第4話 占い師の弟子
日曜の昼、巧一朗は商店街を歩いていた。
「この住所にこの手紙を持っていけ・・・か。」
これは先日亜由からお願いされたものだ。
(これが新入部員確保のためになるのかなぁ・・・)
そんなことを考えながら歩いていると目の前に大きな屋敷が見えてきた。
「ここか・・・。大きい家だなぁ。」
その家は西洋風の立派な建物だった。庭には噴水があり花壇も綺麗に手入れされている。
看板には「神秘の占い 水星堂」とあった。
「こんなところに店があったんだな。」
巧一朗はそう呟きながら中へ入った。
店内に入るとそこには大きな水晶玉やよく分からない人形などが置かれていた。
受付で待っていると「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ。」
とメイド服の女性が案内してくれた。
(なんでメイド服・・・?!)巧一朗は若干引き気味ななる。
よく見ると、巧一朗と大して変わらない年齢に見える。
「えっと、あなたは?」
「私は当店の店員です。お客さまをお迎えする係をしております。」
彼女は淡々と答える。
「なるほど。」
納得した巧一朗は彼女のあとについていく。
「あちらの部屋に先生がいらっしゃいます。」
彼女が指差す方を見ると、部屋の奥の方にある椅子に座っている人影が見えた。
扉を開けるとそこに居たのは20代後半ぐらいの女性だった。
ロングヘアの美人でどこかつかみどころない雰囲気だ。
彼女は占い師らしからぬパンツスーツ姿で、机の上に足を乗せながら座っている。
「あのー、すいません。」
「なんだい?」
「・・・俺、二宮さんに頼まれて、手紙を届けに来たんですが。」
そういうと女性は足を下ろし立ち上がった。
「ああ、君が・・・。まぁいいや、さあさあ入って座りなさい。」
「はい。失礼します。」彼が席に着くと彼女は口を開いた。
「私がこの『水星堂』の主である
彼女、摩耶は笑顔で言う。
「はい。よろしくお願いします。」
巧一朗は少し緊張しながら答えた。
(水星堂ってかなり有名な占い師じゃなかったけ?)
巧一朗は占い好きな自分の母が所有していた本を思い出す。
そこには「世界有数の占い師」「日本で最も影響力のある人物の一人」
などと書かれていたはずだ。
「で、手紙っていうのはこれかい?」
摩耶は封筒を手に取り中身を確認する。
「うん、間違いないみたいだねぇ・・・。」
「はい、確かに渡しましたよ!」
「少し待っていたまえ。」
「わかりました。」
巧一朗は部屋の隅にあったソファーに腰掛ける。
しばらくすると、奥の部屋から摩耶が出てきた。
「待たせたね。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
「では、早速だが本題に入ろうか。」
「はい。」
「実を言うとね、君らの部活の部員候補は、私の弟子なんだ。」
麻耶はほくそ笑みながら言う。
「え?」
「弟子と言っても、まだ見習いだけどね。二宮の娘さんには、
3つの別々の内容の手紙を預けて、そのうちの一つを
私たちの知らない人間に持ってこさせるようお願いした。」
「それが俺だったわけですか。」
「そうだね。そこで今日ここにどういう人物が来るかと、
どの手紙を持ってくるかを弟子に占わせた。」
「それで俺の事を知ったんですか。」
「そういうことだよ。一ノ瀬巧一朗君」
「・・・俺の名前・・・」
不意に名乗ってない筈の名前を呼ばれて一瞬表情がこわばる。
「ふっふっふ、驚いてくれたかね。」
「ええ、驚きました。どうしてわかったんですか?」
「簡単な話だ。私の弟子が占った結果だよ。」
「そうなんですか?!」
「そうさ。しかも君はこの世のものでない存在を見る力がある。」
「まぁ・・・それについては否定しません。」
「だろう?それに君には霊的なものを
呼び寄せやすい体質のようだし。」
「それは分からないですが・・・それも占いの結果ですか。」
「そうだよ。」
・・・ちょっと納得がいかないものの、
当たってる部分が多いのも否定できない。
「そういえば、あなたの弟子の人はなんていう名前なんですか?」
巧一朗は興味を持った。
自分の事を言い当てた人物がどんな人間なのか知りたかったのだ。
「うーん、まだ名前は言えないけど、可愛い子だよ。」
(あれ?もしかして・・・)
「君もさっき会っている筈なんだが。」
「まさか、さっきメイド服を着ていたあの女の子ですか!?」
「そうそう。その通りだよ。」
摩耶は笑いながら答える。
「あの子が・・・」
「でも、なんであんな格好をしているのかは秘密だ。」
(いやそれ一番知りたいんだが・・・)
占い師ってやっぱり変わっているなと思いながら
「しかしなんでこんな面倒くさいことを・・・」
「弟子の実力を知りたかったのもあるし、いくらお遊びの部活とはいえ、
中途半端な力を持った者を私の弟子として預けたくなかったからね。」
「なるほど・・・」
巧一朗は納得するしかなかった。
「それに、これは私の勘なのだけれど、
君のところの部員たちはみんな何かしらの力を秘めていると思うんだよ。」
「そんなことが分かるんですか?」
「ああ、わかるよ。」
「すごいですね。」
「まぁ、私は特別な能力を持っているからね。」
麻耶はニヤリと笑って見せた。
「特別とは?」巧一朗は不思議に思った。
「私は『未来予知』ができるんだ。」
「それは、いわゆる超能力というやつですか?」
「ああ、そういうやつだ。」
「へぇ・・・すごいですね。」
(本当かぁ?!)巧一朗は心の中で思わずツッコんだ。
「私が見れるのは、これから起こる可能性が高い出来事だけなんだ。」
「つまり、完全に未来を予言できるわけではないってことですよね?」
「まあ、簡単に言えばそういうことだ。」
「ということは、占いの的中率は100%ではないということですか?」
「そうだよ。」
「それでも十分凄いですけど・・・」
「いやいや、それほどでもないさ。」
麻耶は自分の能力を鼻にかけることもなく、謙遜している。
「ちなみに、さっき言っていた弟子さんはどれくらいの力を持っていますか?」
「うーん、私の見立てでは、将来的には私すら凌駕するだろうね」
「え?!そんなに!?」巧一朗は驚く。
水星堂といえばかなり高名な占い師だ。その本人からお墨付きをいただくのかと。
「いやいや、将来的にと言っただろ?まだまだ私には遠く及ばない。」
「そうなんですね。」
「まぁ、弟子は私に教えを請いながら修行を積んでいる段階だからね。
それにある条件もそろわないと・・・」
「なるほど・・・」(ある条件?)
「それに、弟子はまだ15歳だしね。」
「え?!それじゃ俺と同い年じゃないですか!」
「そうだね。君と同じ高校1年生だよ。」
「えええええ!?」巧一朗は驚いた。
てっきり2年か3年ぐらいかと勝手に思っていたからだ。
「ふふふ、君も驚いてくれたみたいだね。」
麻耶は不敵な笑みを浮かべている。
「そりゃ驚きますよ・・・」
「まぁ、弟子をよろしく頼むよ。
そう零蓬寺の娘さんと二宮の娘さんに伝えてくれ。」
「分かりました。」
「それじゃ、また会おうじゃないか。」
「はい、ありがとうございました!」
巧一朗は深々と頭を下げて礼を言った。
「それじゃ、失礼します。」
そう言って、巧一朗は店を後にした。
****
翌日、部室にて。
「・・・というわけで、無事水星堂さんからの許可が下りたようです。」
巧一朗は昨日の事の顛末を話していた。
「そうか、それはよかったな。」
「うん、これで正式に入部できたってことかな。」
「そうですね。」
「やったー!部員が増えて嬉しいよー!!」
亜由は喜びながらぴょんぴょん跳ねている。
「亜由先輩、落ち着いてください。」
巧一朗は冷静にツッコミを入れる。
「ふふふ、賑やかになりそうだな。」
そんな折、部室のドアをノックする音がする。
コンッ、ココココッ
「どうぞ~」亜由は返事をする。
ガチャリと扉が開かれる。
「こんにちは。」
そう言いながら男子生徒が一人入ってきた。
メガネをかけたちょっと真面目そうな印象の生徒だ。
「えっと、君は?」亜由は尋ねる。
「1年C組の
叔母から入部の許可が下りましたので、こうして参りました。」
「あー!!あなたが噂のお弟子さんかー!!!」亜由は興奮気味に言う。
「はい、そういうことになります。」
「ほう・・・君が・・・」樹斗はまじまじと見つめる。
・・・・・・。
巧一朗の目が点になる。
「き、君が、麻耶さ・・・いや、水星堂のお弟子さん・・・?!」
「はい、そうですよ先輩方。これからよろしくお願い致します。」
雪信は丁寧に挨拶をした。
「いや・・・!ちょっと!?本当に君は水星堂さんの・・・?!」
巧一朗がもう一度聞きなおす。
「はい、その通りですけど・・・どうかしましたか?」
雪信は何食わぬ顔で答える。
(まてまて!昨日見た麻耶さんの弟子は女の子だったじゃないか・・・?!)
でも目の前にいるのは多少小柄ではあるが、明らかに男子生徒だ。
「えぇ!?ど、どういう事・・・」
「お、おい、落ち着けコーイチ・・・」
「うぅ・・・すみません・・・でも・・・君は確か・・・昨日・・・ええぇ・・・??」
巧一朗は頭が追い付かない。
「だって麻耶さんの弟子は女の子で、メイド服を・・・」
巧一朗はまだ混乱している
「・・・ああ、あれですか。
あの時は師匠から「修行だ」で着せられていて・・・」
雪信は恥ずかしそうに言う。
「えぇ・・・・・そういう・・・いや納得いかないって!」
(だから何の修行だよ!)
そう言われても到底頭では整理しきれない。
「・・・そりゃ、ぼくだって、好きで着てたわけでは・・・・。」
雪信がちょっと苦々しい表情をしているので、
あまり話題にしない方がよさそうな気がしてきた。
(なんか複雑な事情がありそうだな・・・)
巧一朗は色々と察した。
「それで、二宮先輩。僕は何をすればいいんですかね。」
「んー、暫くはとりあえずコーイチ君の手伝いをしてくれればいいよ。
本格的な仕事はもっと後に来るし。」
「わかりました。」
「よろしく・・・四方田君・・・でいいのかな?」
「はい、構いませんよ、一ノ瀬君。」
「じゃあ、改めてよろしくね。」
「はい。」
こうして新しい部員が一人加わった。
つづく。
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