第9話 少女と霊媒(後編)
翌日。
部室にやってきた
『ねぇ・・・わたしの右手、知らない』
そう呟きながらフラフラと歩きまわっている・・・。
その場にいた皆がドン引きする中、
その途端、顔色も目つきも正常に戻った美羽が「私・・・どうしていて・・・」
と正気に戻る。「・・・どうやら何処かから浮遊霊を連れてきたようだな。」
「そんなピーナッツをのどに詰まらせたのを治す要領で除霊って出来るんですか?!」
「除霊なんて大層なものじゃない。一時的に追い払うだけだ。」
「なるほど、そういうものなんですね。」
「ユッキー・・・それ感心するとこじゃないし。」
1日目からこんな調子で、その後毎日のように美羽は
何かを憑かせて部室にやって来た。
「今日は何を連れてきたんだ?何か見えるかコーイチ?」
樹斗が尋ねる。
「肩や背中に憑いてるのならともかく、
すっぽり身体に入ってしまってるものはちょっと・・・」
巧一朗も困ったような顔をしている。
とりあえず樹斗が霊背中をたたくことで祓う。
「この子、今までずっとこんなこと繰り返したのかしらね・・・」
亜由がぼやく。
「きっとそうだと思いますよ。」
「それでいて、よくもまぁ精神と身体のどちらかが壊れずに済んだもんだわ」
「いやーそれはホントに運が良かったんだと思いますよ。」
亜由と巧一朗がそんなことを話していると、後ろから声がした。
「・・・お話・・したので・・・」
何と声の主は美羽だった。
(し、喋った?!)めったに口を開かない美羽が喋ったことに皆が驚く。
「なので・・・ここまで・・来れました。」
正直、美羽の言ってることが巧一朗には理解できなかった。
「話したってのは、霊とか?」樹斗が聞き返す。美羽は「はい・・・」とだけ答える。
「昨夜うちの父さんと話したことを参考にしたんだな。」樹斗が美羽に言う。
(なんのこっちゃ・・・)と巧一朗が理解できないでいると、亜由が突然「あああ!」と叫び、
本棚にあった資料を持ってくる。
「そっか・・・美羽ちゃんは『霊媒』を本来の意味で使おうとしたわけか!」
「えっとつまりどういう事ですか?」
「霊媒師っていうのは本来、死者と交信できる人の事を言うのよ。」
「へぇ~そうなんですか。」
「その場合は死者の霊を呼び出して意思の疎通を取ったりするんだけど・・・」
そこまで言って亜由が考え込む。
「はい・・・それで部室まで来れました。」
「そっか!だから何かに乗り移られても勝手にどこかに行くことなく、部室に来れてたんですね!」
巧一朗は納得してうんうんとうなずく。しかし樹斗は難しい顔をしている。
そして「・・・いいか!もうやるな!」と厳しい口調で言う。
「どうして・・・?」美羽がちょっと悲しそうに言う。
「あのね美羽ちゃん、霊をコントロールするのはちゃんと修行した人でも難しいの。
本来の交霊だって成仏した人を呼び出してやるものなんだよ。
それをそこらの浮遊霊とかでやるのはとても危険な行為よ」
樹斗に代わって亜由が言う。
「成仏できない霊は何をしでかすか分からないのよ。それと意思の疎通をしようとするのは
下手をすると美羽ちゃん自身が悪霊に食べられちゃうかもしれないことなの。」
「すみません・・・」
「謝らなくてもいいよ。知らなかったことだし。でももう無茶しちゃだめだよ。」
亜由が優しく笑いかける。
「うちの父さんの話を聞いただけでここまでやろうとするとは・・・」
樹斗が呆れながら驚く。巧一朗も驚いていた。
まさか本当に幽霊と話していたなんて・・・ と、ここで巧一朗に疑問がわく。
「あれ?俺の場合はどうなんですか?一応声は聴けるけど」
「あーコーイチ君はちょっと特殊というかね」亜由が困ったように笑う。
「コーイチ君の場合、霊の声を聴くというより思念を感じ取ってる感じだしね。
どちらかというと心の声を聴いてる感じで対話はしてないでしょ?」
「まぁ、確かに」巧一朗はうなずいて答える。
「しかしどうしましょうかね?こうしょっちゅうだと美羽ちゃんが持たない気が。」
巧一朗が心配そうに尋ねる。
「・・・それに関しては父さんが本山からお守りとやらをもらってきてくれるらしい。
これで少なくとも低級霊や浮遊霊は寄ってこなくなるとの事だ。」
樹斗は少しピンと来てない感じに言う。実際ピンと来ないのであろう。
「おぉ!それはありがたいですね!」
「ただ、お祓いは出来ないらしくて、あくまで護身用・・・だそうだ」
「それでも無いよりマシですよ」
「・・・だな」
樹斗も取り敢えず納得する。
翌日。
「父さんに美羽の事を話したらぶったまげてたぞ。」
樹斗が呆れたように報告する。
「やっぱり無謀なことをいきなりやったからですか?」
「いや、その逆だ。修行もせずにいきなりそこまでできるのかって」
巧一朗の問いに樹斗は困ったように答える。
「よくわからんがとにかく才能はあるってことらしい。」
「良かったじゃないですか」
「良くない。全然良くなかった。」
「えぇ!?」
「美羽の方が修行したいと言い出してしまってな」
樹斗は頭を抱えてため息をつく。
「そんなに大変なんですか?」
「・・・山にこもらなきゃいかんらしい」樹斗は疲れ切った様子で答える。
「山籠もり、ですか」巧一朗は何とも言えない表情をする。
「そしたら親父のやつ、まずはこの部で知識蓄えた方がいいとか、
私に丸投げしてくるようなことを言い聞かせてた・・・」
樹斗は頭を抱えていた。「それで・・・今に至るわけです。」と美羽が後ろでにっこり笑う。
(あれ?今まで前髪で隠れて分からなかったけど、笑うと結構かわいい?)
巧一朗はちょっとドキっとした。
「なるほどねぇ」亜由がうなずく。
「わかった!じゃああたしに続くオカ研知識班として、直々に鍛えてあげよう!」
亜由は胸を張って得意気に言った。
「は・・・はい」
「ふふん♪任せなさいな」亜由は嬉しそうだった。
「ふぃー・・・これで何とか部員がそろったねぇ」
亜由が安堵のため息と供に言う。「やっとまともに活動できるな」
樹斗もどこかほっとした表情を浮かべている。
「ところでオカ研の主な活動って何なんですか?」と巧一朗が聞く。
入部してからというもの自分に頼まれているのは雑務がほとんどだったからだ。
雪信がやっている占いにしても、一部でしかないだろう。
「うんとそれはねぇ・・・」と亜由が話し始めたことは・・・
つづく
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