考えるべきこと

数日が経った。あの日以来、エフは管理室に顔を出していない。施設で顔を合わせても気まずいだけで互いに無言の時間が続くだけ。ケイティとヴィーナも黙っていられなくなったのか、農作業を終えシャワー室に戻る前に僕は問い詰められていた。


「エフっちになにしたっすか? 変なことしてたらただじゃすまさないっすよ」

「そうだな、たっぷりしぼってやらないと」

「ちょ、ちょっと待って。なにもおかしなことは、してない、と思う」

「なんすか、歯切れ悪いっすね。言い訳があるなら聞くっすよ」

「カナタ、白状した方が楽になるぞ?」



 拳を鳴らし、じりじりと迫ってくる二人。やらかしたと言えばやらかしているのだが、どう説明すべきだろうか? 告白してフラれて口をきいてもらえなくなった。笑われるか同情されるか、結果は見えているような気もするが、同じエンドとして彼女たちはどう思うのかも気になる。正直に話して意見を聞くのも悪くない、と僕は甘い考えで二人に話すことにした。


「やめた方がいいっす」


 甘い考えを打ち砕くように、ヴィーナはきっぱりと告げ真剣な眼差しで僕を睨む。


「ウチら、エンドっすよ? 恋だの愛だの、人間とヴェリムの間で芽生えることは否定しないっすけど、残り一年切ってるんすよ? いつ死ぬかもわからないっす。もしかしたら、明日死ぬかもしれないっす。そんな相手と結ばれたって辛くなるのは残されたカナタっち。よく考えて行動した方がいいっす」

「わかって……」

「わかってないっすよ。カナタっちはまだヴェリムとの別れを知らないっす。まして、一番最初に別れるかもしれない相手が好意のある相手かもしれない。仲良くなって今、改めて言うのは残酷っすけど、ウチもケイティもエフっちも近い将来いなくなるっす。もう一度、ちゃんと考えてほしいっす。カナタっちはウチらに生きてて良かったって思わせたいんすよね? なら、個人的感情に走るのはオススメしないっす。……大丈夫っすよ。エフっちには上手く説明しとくんで、二人がぎくしゃくしてるの、いつまでも見てられないっすから」


 反論の余地もないまま、ヴィーナは言い切って去っていく。

 硬く握った拳に力が入る、自分が抱いていた甘い考えへの怒りだった。言われた通りだ、僕の行動はエフのことを考えていなかった。ただの独りよがり、自分の気持ちを伝えるのに必死で、エンドとなったヴェリムの気持ちを考えていなかったのかもしれない。


 感情も想いも、ぐちゃぐちゃだった。好意を伝えてなにをしたかったのだろう。

 仮にエフと結ばれて、僕はなにをしようとしていたのだろう。


 ヴェリムに恩返しするという夢を叶えるためにここまで来たのに、私情を優先させてしまったのは僕がまだ気持ちを割り切れていないからだろう。エンドに向き合うことが僕の仕事だったはずだ。もう、恋心は忘れなくてはいけない。


 タブレットの通知音が鳴る。メッセージを確認すると、軍本部に赴いての健康診断のお知らせだった。


「ち、近々本部に行かなくちゃならないみたいだ」


 なにかを隠すように声を上ずらせながら残っていたケイティに説明する。


「そうか。なあ」

「なに?」

「その用事、オレもついて行っていいか?」

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