第10話 オカ研とモトちゃん先輩への噂

「どうだコーイチ?!」

「お願いしますから・・・早く祓って・・・」

巧一朗は幽霊に取り囲まれ動けなくなっている。

その数、実に20体以上である。

「よし!そのまま動くな・・・」樹斗もとがゆっくりと手を合わせる。

「う、動きたくても動けないです・・・」

巧一朗こういちろうは恐怖に怯えている。

樹斗はゆっくりとしかしはっきりした声で経を唱え始める。

すると巧一朗を取り囲んでいた幽霊たちは徐々に消えていった。

「ありがとうございます・・・助かりましたよ本当に・・・」

「もう大丈夫か?」

「はい・・・何とか・・・」

巧一朗は力なく座り込む。

「いやぁコーイチ君のお陰で仕事が捗るよ!」

亜由あゆが嬉しそうにしている。

(もう勘弁してくれぇ・・・)巧一朗は限界だった。

なぜならもう、5日連続でこんなことが続いてるからだ。


****

話はオカ研存続が決まった直後に遡る。

「そういや部の主な活動って何なんですか?」と巧一朗が聞いた。

「うーん・・・私らが来る前は、普通にオカルト事象の研究だったらしいよ。」

亜由が笑いながら言う。

「らしいよって・・・?」

「それがさあ、モトちゃんとあたしが入部したあたりから、

モトちゃんの力をあてにする人たちが相談に来て、そういった事を

引き受けるのが主な活動になっちゃってさ」

「へえ・・・じゃあ結構前からあるんですねこの部活」

「うん!以前どんな活動をしてたのかなんてよく知らないんだよね!

でもまぁそんな感じで困ったことがあったら何でも解決するっていう ゆるい部活動だよ!」

「・・・ゆるくないですよ全然・・・」巧一朗は身震いした。

「まぁさっき依頼が来たし、見学がてらに行ってみる?」

「ああ、はい・・・」

「んじゃ、レッツゴー!」


****

(思えばあれがすべての間違いだった・・・)

最初ついて行って以降、部員の中で霊的なものを普通に見る事が出来るために、

依頼内容が霊的なものによるものかをチェックさせられた。

しかしそれは幽霊が渦巻く場所へと放り込まれる事を意味していた。

巧一朗にとっては毎度毎度最高に恐ろしい目にあわされるという事だった。

「コーイチ、大丈夫か?」

「はい、何とか・・・」

巧一朗は力なく答える。

「コーイチ君はもう慣れっこだね!」

「いやいやいや・・」亜由の言葉に巧一朗は苦笑する。

「さすがコーイチ・・・」と樹斗も微笑む。

「もう勘弁して欲しいですけどねぇ・・・」巧一朗は力なく笑う。

依頼内容の原因が霊的なものでなければ自分には役目はないのだが、

オカ研という名目上、来る依頼の殆どが何らかの霊的なものが絡んでいた。

「コーイチは頼りになるからな」

「そうそう!コーイチ君がいるから安心できるよ!」

「いやぁ・・・」巧一朗は照れ臭そうにする。

(頼りにされているのは嬉しいけどいまいち納得できない・・・)

巧一朗は色々と複雑な思いを抱えていた。


***


「おい一ノ瀬、お前あの零蓬寺れいほうじ先輩がいる部活に入ったんだって?」

とクラスメイトの 佐藤が話しかけてくる。

「ああ、オカ研の事?」「オカ研って・・・あの先輩、ヤバい噂多いぞ?」

「そうなの?」

「ああ、なんか呪いとかやってるらしいぜ? 呪われた奴は皆死んでるってよ」

「はぁ!?」

巧一朗は驚きの声を上げる。

(なんでそんな噂になってるんだ・・・)

「あーあー、やっぱ知らなかったんだな・・・」

佐藤はやれやれと言った感じでため息を吐く。

「ど、どういうことだよ?・・・」

巧一朗は信じられないという感じだ。

「まぁ、そのまんまだよ。オカ研って、実は裏では呪いの儀式をしてて、

それをやった人間は死ぬらしいんだよ」

佐藤は真面目な顔で言ってくる。それを見た巧一朗は呆れたように

「・・・そんなわけないだろ。」と返した。

「まぁ、そうだろうけどさぁ・・・。でも実際、呪いの噂は絶えないしさ。

この前も3組の女子が呪い殺されたって聞いたし、 オカ研の呪いだって言われてるよ」

「・・・マジかよ」

巧一朗は愕然とした。

樹斗の事がこんな風に噂されてるとは・・・。

しかし実際のところそれは真逆な話で、巧一朗本人は何度も樹斗に窮地を救われている。

しかも樹斗がいなければ巧一朗はオカ研に入る事はなかったかもしれないのだ。

「・・・と、とにかく零蓬寺先輩はそんな人じゃないし、オカ研だってそんな部じゃないからな。

あんまり変な噂を真に受けるなよ。」

巧一朗はそう言うのが精一杯だった。

本当なら佐藤を怒鳴りつけたいところだが、彼は聞きつけた噂を話しているだけだ。

おそらく悪気も悪意もない。それに下手に騒げば余計に話が広まってしまう可能性もある。

「・・・わかったよ。」

佐藤は少し不満そうだったが、それ以上は何も言わなかった。

「じゃあ俺は帰るから」

巧一朗は自分の席から荷物を持って教室を出た。

「おう、また明日」

佐藤が後ろの方で何か言っているが、巧一朗は振り返らずそのまま学校を出て行った。

***

「・・・ただいま」

巧一朗は家に帰るとすぐに自分の部屋に入り、ベッドに倒れこんだ。

「・・・」

今日一日で色々ありすぎた。

オカ研の噂の事や呪いの話。

そして何より・・・。

(モトちゃん先輩がヤバい奴だと思われてるなんて・・・)

巧一朗は悔しくてたまらなかった。


おそらく多分、樹斗自身はそういった噂は気にしてはないと思うが、

巧一朗は気が収まらない。

「なんでこうなるんだ・・・」

巧一朗にとって、樹斗は恩人で尊敬する人間でしかないのに。

何もできない自分に腹を立てる巧一朗だった。


***


翌日。放課後になると巧一朗はオカ研の部活へ向かった。

昨日の事が心配だったが、とりあえず行ってみる事にした。

しかしその足取りはなんとなく重い。


複雑な思いを抱えながら歩いていると、誰かから声を掛けられた。

「お、コーイチも部室に行くのか?」なんと渦中の樹斗本人であった・・・。

「え?あ、はい、そうですけど・・・」

巧一朗は何とも言えない気持ちになりながらも返事をした。

「じゃあ一緒に行こうぜ。もうすぐ着くしな。」

樹斗は相変わらずの無表情で巧一朗に話しかけてくる。

「・・・どうした?元気がないみたいだが」「いえ、別に・・・」

「そうか。なら良いが」

樹斗は特に気にも留めず前を歩き始めた。

一方巧一朗は、昨日の噂が広まっていない事を祈っていた。

(良かった・・・。でもモトちゃん先輩は気にしていないんだろうか?)

「そういえば」

「うわっ!?」

いきなり後ろから声をかけられたので驚いてしまった。

「何をそんなに驚く事があるんだ」

樹斗は少し呆れているようだった。

「す、すいません」

「まあいい。それよりお前は昨日の事を知っているのか?」

「えっと、何の事ですか?」

「・・・知らないならそれでいい」

「あ、はい」

「・・・」

「・・・」

会話が続かない。

「・・・もしかして、お前も私の噂の事を聞いたのか?」

なんと樹斗本人が図星を突いてきた。

「え?あ、いや、その・・・」

巧一朗これ以上ないほど分かりやすく動揺する。

「やっぱりそうか・・・」

樹斗は少し困ったような顔をしていた。

「あの、モトちゃん先輩は気にしてないんですか?」

「・・・正直に言えばあまり気にしてはいない。

でも噂が一人歩きするのは好ましい事ではない」「そうですよね・・・」

巧一朗は安心したと同時に、少し寂しい気持ちになった。

「しかしいちいち訂正して回るほどのものでもない・・・」

「そうなんですよ!だから俺は悔しくて・・・」

「悔しい?」

「だってモトちゃん先輩は何も悪く無いのに、悪い奴だとか言われてるなんて!」

「そうか・・・」

「そうです!それに、みんなはモトちゃん先輩の事を知らないのに、

勝手にそんなことを言われるのは、納得できませんよ・・・」

巧一朗は少し苦々しい顔を見せる。

「・・・ありがとう。コーイチ」「モトちゃん先輩・・・」

「それでも私は嬉しかったぞ」

「そ、そうですか」

巧一朗は照れてしまって、うまく返事ができなかった。

「あとこれは亜由からの受け売りになってしまうが、『見てる人はちゃんと見てる』という事だ。

でなければ、オカ研を頼って相談に来る人などいないだろう?」「確かにそうですね」

巧一朗は少しだけ元気を取り戻した。

「まあ、今回の件に関しては、私も少しは気にしていたからな」

樹斗は少し恥ずかしそうに言った。

「モトちゃん先輩でも気にする事あるんですね」

「当たり前だ。人間なんだ」樹斗が少し照れたように笑う。

「俺も、モトちゃん先輩をちゃんと見ている一人になろうと思います!」

自分でも少々臭いと思ったが、巧一朗としては嘘偽りのない本心である。


「それは嬉しい言葉だが、もう少しオブラートに包んでくれ」樹斗はますます照れている。

(モトちゃん先輩はやっぱり優しい)

巧一朗は決意を新たにするとともに、樹斗の意外な面を見れて嬉しくなった。


****

(ちょっと結論を急ぎすぎたかもしれない・・・)

巧一朗は少し後悔していた。

樹斗との距離が縮まったような気がしてつい勢い余ってしまったのだ。

「コーイチ、ちょっとここに飛び込んで見てくれ」

「あのー・・・ここ明らかに危険なんですけど・・・」

巧一朗たちは今、心霊スポットで有名なトンネルの前にいた。

「大丈夫だ。私がいる」樹斗は自信満々に言う。

「いや、そうじゃなくて・・・」「心配するな」

「いやいや!モトちゃん先輩は幽霊とか見えないんですよね!?」

「ああ」

例によって巧一朗にはこの世ならざる者がウヨウヨと見えていた。

「なら危険ですよ!絶対ダメですって!」

「見えなくても分かるんだ」

「ええっ・・・?」

「さあ早く!」

「うぅ・・・分かりましたよ」

巧一朗は渋々とトンネルの中へ入っていく・・・

樹斗の力で除霊ができることは分かり切っているのだが、

それでも怖い場所に真っ先に入らなければいけないのは自分なのだ。

巧一朗は泣きたい気持ちだった。

「頼りにしてるよ!コーイチ君!」亜由も背中をたたく。

(だから俺はセンサーじゃないんだってば・・・)


巧一朗の受難はまだ続く。


つづく

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