純白の章
漆話「新たな出会い」
生きている限り夜になり陽は沈む。
しかしそれでも歩いていればまた朝になり陽は昇る。
時間は勝手に進むけど時々ゆっくりに感じる事もある。
夜が長く感じる事がある。
多分そういう時は無理に歩かなくてもいいのだろう。
朝になるまで立ち止まってみるのも有りかもしれない。
夜じゃなきゃ星の美しさは分からないから。
「俺はあなたにそう教わったよ。『 』。」
天に昇る火は轟々と燃え盛る。
空はただ静かにそれを眺めていた。
空は一人歩いていた。
別段、目的があるわけではない。
いやそもそも生きている中で目的を持っていた事は空には無いのかもしれない。
刀を握ったのも人を斬ったのも自分の意志ではない。
ではなぜ彼は今歩いているのか。残念ながらその答えはまだ彼には出す事ができない。
大切な人を失った絶望か。はたまた生物としての生きる本能が彼を何処かへ向かわせているのか。
その答えが出るかは分からないが空がこれから辿り着く場所にはその答えに導く【公式】があるかも知れない。
空の人生に大きな影響を与える二人目の存在。
敢えて初めに言ってしまおう。
空に影響を与えるその存在。ひとまず
彼女は空に大きなモノを与える。
しかし彼女はその代わりに命を落とす事となる。
なぜそうなってしまうのか。
その理由は空もこれから知る事となるだろう。
とぼとぼと歩く空はもう何日歩いたか分からない。
取り敢えず太陽が昇る回数を数えるのはやめた。
「………。」
足がおぼつかない。
これはいわゆる【疲れ】というものだが空は疲れる程動いていたのは今回が初めてであり今何故足がふらつくのかが分からなかった。
しかしそれでも足は止まらない。
止まっていい気がしなかったのだ。
「……めて!離しなさい!」
近くから女らしき声が聞こえた。
特に意識はしていないが空は反射的に声の方へ振り向く。
そこには林の中で帯刀した二人の男に腕を掴まれる少女がいた。
髪が長く背は高くない。
歳は空より少し上だろうか。
女性らしい空色の着物が目立つその少女を空はじっと見た。
走馬灯の一つなのか。それとも雰囲気が似ていたからなのか。
その少女が空には一瞬碧に見えた。
見えた瞬間には空はもう相手の男の腕を斬り落としていた。
「…え?ぎゃあああ!」
ボトリと神経の通わなくなった腕が地に落ちる。
「なんだてめぇ!」
もう一人の男が刀に手をかけ腕を振り抜く。
しかし振り抜かれたのは男の肘より上だけだった。
「うぎゃああああ!」
倒れ込む二人の男にとどめを刺そうと空は刀を振り上げる。
だがその腕は振り下ろされる事なく宙で止まった。
少女が焦った表情で止めたからだ。
「そこまでしなくてもいいよ…!」
少女の小さな手は別段強い力ではない。
だが空の腕は止まったままだった。
「ひ…ひいいいい!」
「た、助けてくれぇ!」
空が少女をじっと見ている間に血の流れる腕を押さえながら男達はそそくさと走り去っていった。
男達が去っていったのを確認して少女は空の腕を離した。
「取り敢えず……ありがとう。助けられたわ。」
【ありがとう】。空はこの言葉がどういう意味を持つか知らなかったが取り敢えず頷く。
ゆっくり刀を納める空を見て少女はキッと目を鋭くした。
「けどあそこまでする必要はない!人を斬るなんてやっちゃいけない事よ!」
力強い声で少女は空を睨んだ。
その声色や雰囲気は碧とはまるで違う。
だが何故か空の中でこの目前の少女が碧と重なってしまうのだ。
「名前は?」
やっと喋ったかと思うと名前を聞いてきた謎の少年に少女は首を傾げる。
しかし真っ直ぐと目を見つめる不思議な少年に少女は何故か怒る気を無くした。
少女は小さく息を吐いて答える。
「私の名前は
少女『白』は名前を答えるとじっと目を見つめる空からパッと目を逸らした。
「貴方の名前は?」
空は目を見つめたまま答えた。
「俺は空。」
空はニッコリ笑い、白は少し頬の色を熱くした。
失った大切な人と重なる少女『白』。
空にとって大切な新しい出会い。
そして実は空に初めて「人を斬るな。」と言った存在でもあった。
人を斬る事で生きてきた空と【不殺】を求める白。
二人の出会いから、また空の物語は始まった。
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