第3話 鉄塔の怪異と亜由先輩

オカルト研究部新入部員獲得について、

何かを任命されることとなった巧一朗だったが、

・・・今なぜか亜由と一緒に帰っている。

曰く「これからの事とモトちゃんの事」について話をしたい」という事だった。

最初は世間話などのなんでもない話をしていたが、線路近くに差し掛かった時、

亜由の足が止まる。「ねぇ、コーイチ君はさぁ……」

彼女が話しかけてくる。その視線の先には鉄塔がある。

巧一朗が同じく鉄塔に目を向けると、何らかの作業をしている作業員の姿があった。

彼らはヘルメットを被り、汗を流しながら黙々と作業を進めている。

「・・・大変ですねぇ、こんな時間に作業とか・・・」

巧一朗がそう言いかけたところで、亜由が巧一朗の手を掴んで反対側に走り出す。

「えっ!?ちょ、何?」

「シッ!静かに!」

彼女はそのまま近くの電信柱まで走っていく。

そして、「あのね、」と前置きして、こう言った。

「・・・あの鉄塔ね、2年前に作業員が落下して亡くなってる。」

「えっ?!」


「事故なのか自殺なのかも分からないんだけど、

・・・それ以来、あの人はあそこでずっと作業し続けてる。」

「まさか・・・それって・・・?!」

「うん……。」

亜由の話を聞いて巧一朗は真っ青になる。

あれはこの世ならざる者という事になる。

あまりに自然に見えていたので気が付かなかった。

「あんまり長時間見てると気付かれてついて来られたかもね。」

亜由は引きつった笑いをしながら言う。

「君は所謂『見える』人だね?」

「あっ……はい、そうです。あ、でもあれが見えるってことは・・・」

それはそのまま亜由にも当てはまってることがわかる。

「亜由先輩も・・・まさか?」

「うん、でもあたしの場合は、ちょっと神経を集中しないと見えないけどね。」

「そうなんですか・・・」

巧一朗は自分の事を棚に上げて感心する。

「いや、『見える』力に関しては君の方が全然上だよ。」

「そんなこと無いですよー」

「謙遜しないでよ~。気が付かないぐらい自然に見えていたくせに」

亜由は少し困った表情をする。

「零の合格発表の話を聞いて思ったんだけど、君は知ってるんだよね?

モトちゃんの持つ力を。」

「・・・はい、多分。」

あの時、樹斗が自分に憑き付きかけた霊を

一瞬で祓ってしまったのは紛れもない事実だ。

しかし、樹斗は自分が除霊の力を持っていることにまったく気付いていないという。

「・・・モトちゃんは見たり聞いたりができないから実感ないんだよ」

亜由が困ったように言う。


霊的なものを一切見ることなく、無意識のうちに除霊できる・・・

見たくもないのに霊的なものが視界に入ってきて、

しかも自分は何もできないという巧一朗にしてみれば羨ましい限りだった。

「いいなぁ、俺なんか見えるだけで何もできないのに・・・」

「まあまあ、コーイチ君の霊を見る力はきっと役に立つと思うよ。」

亜由は慰めるように巧一朗の肩に手を置く。

「モトちゃんがオカ研に入ったのも、お寺さんの娘だから、

少しはそういった不思議なものに触れておきたいってことからだったし」

「へぇ・・・」

「モトちゃんは霊的な知識は皆無だけど、

除霊の力だけは飛び抜けているの。」

「除霊の力?」

確かにお経を読んだだけであれだけの除霊ができるのは

かなりの霊力が必要だろう。

「そう、あの子には、この世に存在していて欲しくないものが なんとなく分かるみたいなの。」

亜由は鉄塔の方を見ながら話を続ける。

鉄塔の周りには、先程までは無かった黒い影のような物が見えた。

その数はどんどん増えていく。

巧一朗は思わず目を背ける。

亜由はそれに構わず話を続けた。

巧一朗は恐怖する。

「大丈夫。あれは引き寄せられてきて離れられないやつよ。」

亜由は落ち着いた様子で言う。

巧一朗は恐る恐る亜由の方を向いた。

亜由の視線の先には、さっきよりも多くの影があった。

巧一朗はその光景を見て、再び身震いした。

亜由は続けて言う。

「あとあの影みたいのはもう執着だけが残ってる感じだよ。

人としての意識はほとんどないんじゃないかな」


「えっ?!じゃあ、あの人は一体何をしているんですか?!」

「分からない。ただ、あの人はあの場所でずっと作業しているだけ。」

「作業?何の作業ですか?」

「多分あの人だけは・・・自分が死んだことに気付いてない。」

亜由の言葉に巧一朗は絶句する。

「ど……どういう事……ですか……」

巧一朗の声は震えていた。

亜由は少し困ったような顔をして答える。

「そのままの意味よ。だから自分が死ぬ直前の作業を延々と繰り返してるの。

・・・きっとこれからもずっと。」

亜由は悲しげな表情を浮かべた。

「それってつまり・・・」

「うん、幽霊になって成仏できていないの。」

「そんなことあるですか?普通死んでしまったら終わりじゃないの?」

「もちろん、ほとんどの人がそうなんだけどね。

ただ、あまりにも突然に死が訪れると気が付かない人もいるの。」


亜由の説明によると、例えば交通事故などで即死した場合など、

自分の身に何が起こったのか認識する前に死んでしまうことがあるらしい。

そして、そのような場合、魂は現世に留まり続けるのだそうだ。

巧一朗は、亜由の話を聞きながら改めて鉄塔を見る。

「じゃああの人はこれからもずっと・・・」

「自分が生きていると思ってるから危害は加えないだろうけど、・・・

成仏させるのも難しい・・・」

亜由は申し訳なさそうに俯く。

「でも、どうして亜由先輩はそんなに詳しいの?」

「それは・・・」

亜由は少し言いづらそうに口籠る。

「・・・卒業した先輩方の受け売りよ。モトちゃんじゃこういうの分かりずらいから、

私が知識として覚えてるの。」

「・・・そうですか・・・」

亜由はそれ以上語らなかった。

「・・・あっ、ごめんなさい。こんな話をするためにここに来たんじゃないよね」

亜由は慌てて話題を変える。

「あ、そうだ渡さなきゃいけないもんだ会ったんだ!」


「渡すもの?」

「そうそう、これ。」

亜由はカバンの中から封筒を3通取り出し、巧一朗に見せた。

「これは・・・」

「これをこうしてっと・・・」

亜由は手に持った封筒をシャッフルする。

「はい、好きなの選んで」

「好きなのでいいんですか?」

「うん、どれでもいいよ」

巧一朗は言われて通り適当に封筒を手に取る。

「ありがとうございます・・・」

「どういたしまして」

「・・・あの、ちなみに中身は何が入ってるんですか?」

「うーん、秘密。そうしたらこれをここに届けてほしいんだ」

亜由はメモ用紙を取り出し、そこに住所を書く。

「はい、お願いします」

「了解です」巧一朗はメモを受け取り返事をする。

「じゃあ私の家はこっちだから。」と

分かれ道を帰っていた。

巧一朗は帰りながらメモの住所を見て

「えーとここって…商店街のところか・・・初めて行くところだな」

と行先の住所を確かめていた。


一方亜由は、ある場所に電話を掛ける。

「あ、もしもし麻耶さん?言われたとおりに1通だけ封筒渡しといたよ。

じゃあうちの新入部員をよろしくお願いしますね。」

そう言って電話を切った。


つづく

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