第5話 ユッキー覚醒
新入部員という事で巧一朗と同じくやってる事は雑務が多い。
この日は樹斗が 家の用事で来れないという事と、
亜由は用事があって遅れるということで、
部室には巧一朗と雪信の二人だけになっていた。
(でもまだ油断しちゃいけないよな。だってこいつは・・・)
巧一朗はまだ警戒していた。
「なあ、お前さ」
「はい?」
雪信は相変わらずおどおどしている。
「別に敬語じゃなくてもいいんじゃね?俺ら学年一緒だし。」
ちょっと息が詰まりそうな感じがするので、巧一朗が切り出す。
「そうですか?それなら遠慮なく!」
そう言うと雪信はにこっと笑った。
(意外だな・・・。この笑顔でモテそうなもんだが)
そんな事を話していると、亜由が入ってきた。
「ユッキー、仕事だよ!」「ユッキー?」
「・・・えー『雪信』だからユッキー」
亜由はまた勝手にあだ名をつけてしまったようだ。
「はい!分かりました!」
しかし当の本人はまんざらでもない様子だった。
「で仕事ってのは・・・」
「うん、これなんだけど」と亜由がメモを出してくる。
「なんですかこれ?」と巧一朗が聞く。
「失せモノ探しのお願い。」
「依頼主は誰なんです?」
「依頼人は学校の人たちだよ。
去年は先輩がやってたんだけど卒業しちゃったし、
これができる人が今までいなかったんだ。」
亜由は説明を続ける。
「依頼内容は失くしたものを探して欲しいっていうもの
ばっかりだけど、中には変なものもあってね。」
「例えばどんなのだ?」
「ん~そうだねぇ・・・。」
少し考えてから亜由は言った。
「なんかよく分からないけど幽霊が出るとか何とか言ってたり、
夜中に何か音がするって言ってきたりかなぁ」
「うへぇ・・・。そりゃ大変だな。」
「まあ私達も一応部活してますよってアピールにもなるしさ、
それにユッキーにも慣れてもらわないと」
「はい・・・」
何故か気まずそうな返事をする雪信。
「で、今日はどうすんですか?」
「とりあえずそんな難しい内容のはないから、
無くなったものをユッキーの力で探し当ててほしいなと。」
「なるほどね。」
確かにあれほど的中率の高い占いができるんだから、
なくしものを探すぐらいできそうだ。
と巧一朗は妙に納得した。
「ええと・・・ということはやぱり・・・」
しかしそんな巧一朗とは対照的に雪信の顔が一瞬こわばる。
「うん、占いしてもらうよ」「う・・・」
「麻耶さんから服も借りてきたしね。」
亜由はどこか楽しそうだ。
「本当にやらないとダメですか・・・」
「だってユッキーの占いに期待してるもん。」
「そ、そうなんですか?・・・」
「ほら、早く着替えて。」
「はい・・・」
雪信はしぶしぶといった表情で準備室に入る。
そのあまりな様子に「何が始まるんです?」と巧一朗が聞くと
亜由は「まあ見てて」とだけ言う。
やがて着替え終わった雪信が出てくる。
その姿を見た巧一朗は思わず息をのむ。
そこには先程までの地味な男子生徒ではなく、
女性的な雰囲気を漂わせる美少女がいたからだ。
その姿を見て亜由は満足げに笑う。
「ゴスロリで来たかぁ・・・」
「・・・なんといったらいいのか・・・」
「ね、すごいででしょ?」
「あの・・・あんまり見ないでもらえませんか・・・」
雪信は恥ずかしそうにしている。
「な、なんでこんな格好を?」
「麻耶さんからユッキーに占いさせるなら女の子の格好させろって言われてたのよ。
そうしないと占いの的中率が下がるって」
(信じられないが・・・似合ってる)巧一朗まで妙な気分になってくる。
「じゃあさっそく始めようか」亜由が促すと雪信は席につく。
「それでは・・・まずは依頼のメモを見てください」
雪信は淡々と説明を始める。
「依頼内容については・・・まあいいや。
とにかくこの依頼書に書かれた物について占ってほしいんだ。」
亜由は1枚の紙を差し出す。
雪信はカードを取り出す。不思議な絵が描かれている、タロットカードだ。
「へぇ、格好の割には本格的なんだな」「うるさいよ・・・」
「まあまあ、ユッキー落ち着いて。」亜由は宥めるように言う。
「では占いを始めます」
雪信はカードを並べ始める。
「今回のカードは『塔』の逆位置ですね。」
「ほう、塔ですか。」亜由は興味深そうにする。
「はい。」雪信は続ける。
「塔の意味は、変化や波乱、崩壊や失敗などを意味しています。
また、破壊、破滅、終末などの意味もあり、 終わりの始まりという事も暗示しています。
そして今の状況を表すキーワードとしては、
不安感、孤独、無力、空虚などが挙げられます。」
「うーん、なんか不吉な感じがするね」亜由は苦笑いを浮かべている。
「確かにあまり良くない状況の様です。すでに完全に失われたか、
壊されて残骸が隠されているかのどちらかです。」
「ふぅ~ん」亜由は腕を組みながら考え込む。
「どうしたもんかなぁ・・・」巧一朗は困ったような顔をしている。
「もしかしたら残骸からの修復が可能かもしれないです。
残骸のある場所を見ますか?」
「そうだね、お願い」
「わかりました。」
雪信は目を閉じて意識を集中させているようだ。
しばらくすると雪信は目を開ける。
「・・・見つけました。場所は・・・庭の・・・納屋の・・・
右奥の一番下の箱。そこに何かがあるみたいです。」
「ありがとう。助かったよユッキー!」亜由はとても嬉しそうな顔になる。
「いえ・・・」雪信は照れているのか少し俯いている。
「ちょっと知らせてくるよ。ユッキーはしばらく休んでていいよ」
と亜由が立ち上がる。
「はい・・・」雪信は素直に従う。
占いは結構精神力を使うらしい。
「それじゃあ行ってくるね」亜由は部室を出て行った。
「ユッキーお疲れさま。」巧一朗も労っている。
(う、いつの間にか『ユッキー』呼びがうつってしまった・・・)巧一朗は思わず口を噤む。
「はい・・・」雪信は机に突っ伏している。相当消耗していたのだろう。
「し、師匠のようにはいかない・・・」雪信は顔だけ上げる。
「いやぁ、うん、ユッキーは頑張ったと思うぞ」巧一朗は雪信を励まそうとする。
「そ、そうかな・・・」雪信は恥ずかしいのか顔を上げない。
「ユッキーは凄く真剣だったからな。良い結果が出るといいな」
もはや言い直すのも気まずいので『ユッキー』で押し通すことにした。
「うん・・・」雪信は小さく返事をする。
「ところでさ、ユッキーってなんで女装なんてさせられてるんだ?」
この際なので巧一朗は疑問をぶつけてみることにした。
「きっかけは覚えてないけど・・・師匠がふざけて僕に女の子の服を着せてた時に
何かを言い当てたことがあったらしい・・・」
「それでその服で仕事を手伝わされるようになったわけだ」
(半分は麻耶さんの趣味のような気もするが・・・)
「・・・うん」
「でもユッキーは嫌じゃないのか?女装して仕事を手伝うとか」
「正直今でも抵抗はあるよ。でも師匠に言われているからね。」
「麻耶さんがねぇ」
「あ、一応言っとくけど、師匠は多少変わっているけど悪い人ではないよ。
今となってはあの人がたった一人の僕の身内だ。」
「身内?」
「・・・両親がいなくなったとき、唯一引き取ると言ってくれたのがあの人だったんだ。」
「へぇー」巧一朗は感心したように声を上げる。
「だから僕は師匠には感謝している。」
「ユッキーにとって麻耶さんは恩人であり家族なんだね」
「・・・そうだね」雪信はどこか寂しげな表情を浮かべている。
(これは・・・ちょっと悪いことを聞いてしまったかな)
「ごめん、なんか変なこと聞いちまったな」
「うぅん・・・気にしないで」雪信は笑顔を見せる。
と、ここで用事を済ませた亜由が戻ってくる。「ただいま~」
「おかえりなさい」
「どうでしたか?」
「バッチリだよ!やっぱりユッキーはすごいよ」
亜由は満足げな顔で報告する。
「去年、お子さんが壊したのを、怒られたくなくて隠してたらしいよ」
「えっ!?」
「それは・・・」
「大丈夫だって!」亜由は2人を安心させるような口調で言う。
「向こうも『何とか修復してみる』っていってたし」
「そ、そうなんですね・・・」
雪信は安堵の息をつく。
亜由はそんな雪信を見て微笑んでいる。
この2人は仲が良いようだ。
しばらくして「じゃ、そろそろ帰ろうか」と亜由はカバンを手に立ち上がる。
「亜由先輩、今日はありがとうございます」雪信は丁寧に頭を下げる。
さすがにもう制服に着替えている。
「いいよいいよ、ユッキーのためだし」亜由は雪信の頭を撫でながら言う。
「ユッキーはもっと自信を持ってもいいんだよ」
「はい・・・」雪信は照れくさそうにしている。
(こうしてみると普通の男子生徒なんだよな・・・)
「それではまた明日」雪信は部室を後にしようとする。
「おう、気をつけて帰れよ」
「じゃあねー」亜由は手を振って雪信を見送る。
「さて・・・俺達も帰りますか。」「そうだね」
帰り道、巧一朗は亜由に雪信の事を聞いてみた。
「ユッキーは普通の状態だと時は占えないんですか?」
「うん。麻耶さんによるとはあの格好でないと、
何故かまったく当たらなくなるんだって」
本人にもよくわからないらしいけど、と亜由は続ける。
「だから麻耶さんからは占いさせるときは絶対女装させろって言われたの。
でないと半人前以下になるって。」
「なるほど・・・」
巧一朗は雪信が女装したときのあの神秘的な雰囲気を思い出した。
あれは確かに普段の彼とは違うものだった。
「いつもは普通の高校生なのになぁ・・・」
「でもそのギャップがいいんじゃないの」
「まぁ・・・そりゃそうですけど」
そして幸信の事に気を取られて、聴き忘れていたことを聞く。
「そういや今日、モトちゃん先輩来てませんでしたけど・・・」
「ああ、彼女はね、今日は檀家さんに呼ばれていたらしいわ。」
「檀家さんって・・・ご実家の?」
「ええ。なんでも『手に負えない』事態とかなんとかで・・・」
「手に負えない事態って・・・まさか?!」
巧一朗はなんとなく状況を察した。
「そう・・・檀家さんでもモトちゃんの力は知られているの」
「うわ・・・」
「それで檀家の方から相談を受けて、今朝早くに住職さんと出ていったわ」
「ええ・・・・・」
樹斗の持つ力に改めて驚かされる。
「まぁ本人が一番能力を理解してないんだけど」亜由が苦笑いする。
「へぇ・・・」
「きっと明日あたりまたとぼけた報告をしてくれるわよ」
「・・・・・・」
「どうしたのコーイチ君?」
巧一朗は黙ってしまう。
「いえ、ちょっと考え事をしてまして」
「ふぅん・・・」亜由は少し不満げだ。
ほどなくして分かれ道となり、二人はそれぞれの道を帰る。
(モトちゃん先輩もユッキーもすごい能力を持っている。
亜由先輩は積極的な行動力をもって、更に知識まで蓄えている・・・
だけど・・・俺は・・・)
少し自分について考えてしまう巧一朗だった。
つづく
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