涙の味を教えて
とがわ
涙の味を教えて
恋愛で流す涙は、一体どんな味がするのだろう。
親友の神崎が恋人と別れたと、泣きながら言ってきた時、慰めるよりも先にそんなことを思った。
話によると、神崎はまだ相手のことが好きらしい。好きならばなぜ別れるのか、それは相手が浮気をしたからだ。
「そんな奴、別れて正解だよ」
酒と涙でぼろぼろの神崎に、そんな言葉をかけても彼女はそれを素直に受け取ってはくれなかった。
浮気は病気だと、よくそんなフレーズを耳にするがそれは正しいように思えた。神崎の彼氏はもう浮気をしないと誓ったにも関わらずまたそれを繰り返して平気で嘘をついた。気づかないとでも思っているのか、男は能天気な獣だ、と腹が立った。
浮気を一度でも許容した神崎にも呆れるが、そこまで執着してしまう想いは一体どんな色をしているのだろうとも、思わなくない。
神崎は依然、泣きながら同じ内容を繰り返しわたしに伝えた。もう耳タコだと思っても泣いている手前そんなことはいえずにつまみを口に運ぶ。
「浮気するってことは、その程度なんだよ。裏切られてるのにまだ好きなの?」
その言葉は恐らく核心をついていた。だが今の神崎にとってそれは少しばかり刃が鋭すぎたらしい。
「なんでそんなことばっかいうの!」
酒が回っていることもあってか、神崎の感情は真っ直ぐに飛んできた。神崎が怒って、傷つけたのだと気づいた。気づく頃にはいつも遅く、ごめんと謝ることしかできないのが情けなかった。
「でも、時間が解決してくれるよ」
「うん……」
わたしの言葉が傷つく原因になるのかと怯えて、その後は当たり障りない言葉をぽつりぽつりと落とした。神崎は落ち着いて、いつしか眠った。
涙で頬を、身体中をたくさん濡らしている。昨夜も何度も泣いて擦ったのだろう、眼の周りが赤く腫れている。
何をそんなに依存しているのだ。目を覚ませばいいのに。そいつは神崎を裏切って浮気をする人間だぞ。たった二年でどうしてそんなに涙を流すんだ。わたしとはもう八年の仲だろう? わたしが離れたら同じ様に泣いてくれるの? 同じ味の涙は流れる? 同じ色の想いはどこへいくの?
「バカ。馬鹿だよ本当」
届かない言葉がだらしなく宙を舞う。瞳に涙が溜まる。必死に力を込める。流れ落ちないように。口に入らないように。
それでいい。
涙の味を教えて とがわ @togawa_sora
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます