弐話「【 】と【 】。少年は二つ知る。」
「ねぇあなた聞いてるの?な・に・し・て・る・の。」
父以外に話しかけられたのは実は『 』にとって初めてだった。
しかし『 』は父に【会話】を教わっていない。
『 』は自分に声をかける不思議な生物をじっと見つめた。
碧は確実に反応しているのに言葉を発しないこの少年に首を傾げる。
すると『 』も生まれたての赤子のように反射で首を傾げた。
碧は少年の行動を不思議に思い右手をサッと上げてみた。
すると『 』は碧と同じように右手を上げる。
続けて碧が左手を上げると『 』も真似して左手を上げた。
「……ぷっ!何これ!」
突然始まった遊戯に碧はケタケタと笑う。
しかし『 』は初めて見る【笑う】という行為に目を丸くして驚いた。
碧はひとしきり笑うと自分をじっと見つめる少年を見つめ返した。
「あなた赤ちゃんみたいね!」
碧はニッコリと笑う。
対して『 』は碧の発する言葉に取り敢えず頷いた。
碧は尚も不思議そうな顔をして少年を見る。
「もしかしてあなた喋れないの?」
碧は不思議そうに聞いたが実はこれは合っていた。
『 』は【喋る】を教わっていない。
その為父には標的は絵と場所でいつも教えられていた。
【喋る】事も【答える】事も知らない。
しかし不思議な事に『 』はこの時自らの意志で口を動かした。
「あ……あ……。」パクパク。
パクパクと口を動かし声を発する。
『 』は人生で初めて自分から意志を示したのだ。
碧はニッコリ笑った。
「じゃあ明日から私が色々教えてあげるね!」
ニッコリと笑う碧に反射するように『 』は不器用に口角を上げてみせた。
この行動も、『 』にとっては初めての事だった。
返ってきた不器用な笑顔に碧はその場を嬉しそうに立ち上がり楽しげに去っていった。
『 』も暗くなるまでその場で座り、家へと戻った。
この日『 』は【声】を知り【笑う】を覚えた。
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