Girls Trip ~the sand world~
@-Mochi-
第1話 醜い世界
あたり一面の砂の海、そんな中1台の小さく、黄色い車が排気ガスの音をお構いなしにまき散らしながら進んでいく。
車はボロボロで、今にもパーツすべてがバラバラになってしまいそうで走れているのが奇跡のようだ。
そんな車の中から、
「ちーちゃーん、おなかすいたよーっそろそろテント張って休まない?」
喚き声が聞こえた。
この甲高い声を上げているのはシショ―。
髪はぼさぼさ、短髪で金髪、低身長。腰にはハンドガンをつるしていて、背中には単発式のライフルを背負っている。
ちーちゃんと呼ばれた人間は
「まだ明るいし全然進める、テントはまだ張らないし休まないぞ。」
そう運転をしながら言った。
この少し声の低い人間はチョコ。
チョコは身長が大きく、サラサラの美しい黒のロングヘアがなければ男と見間違えられてしまうほどだ。
腰にはシショ―と同じようにハンドガンをつるしている。
「む!ちーちゃんのけち!だいたいシショーってゆー名前は私の国で偉い人って意味だったんだよ?偉い人には逆らわないのが賢明だよちーちゃん…」
シショ―は納得いかない様子で文句を言う。
「名前なんて誰かさんがテキトーにつけたものなんだ。チョコって名前は自分の国では甘いお菓子って意味だぞ?」
「でもちーちゃんは全然甘くないしきびしいよねー」
「そーゆーものなんだよ。」
「なるほどねーっ」
そんな軽口を叩きながらなにも変わり映えのない砂の世界を2人は進んでいく。
「ところで次の国にはいつ着くの?」
「さあな、とりあえずこの山を登ろう。山の上からならなにか見えるだろ。上に着いたらテントを張って今日は休もう。よいしょっとー」
山と言っても緑鮮やかな山ではない。砂の山だ。
山を登っているうちにまたシショーが喚き出した。
「はぁ…はやく国に着いて新鮮な肉と生水が飲みたいなぁ…最近なんて保存水とイモしか食べれてないよー」
「仕方ないだろ、旅をしているんだから保存の効くものを食べるのは必然的だ。しかし保存水は不味いな…」
チョコがあやめた。
だがシショーの不満は止まらなかった。
「食べ物だけの問題じゃあないんだよ!大体こんな砂ばっかの景色もう見飽きたよ!何か変化ってものが欲しいよ!」
「じゃあ運転変わるか?少しは暇じゃなくなるかもな。」
「私は運転できないよー、運転するためにちーちゃんがいるんだからっ」
「けっこう酷いな…まあいい、自分は運転するためにいてお前は戦うためにいるんだ。自分は動くのが得意じゃないし、戦いが大の苦手だからな。」
「あったりまえよ!私の戦いはすごいんだから!」
またまた、チョコがあやめた。
実際、シショーの戦闘能力は凄まじかった。
銃だろうがナイフだろうがなんだろうが2人を襲ってきた人間たちは今まで全員殺した。
なのでこうして今も旅を続けられている。
女2人で旅をしているという事は、女2人で旅ができるという事なのだ。
しばらく走っているうちにチョコは急に緊迫した様子でマヌケな顔で寝ているシショーに話しかけた。
「起きろシショー。前から車が来てる。ライフルを構えておけ。」
シショーはかったるそうに起き出して
「まったくちーちゃんがやればいいのにーまあ銃を撃つのが役目らしいからやるかーっ、
※
この世界では山賊や海賊とおなじような立ち位置
そう言って米粒程度の大きさの、向かってくる車に向けてライフルを構える。
車はみるみると大きくなっていき、運転手の姿が見えるまでに大きくなった。
運転手は車の窓から大きく手を振っている。
「どうやら砂族じゃないかもしれないな。ライフルをまだ構えておけ。もし砂族じゃなかったら次の国までの距離とか聞いてみよう。」
「おいしい食べ物もってるといいなあ…」
シショーはまだ言っていた。
車はとうとう声を交わせる程度まで近づいた。
「あのー!お話大丈夫ですかー!」
チョコとシショーは車から出て大声で叫んだ。
向こうの車からも男が降りてきて
「大丈夫だー!少し待ってろー!」
と言ってこちらへ向かって歩き出した。
安全そうではあるが3人とも銃を構えている。
砂漠ではいつだれに襲われてもおかしくはないのでごく自然なことである。
やがて握手を交わせる距離まで近づいた。
男は
チョコは相手を探るために、
「こんにちは、広い砂漠でお会いできて嬉しいです。私たちは旅人です。あなたはなんですか?」
と言った。相手が野蛮な砂族であるならこの時点で自分が砂族である事を暴露し、相手を脅す。
しかし相手からは、
「こんにちは、ボクもお会いできて嬉しいです。ボクも旅人です。」
意外にも紳士的な答えが帰ってきた。
チョコは、
「お聞きしたいのですが、この先の国に行くにはあとどのくらい行けばいいでしょうか?」
と言い、
「銃構えたまんまでごめんねー」
シショーが継ぎ足した。
チョコとシショーはとても警戒しているが、男はそんなことを一切考えている素振りを見せずに、
「この先の国なら1日か2日もあれば着きますね。水源があり、食べ物もおいしい国でした。」
と言った。
チョコとシショーは男を野蛮な砂族ではないと判断し、銃を降ろした。
シショーは食べ物のことしか頭になく、
「疑っちゃってごめんねー、それよりおいしい食べ物の話をきかせて!」
と言った。
男は感動した様子で、
「おお!いいですよ!あなた達はボクを信じてくれる優しい方達なのですね!」
と言った。
その直後に
「同時にバカな人たちでもありますねッ!」
と言い、いきなりシショーの頭にハンドガンを突きつけた。
「銃を地面に捨てて手を頭の上にあげてください。しなければどうなるか分かりますよね?」
そう言うとシショーの頭にハンドガンをグイっと押しつけた。
「あなたもその銃を捨てていただく事は出来ますか?」
チョコはいたって冷静に命令に従って銃を捨て、相手に問いかけた。
このような時に反抗すれば危険な目に遭う事は知っている。
「それはできませんねー。私はバカで野蛮な砂族なんかじゃありません。賢い砂族なんですよね。能ある鷹は爪を隠すんですよ?」
男は今までと同じように落ち着いた雰囲気で話した。
そんな中シショーは、
「食べ物の話してくれるんじゃなかったの!?この裏切り者ー!」
1人だけ怒っていた。
「もしかして私たちに変なコトする気!?このヘンタイ!」
男はシショーの言葉にイラついたのか、シショーの腹を思いっきり殴った。
シショーは小さくうめき声をあげたかと思うとすぐに静かになり男の体にもたれかかった。
「ボクは、あなたやこの喚いているバカの体には興味ありません。ボクは金目のものが欲しいんです。とりあえず車の中を見させてもらいますよ。」
男はぐったりしているシショーを連れ、車を漁ろうとチョコに背を向け、車に近づいた。
その瞬間チョコは靴に隠し持っていたナイフを取り出し、相手に突き立てようと全速力でナイフを持ち、
「はああああああっっ!」
そして突っ込んだ。
しかしチョコの全速力があまりにも遅すぎて簡単に避けられてしまった。
勇気の叫び声が砂の世界に溶けていく。
避けられてしまったので勢いのあまりチョコは倒れこんでしまう。
「まさかナイフを隠し持っているとは思いませんでしたよ…あなたはこのバカと違って賢い人間だと思っていたのですが…あなたもこいつと同じだったようですね。まあ自分の運動のできなさと愚かさに反省しながら死んでください。」
そういって男はチョコに哀れみの目を向けながらシショーに突き付けていたハンドガンをチョコに向け、トリガーを引こうとした。
その瞬間、男の胸に猛烈な熱さが走った。
男は何が起こったのかよくわかっていない様子で、自分の胸を見た。
するとそこには、正面に、見慣れた尖ったナイフが刺さっていた。
じわじわと紅の液体が胸に広がっていく。
男は衝撃と胸の熱さ、痛みのあまり倒れこんでしまった。
その時、つい先ほどまで男に寄りかかって黙っていたシショーがまるで狐のように素早い動きで男から逃げ出し、
「能あるバカは爪を隠すんだよ!!」
そう言って素早い手つきで腰からハンドガンを取り出し、男の頭へとトリガーを引いた。
「ちょっとま
何かを言いかけて男の顔が散らばった。
男の柔和な顔はただの肉片へと変わり果てていた。
非力な男の声と鼓膜を破るような銃声が砂の世界に溶けた。
チョコは何が腰を抜かして何が起こったのかわかっていない様子で口をパクパクさせていた。
「こーゆときちーちゃんって頼りないよねーっお礼の一つぐらい言ってもいいんだよ?」
シショーはニヤニヤしながらそう言い、チョコに手を貸した。
「あ…ああ、ありがとう。」
チョコは照れ臭そうにシショーの手を力強く掴み、立ち上がった。
「さてと!戦利品タイムだよ!何かおいしいものはあるかな?」
シショーは結局そればっかり考えていた。
結局それから山を登り続け、夕暮れ時にやっと頂上に着いた。
やけに夕日がきれいだった。
暗くならないうちにテントを張り、ご飯にした。
シショーは目を光らせながら今日のご飯を眺めた。
「へへへへへ…さっきの砂族が生水を持ってたんだ…えへへ…」
そうにやけながら言った。
シショーは何も考えずに生水を思いっきり飲む。
しかしチョコは何かを考えている様子で沈んでいく夕日を見ながら、少しずつ生水を飲む。
チョコは独り言のつもりで、
「世界には醜く、自分のことしか考えない人間がたくさんいる。優しそうな見た目をしていても今日のようにだましてくる人間もいる。なあシショー…」
チョコは沈んでいく夕日をより一層強く見つめながら言う。
「’’世界は醜い、なのになんで世界はこんなにも美しいんだろうな。’’」
チョコは独り言のつもりで言ったので答えは求めていなかったが、
「そんなの決まってるよ!生水がおいしくて、太陽がきれいだからだよ!」
シショーが答えた。
何も考えていないであろうシショーの発言にあっけをとられたチョコだったが、
「ああ…そうだな…」
沈んでいく太陽と、ぼやけた地平線の向こうにあるかもしれない国を見つめながらそう言った。
彼女らの旅は続いていく。
1話 完
(いつか2話書くかもねー)
(初投稿です。まだまだですが楽しんでいただけたら幸いです。)
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