乗車

次に目を開けたとき、健人は列車の中に居た。

「?!」

それは彼がまだ幼かった頃、一度だけ見たことのあるような光景だった。貫通扉を挟んで奥に見えるものは普通の列車には付いていないものだ。


「こんばんは」

反対側の貫通扉から一人の男が出てきた。「初めまして、この列車の車掌をしております」

50代前半程で白髪交じりの髪の毛。「車掌」と言うが着ている服はただの私服でいわゆる鉄道員のそれではない。

「戸惑っていらっしゃるようですね。信じられないかもしれませんが、この列車は、天空を走っているのですよ」

窓の周りには無数の星が見える。郊外ではあるが東京暮らしの健人にとってその光景は余りにも壮観であった。

「どうして私はそんな列車に乗っているのですか?」

「あなたの目の前に表れた木造の駅。あの入り口をくぐり抜けたことはある意味ではこの世で生きることから逃避したとも言えます」

「…俺は二度と現世には戻れないのですか?」

「それについてはなんとも言えません」

健人はその言葉の意味を悟り、男の優しさを感じた。自分でしたこととは言えども、後悔の念を感じずにはいられなかった。あんなにも逃れたいと思っていたのに。この列車もやはり南十字座に行き着くのだろうか?










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