夜行列車に乗って

「あの、一つ聞いてもよろしいですか?」

「はい、なんでしょうか?」

「この車両は、昔ブルートレインに使われていた物ですよね?幼い頃に私が乗ったものにそっくりです」

「その通りです」

「それが今、どうしてここにあるのですか?」

「そうですね…。私もこの列車に関してのことはほとんど知らないのです。しかし私はこう考えます。人が命を失うと果てしなく輝く星になるように、この列車も廃車になり星になったのではないかと。もっとも、星にも寿命はありますが」

非科学的な話だが、これには妙に納得した。

「もう一つ。あなたは一体何者…、どうしてこの列車に乗っているのですか?」

「私は既に死んでいる者なんです。天で就く仕事として、この列車の車掌を請け負いました」

「それでは俺も死んでいるのですね?」

もう一度健人は問い質すように男に聞き直した。

「それについては何とも言えませんよ」

「でも天にいるということは死んだということじゃないんですか?」

健人の真理を突くような指摘に、健人に対して優しい顔をしていた男の顔が少し強張った。健人は男から目線を逸らすように窓の外を見た。


列車はカーブに差し掛かっていた。窓の外に映る前の車両を見て健人はあることに気付いた。

「この車両は随分と塗装が剥がれていますね。まるで銀と青の斑模様のようだ」

「えぇ、もう長い間走っていますし、塗り直すことも出来ませんから…。青の塗装は風の抵抗で少しずつ削り取られるのです。削り取られた紺碧の塗料は風で吹かれ、それはそれは綺麗な淡い青の尾をつくります」

健人は再び窓の外を見る。そしてまたあることに気付いた。彼は星座を見分けることは出来ない。だが窓の外にかに座があるのが分かった。星座を構成する星の背後でうっすらとその形が描かれているのだ。

ーー良かった。これで着くまで少しは楽しく過ごすことが出来る。

初めて星座が分かったことに、健人は少し興奮していた。


窓の外を見つめる健人は自分の勘違いに気づく由もない。男はそんな健人をしばらく見つめてからまた窓の外を見た。

ーーそろそろかな


二人を乗せた列車は急カーブで大きく速度を落とした。




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