T中学校の怪談(■■県の怪談/南景貴編)
・階段を登る死学生
T中学校の学生棟、一階から三階までの階段を、夜になるとうろつく男子学生がいるのだという。
古めかしい学ランと学帽の、一見して現在の生徒とは異なる格好で、夜な夜な階段をよろよろと登っては降りを繰り返している。それだけでも異様だというのに、噂によれば彼の顔は血にまみれており、もし目が合ってしまうと祟られるということだった。
幸いなことに彼が徘徊するのは生徒が下校した夜、それも真夜中近くであったため、宿直の用務員や遅くまで残業している先生が気を付けていればいいだけのことではあった。だがそれでも悪ガキ連中が肝試しと称して忍び込むこともあり、場合によっては病院沙汰になるようなこともあったそうだ。
先生方も勿論ただ見逃していたわけでもなく、生徒の目を盗んで幾度となくお祓いや供養を繰り返したのだが、一向に効き目はなかった。それでも何もしないというわけにもいかず、とうとう県で一番の法力と徳を持つと評判の坊主を呼んでお祓いをしてもらった。教員たちはこれで安心と胸を撫でおろし、肝の据わった数学教師が効果を見届けたいとその日の夜番を買って出た。
果たせるかなその真夜中、忽然と現れた死学生はいつものように階段を登り始めた。固唾を飲んで物陰からその様を見守る数学教師には気づきもせず、彼はただ悲しそうな横顔を血に染めて、コツンコツンと足音を立てながら一晩中階段を歩き回っていたという。
古い先生の中にはその素性を知っている者もいたそうだが、今となっては誰もその正体も因縁も知らないのだという。
(S42 T中学新聞部)
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