してきては意見を求められるので、僕が脚本を読んでは意見を言うというやり取りは、僕と九条さんとの間での恒例行事になっていた。


「にしても、恋愛モノってこんな感じなんだね。あまり触れてこなかったから、もっとこう、じわじわと関係が深まっていくものだと思っていたよ」


「今回はリアルな恋の様子を描きたいんです。案外、現実は創作以上に急展開なんですよ」


「そうなんだ……」


 僕は呻った。彼女の言う通り、現実はそういうものなのかもしれない。


「映画、面白くなりそうだね」


「なりそうです」


 彼女は嬉しそうに笑いながら、カップに残っていた紅茶を飲み干した。


「もう少し手直ししたいと思います。それでは!」


 そう言うと彼女は、椅子から立ち上がり、店を後にした。



 残された僕は珈琲をすすり、何気なく、向かいの本棚に置いてあった赤べこを見つめた。赤べこは頭をゆらゆらと揺らしている。


 彼女のはにかんだような笑顔が、頭から離れなかった。

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