夕暮れ時の赤の章
拾参話「前世」
キン!キン!
またこの夢だ。
夢の中で俺は侍で、戦に出る。
そして数々の敵を斬りつけ絶命させる。
キン!ズバッ!
それはまるで呼吸をするかのような鮮やかで違和感のない立ち回り。
そして必ず一人の男と一騎討ちになる。
男が刀を振り下ろし、俺も斬撃を浴びせる。
そして二つの刀が交差した時、夢は終わる。
ムクリ
眠そうな顔で机から顔を起こす。
「なんだろこの夢。」
「「なんだろこの夢。」じゃねーだろ。」
ゴチン。鈍い音を立てて少年はまた机に突っ伏した。
「いってぇ!何すんだよ!」
反射的に言葉を返すと視線の先には見知った眼鏡の男が異様な雰囲気で立っていた。
「何すんだよじゃねーよ。授業中なんだよ。毎度毎度眠りこけやがって
「あ…オト先じゃん。」
目の前の教師はもう一度頭を小突いて教卓の前に戻っていく。
「次寝たらお前単位やらねーからな。」
クスクスと笑い声が教室にこだまし、美宙は頭をさすって小さくため息をついた。
「これはあれだぜ?陰謀だ!」
縦浜高校、その学生食堂。
毎日生徒の半分以上が集い昼食をとる。
オススメは唐揚げ定食。お手制からしマヨネーズをかけるのが主な主流で学食の定番だ。
その学食の端っこ窓際の席。
そこで友人達に息荒々しく訴える少年がいた。
「陰謀ってよぉ。お前が毎日昼寝してるだけだろ
「そうだよアスミ。てかちゃんとしてよ。オバさんに怒られるの私なんだからね。」
頭ごなしに否定してくる二人に少年、
「いや!違うって!聞けって!」
「いや聞いてるって。毎日同じ夢を見るんだろ?」
「んでそれが何者かの陰謀だってんでしょ?バカバカしい……。」
完全に疑い馬鹿にしたような視線で二人は美宙を見ていた。
美宙は右手を強く握りしめる。
「けどおかしいだろ!?毎日同じ時間に同じ夢を必ず見るんだ!陰謀じゃないなら何らかのメッセージだ!どうだ!アオイ!カイウン!」
二人の友人、
美宙とは普段から適当な男ではある。
大抵の事は器用にこなすし全力で熱血に動いているのは見たことがない。
しかしこういうトコロで意味のない嘘をつく男ではない。
何よりこれほど熱く語るなど幼馴染の宙美ですら初めて見たほどだ。
そんな時ふと宙美が「あ。」と声を出す。
「何度も同じ夢を見るってさ。あれとかよく聞くじゃん。【前世の記憶】ってやつ。」
少し楽しそうに宙美は笑うが男子二人は疑いの目で見た。
「前世って……。」
「アオイそういう話好きだよな。」
男子二人の反応に目を釣り上げて宙美は指をさす。
「話聞いてやってんでしょ!」
どうどうと宙美を治めて宇野は美宙を見た。
「けど無い話でもねーよな。どうするアスミ?」
方法を与えられた美宙は考えながら空を見上げる。
「………夢の中で見た場所に行ってみるか?」
美宙の発想に宇野はニッと笑った。
「いーじゃん。そういうの面白そうだわ。」
「確かに。ホントに前世の記憶なら実際にある場所だもんね。」
宙美はピシリと指をさした。
「そんで?行く場所の目処は立ってんの?」
宙美の質問で美宙はまたもや頭を悩ませる。
夢の中で見た場所と言えど記憶とは不確かなモノだ。
しかし美宙はドコか確信めいたモノを持っていたのだ。
既視感と言うべきか。どこか知っている場所のような気がしてならないのだ。
「…………あ!」
何かを思い出し、美宙は足早に食堂を出ていった。
「え?ちょっとアスミ!」
二人は訳が分からなかったが美宙の後を追うことにした。
「ちょっとアスミ!どこいくの!」
宙美の注意はなんのその。美宙はグイグイとある場所へ向かっていく。
その場所の前に辿り着いた時ようやくどこに向かっていたのかが分かった。
「……図書室?」
縦浜高校西館にある図書室。そこが美宙が目指していた場所だった。
「ここで何を見るんだよ…?」
突然の友の行動に怪訝な表情で宇野は机の横に立つ。
美宙はパラパラと取り出した本をめくっていく。
ピタリと手を止めて本を二人に見せた。
「ずっとどっかで見た気がしてたんだよ。そしたらこないだ授業でやったのを思い出したわけ。」
二人は本を覗き込む。
「「小塚天空公園?」」
美宙は二人の反応に頷いた。
「そう。こないだやった地元調べる授業でさ。あの公園って確か昔、戦があった場所だろ?なんか見覚えがあったんだよな。」
小塚天空公園。それはこの街にある大きな公園であり、その昔歴史の裏で戦があったとされる場所だ。
「ここに行きゃあなんか分かるだろ!」
「じゃあ行くか!」
男子二人は頷き合い立ち上がる。
しかし唯一の女子、宙美は二人をたしなめる。
「いやいや!まだ昼休み!授業あるから!」
と言うが二人はニカッと笑って図書室を出た。
「小塚天空公園はそこそこ距離あっから今から行ったほうがいいべ!」
「まぁあれだ。面白そうだし俺もアスミについてくわ。」
そして二人は声を揃えた。
「「じゃあ先生に適当に言っといて。」」
いつもこの二人に迷惑をかけられるのは宙美なのだ。
「ちょ……うそぉ!」
そそくさと美宙と宇野は学校をあとにした。
小塚天空公園。
大きな敷地に緑の芝生。
公園と言っても遊具があるわけでなくただひたすらに大きな土地と広大な自然が楽しめるここはデートスポットとしても人気だ。
しかしその公園には中心に一つ小さな石碑が設置されている。
明治中期頃に建てられた物らしくそこから現代までこの石碑だけはこの街の市長は決してどかさない。
人によってはど真ん中に設置されているこの石碑をどかすか壊してほしいという意見も出ているというがそれでも歴代の市長は首を縦に振らないのだ。
幼い頃からあるものだけあって特に気にした事も無かったが初めて、この石碑に着目した。
「なんか文字書いてあるな。」
墓石とは違う書き方。
美宙は文字をじっと読んだ。
「『明治二十五年。命を賭した二人の若者、我が友、小塚空。我が敵にして我が友の友、沖田天。二人に感謝と敬愛の念を込めてここに二人の生きた証を残す。 館浜正義。』」
美宙と宇野は目を見合わせて、もう一度石碑を見た。
「………小塚…
令和五年。美宙空澄は動き出した。
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