かみのけ座

「面白いものが見えてきましたよ」

そう言って男は窓の外を指差した。

「かみのけ座です」

「かみのけ座?そんな星座があるんです何ともか?」

ええ、もちろんです。そうして男はさらに続けた。

「夫の帰りを待つ妻が夫のことを思い、供えた彼女の美しい髪が星座になった」

健人の顔がひきつった。

「それは何とも羨ましい話ですね」

そう言って健人は少しだけ男を睨んだ。

「分かっていますよ、私が悪いのは」 

男は微かに笑いさらに続けた。

「無数の星が集まって、かみのけ座は構成されます。よーく見てごらんなさい」

健人は素直に目を凝らした。赤、白、青、黄、色とりどりの星があるのは分かる。

「あなたにしか分からない色の星があるはずですよ」

とりわけ品良美しく光る白色の星が健人の目に留まった。

「…あ」

「見つけましたね」


その星は普通の人から見れば、純白に輝くやや小ぶりの星に過ぎない。だが彼の目に映るのは純粋で、愛に満ちた、清廉で、悲しそうな光だった。


「私の妻、沙羅の光です。間違いありません」

「かみのけ座を構成する星は、大切な人の帰りを待つ思いで出来ているようです。もっともそれは当の本人にしか分からないものです。沙羅さんの星があそこにあること、それは沙羅さんがあなたを待っているということです。そして、その星の光が分かるということは健人さん、あなたが沙羅さんのことをしっかり愛しているということですよ」


嬉しかった。申し訳なかった。

自分はとうとう何もかも踏みにじってしまったのだ…。


「帰れますよ」

「…はい?」

「あなたは帰れますよ。あなたを愛している奥さんの元へ」

「…だってさっきは…」

「必ず帰れるということは言いませんでしたが、あなたを待っている人がいる限り、帰ることが出来るのです。そして、多くの人にはその帰りを待っている人がいるものですよ」

そうですか、そうなんですね。

健人の目から温かな涙が一筋流れた。


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