「独白」
彼について話したいと思う。
彼と出会ったのは一回生の時だ。
ちょうど今日のように、桜が散り始めていた頃だった。
僕が昼食を食べているときに、偶々彼が近くに座った。
彼はハイカラな服装をした友人たちと一緒にカレーライスを食べていた。
彼もその友人たちと同じような服装だった。ただ、持っているオーラが周りの人間たちのそれとは桁違いだった。
勘違いしてほしくないのだが、出会ったといっても、彼とは言葉を交わしていない。
一方的に、僕が彼を認識したというのが正しいのかもしれない。
ただ、僕はあの日、彼と出会ったのだ。
次に彼と会ったのは、同じ年の夏休みだ。
僕の部屋のエアコンが不幸にも壊れてしまい、僕の部屋は常にサウナ状態になってしまった。
そのため、僕は修理が終わるまで大学の図書館に入り浸っていた。
彼に会ったのは、そんな夏のある日。僕が日差しを避けながら図書館へ向かって歩いていた時だった。
彼の隣には、まるでモデルのような見た目をした女性が二人いた。
両手に華というやつだった。
僕は気付かれないように舌打ちをし、図書館に向かった。
最後に会ったのは、二回生の時のクリスマスイブの夜だった。
大学の建物が電飾によって煌々と輝いている様子を眺めながら歩いていた時に、彼に会った。
彼は道行く大学生たちに、不動産屋の広告が入ったポケットティッシュを配っていた。
以前のような小綺麗な風貌は失われていて、口の周りには無精髭が伸びていた。
それ以来、僕は彼に会っていない。
風の噂では、彼は東京の大学に合格し、上京したらしい。
違う人から聞いた風の噂では、彼はロンドンに留学したらしい。
僕は噂はあてにしないことにした。彼は今でもこの大学にいると思っている。
以上が僕が知っている彼についての話だ。
彼について何か知っている人、彼を見かけた人は僕に教えてほしい。
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