幸福の飴

二階堂 萌奈

幸福の飴

 私の仕事は飴を作ることである。ここで作られた飴は、とても評判がいい。最初の方は一切味がしないが、途中から一気に甘みが込み上げてくる。最後の方は少しだけ、しかししっかりとした甘みが口の中に溶けていく。

 いつも通り飴を作っていると、トラックの音がした。外に出ると、いつものおじさんが来ていた。ここに置いていくからね。そう言って、パンパンに詰まったビニール袋を数十個置いた。私はそれを室内のとある装置の前まで運ぶ。全てが運び終わった時、おじさんはいなくなっていた。

 装置を起動させ、ビニール袋の中身を投入していく。ガコンガコンと音が鳴り響く。よいしょ、よいしょ。四十三個のビニール袋の中身を全て装置に入れて、私は再び飴作りへと戻った。

 しかし、作り始めて直ぐに材料が残っていないことに気づいた。倉庫に取りに行かなくては。私は隣の倉庫に向かった。

 倉庫には。大量の木箱が置いてあった。表面には「ハピネス」と書かれている。それを開くと、そこには小さな熊のぬいぐるみと、銀色のリングが二個置いてあった。そしてそれらは、ピンクと黄色の明らかに幸せそうな色の煙に包まれていた。木箱を閉じ、落とさないように持ち上げる。そのまま工場まで木箱を運んでいく。


 そう、ここで作られている飴は「幸福」でできている。「幸福」は人によって見え方が違うらしく、先日あのおじさんに聞いた時には、金銀財宝が木箱の中に敷き詰められていたそうだ。

 私は飴作りを再開する。一個、二個、三個と、着実に作っていく。ある程度の数が出来上がった頃、ビニール袋の中身を入れていた装置が動きを止めた。近寄って、装置の下に置かれている木箱を見る。問題なく、「幸福」が出来上がっている。私はその木箱を倉庫に運んだ。

 この仕事をしていると、どうやって飴を作っているのかと聞かれることがよくある。これは「幸福」でできているんだよ。と、よく説明するが、では幸福は何からできているのか。それは残飯だ。

 世界中にある食べ残しを回収し、それを「幸福」に変える。そして、それを飴に変えて皆に売っているのだ。まさに、「残り物には福がある」と言ったところか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸福の飴 二階堂 萌奈 @Nikaido8novel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ